緑と風の中、音と共に生きていることを実感する心地よいコンサート

 大都市東京・赤坂で、緑と風を感じながら音楽を楽しむことのできる〈風と緑のMUSIC WEEK 2024〉が赤坂インターシティAIRで開催された。同イヴェントは、今年で14回目を迎えた〈ARK Hills Music Week〉の一環として9月30日(月)~10月4日(金)に行われたもので、インターシティAIR 2Fオフィスロビーでのランチタイムコンサートと、同施設B1Fサンクンガーデンでのイブニングライブの合計10回のコンサートを実施。クラシック音楽のソロ・ピアノや声楽、ジャズ演奏などヴァラエティ豊かな音楽が多くの人々の耳を楽しませてきた。その掉尾を飾る10月4日イブニングライブの出演は、佐藤浩一(ピアノ)、田辺和弘(ベース)、福盛進也(ドラムス)の3人から成る佐藤浩一ピアノトリオ。intoxicate編集部が厳選したブッキングでの登場だ。

佐藤浩一
田辺和弘
福盛進也

 ピアノの佐藤は、ジャズやクラシック音楽、ポストクラシカルなど幅広い演奏や作曲活動を展開。最新作『Embryo』まで3作のリーダー・アルバムを発表するほか、原田知世、伊藤ゴローら数多くのアーティストに重用されている人気のピアニスト&コンポーザー。ベースの田辺和弘はタンゴ、クラシック音楽、即興音楽をフューズさせた独自の音楽を確立し、瀬尾高志&田嶋真佐雄とのThe Bass Collectiveを展開させる鬼才コントラバス奏者。ドラムの福盛進也は2018年にECMから『For 2 Akis』でアルバム・デビューした後、精力的なリーダー活動と並行して、nagaluとS/N Allianceというふたつのレーベルを主宰する異能のドラマー&コンポーザー。いずれも、自由なマインドと伸びやかな表現力を具えたトップ・ミュージシャンだ。

 夕暮れ、オープンエアーのサンクンガーデン。そこには、この日のために駆け付けたファンや、仕事帰りに足を止めた人々が、特設ステージ前に設えられた座席やガーデン内のベンチに腰掛け、木々の間をすり抜けていく爽やかな秋風を楽しんでいる。そうしたさまざまな人々が集うステージにトリオの面々が上り、大きな拍手が上がる。柔らかさと透明感を伴った絶妙なタッチのピアノのアルペジオがゆったりとスタートすると、そこに福盛の繊細なシンバル・レガートと、田辺のふくよかなアルコ奏法ベースが加わることによって描かれていく、浮遊感を伴った優しげなテーマ。オープニング曲は、前述の佐藤のアルバム『Embryo』に収められていた“Balloon”だ。

 その後、フォーキーな力強さと東洋的な哀愁を感じさせる最終曲“Hua”まで佐藤のオリジナル曲を中心にしてステージが進められていったが、すべての曲に共通して印象的だったのが、音の感触やアンサンブルのバランスを変化させながら3人が一体になって織り上げていく演奏に大きな包容力が感じられた点。演奏中にふと聞こえてくる風の音や、その風に乗せて運ばれてくる微かな街の息遣い。それらを受け止めたうえでひとつのアンビエントな音空間を築きあげていく演奏は、従来のホール・コンサートやジャズ・クラブ・ライヴでは味わうことのできないもの。音楽とともに呼吸し、生きていることを実感する心地よいコンサートとなっていた。

 


SETLIST
1. Balloon
2. Fallen
3. Kuchinashi
4. 逆夢のブーゲンビリア
5. Two for the Road
6. Hua

ENCORE
1. ただ月をながむる