10代でデビューした孤高の天才はいま、気の置けないバンドメイトたちと視線を交わし歌う。マジカルな音の鳴る2枚組は長い旅路の果てに届いた宝物だ!
このバンドなら録音できる
7月31日の〈フジロック〉には前作ツアーで結成されたストレイ・バンド(Kan Sano、小川翔、Shingo Suzuki、山本達久)と、9月4日の〈Local Green Festival〉には細井徳太郎ら主に20代のミュージシャンたちからなる新バンドと出演。ステージ上のメンバーたちと呼吸を合わせながら演奏して歌う七尾旅人は、純粋に音楽そのものを楽しんでいる。両方のライヴを観ていて、そう感じた。
「もともとバンド志望で、メンバー探しのために高校を中退して16歳で上京したんですが、40過ぎてやっと叶ったという(笑)。僕の普段の弾き語り演奏は、間合いとか音量の扱い方がけっこう独特で、それに特化すればするほど、ますますバンド化するのが難しくなった。昔はいまほどフェス・シーンとかにもシンガー・ソングライターの居場所がなかったので、どうすればバンドにできない凄いことができるか、独りで立つことの意味は何なのか、試行錯誤を重ねていましたね。でも、前作『Stray Dogs』(2018年)のレコーディングで集まったメンバーとのツアーが、このまま1枚録れちゃうんじゃないかって思うくらいによかったんです。自分の曲はバンドでは録れないと思い込んでいたけど、このメンバーとだったらいけるなと思った。人生、遅すぎるってことはないんだなぁと思いましたね。20年以上経って夢が叶うというのは嬉しい経験でした」。
当初はストレイ・バンドと丸々1枚録って、2021年中に発表する予定でいたそうだ。しかしコロナ禍におけるデルタ株の蔓延で状況が厳しくなり、スタジオに集まるのが容易ではなくなった。その間にも旅人は〈LIFE HOUSE〉や〈フードレスキュー〉といったプロジェクトを立ち上げて忙しく動いていたわけで、そこで出会った様々な人たちがいた。一方で友人ふたりと一匹の愛犬を失った。世界は世界で激しく変動していた。そうしたあらゆる変化のひとつひとつに対し、絶対にやり過ごすことができないのが七尾旅人というシンガー・ソングライターで、よって曲数がどんどん増えていった。
「パンデミックでまず音楽シーンが追い込まれ、それがあらゆる領域に広がっていきました。そんな状況になんとか立ち向かうために〈LIFE HOUSE〉という配信番組を立ち上げて、ゲストを思い浮かべながら毎回新曲を書いていったり、〈フードレスキュー〉で感染家庭に食料送付をしたりするうちに楽曲がどんどんストックされていったんです。たとえメディアに取り上げられることがなくとも世の中には様々な方がいて、その人固有のメロディとストラグルを抱えながら、過酷な航海の只中にいる。そんなことを改めて思う日々でした。アルバムとしてどのようにまとめるかを迷いましたが、仲間や愛犬との死別を経たり、また小さな捨て犬と出会って希望を感じたりするうちに、いくつかの曲が、ひとかたまりの物語になって、訴えかけてくるようになりました」。