選曲は、移民の旅路の如く、越境のリズム。慈しみ深き音色で平和希求。
イタリア起源のオカリナ。ネーミング由来は、ガチョウ型の土笛〈オカリーナ〉。(オーカ=〈ガチョウ〉+リーナ=〈小さい〉)。古今東西、鳥の意匠のテラコッタ・ホイッスル系譜あり?(日本の鳩笛もお仲間か?)〈小さいガチョウ〉は、19世紀半ばには改良されて音階が奏でられる楽器になり世界中に飛び立っていった。
現代のオカリナ名手ファビオ・ガッリアーニは、ブードリオのオカリナ博物館長を務め、オカリナ七重奏団G.O.B.のメンバーとして国内外で活躍。(コンサートは数千回。来日公演歴も)その彼がギタリストのラウラ・フランカヴィリャ、アコーディオニストのマルコ・ファッブリ、ファビオの妻・歌手のバルバラ・ジョルジと組んだカンタルーナのデビュー作がこのアルバムだ。
選曲は、海越え、山越え、移民の旅路の如く。アイルランド、イタリア、ギリシャ、イスラエル、スペイン、ポーランド、ウクライナ、パレスチナ、カタロニア、フランス。ワルツやマズルカから変拍子の舞曲まで多彩。オカリナ製作者・イデルモ・フェッキオを偲びファビオが作曲したワルツ“マイ・オールド・リバー”では、ポー川のカッコーの鳴き声をバルバラがハミングで誘う。ロンバルディア語の歌“紡績工場のラウリーナ”はイタリア女工哀史ハラスメント教訓歌。木のスプーンでリズムを刻む“ファンダンゴ”はバスク風。凛としたアコースティック感がいい。
ヴェネツィア南部の農民の苦難を物語るバルバラの歌とオカリナ“ポレージネ”には心掴まれる。パレスチナ詩人とレバノンの作曲家による“マウティニー(My Homeland)”はウードのタクシームで始まり、オカリナの音色と溶け合う。そして、カタロニアの“鳥の歌”を経て、イタリアの “マレンマ~旅立つ、私は旅立つだろう”へ、平和希求の歌が続く。ラストの“リモワーズの無名の人”はバグパイプと一緒に埋葬されていた古の人に捧げるフランスの曲だ。オカリナの親戚フィグリーノも演奏。
ファビオ・ガッリアーニ&カンタルーナの慈しみ深き音は、名も無き先人を想い、鳥の視点で人類史を奏でる。