定義不可能なサイケサウンドを奏でる4人組
フォクシジェンのジョナサン・ラドーがプロデュースした前作『Ice Melt』(2021年)で注目を浴びたニューヨークの4人組サイケデリックロックバンド、クラム。しかしその母体はマサチューセッツ州のタフツ大学で結成されたジャジーなR&Bバンドであり、ラッパーのマイク(MIKE)や、不定形音楽集団スタンディング・オン・ザ・コーナーとの交流でも知られるなど、そのサウンドを容易に定義することはできない。
プリマヴェーラ・サウンドやピッチフォーク・ミュージック・フェスティバルへの出演でも話題の彼らが、様々な国で〈祖母〉を意味するタイトル通り、異なる言語や文化を繋ぐ作品となった最新作『AMAMA』について、メンバー全員で紐解いてくれた。
多文化を橋渡しする普遍的な言葉〈AMAMA〉
ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するサイケデリックロックバンド、クラムのサードアルバムとなる『AMAMA』のタイトル曲は、ボーカルのリラ・ラマニの、マレーシアに住む祖母の歌声で幕を開ける。
「〈Amama(アママ)〉、または〈Ammumma(アンママ)〉は、どんな綴り方であれ、多くの文化や言語で祖母を表す言葉だと思う。私の両親、父方の南インドと母方のグルジアでは、祖母のことをアママと呼ぶんだ。多くの異なる言語や民族を橋渡ししてくれる、とても普遍的な言葉だと思う。この言葉から何の連想もしなかったバンドメンバーでさえ、この言葉の響きと、回文であることに惹かれたんだ」(リラ)
どことなく東南アジアのポップミュージックを連想させるこの曲は、実際に祖母の歌うメロディーが下敷きになっているのだという。
「おばあちゃんは子供の頃の子守唄を歌っているんだ。もともとは古いボリウッド映画の曲だったと思う。彼女は90代で記憶力は衰えているけど、今でも歌うことが大好き。彼女が歌ったメロディーは、私が書いたメロディーと、曲の全体的な特徴に直接インスピレーションを与えている。彼女は本当に甲高い声をしていて、それが無意識のうちに私の声をワープさせたのが、ピッチを上げることになった理由だと思う。私は東南アジアのポップミュージックをあまり知らないけど、そう言ってもらえるとクールだね」(リラ)
ニューヨークの実験的ヒップホップシーンとの関わり
そんなクラムは、メンバーの4人中3人がマサチューセッツ州のタフツ大学在学中に結成した〈バッド・アンド・ブルー〉というジャジーなR&Bバンドを母体としている。
「バンドの初期は本当に特別だった。僕たちは数年間いろいろな形態で、一緒に暮らしながら音楽を演奏していたんだ。どれも控えめなもので、ベッドルームやハウスショーで演奏するのは楽しかったし、オリジナル曲を書いて演奏したり、レコーディングしたりするのも初めての経験だった。『AMAMA』の共同プロデューサー兼エンジニアであるジョンスコット・サンフォードと出会ったのもこの頃で、ボストンにある彼のスタジオで、初期のプロジェクトをいくつかレコーディングしたんだ。そんな風に、クラムは他のプロジェクトと同じように始まったんだ。リラが書き始めた数曲をレコーディングするためにみんなで集まり始めて、それが最初のセルフタイトルEP(2016年)に繋がった。初期の頃に共有した経験や繋がり、そして音楽的探求のすべてが、僕たちの基礎を築いていると言えるね」(ブライ・アロノウ)
一方、リラはソランジュやダニー・ブラウン作品への参加で知られる不定形音楽集団スタンディング・オン・ザ・コーナーの一員だったこともあり、リラとベースのジェシー・ブロッターは共にニューヨークのラッパー、マイクのアルバムに参加するなど、その活動は多岐にわたっている。
「2018年に、スタンディング・オン・ザ・コーナーのアルバム『Red Burns』で少し歌った。グループの活動的なメンバーだったとは言えないけど、そのプロジェクトに少し貢献した友人っていう感じ。(スタンディング・オン・ザ・コーナーのメンバーだった)スローソン・マローンのソロアルバム(2019年作『A Quiet Farwell』)でも少し歌っているし、ジャスパー(・マルサリス)とは長い付き合いなんだ。マイクは私のボーイフレンドであるエイブ(・エル・マカウィ)の本当に親しい友人でコラボレーターでもあって、ここ数年で知り合った友人。他のニューヨークのアーティストたちとのコラボレーションは本当に楽しい。良い意味で、私が普段クラムと一緒に浸っている音楽の世界から連れ出してくれるから」(リラ)
「2015年から2016年にかけてボストンに住んでいた時に、ちょっとしたレコーディング・プロジェクトでマイクと遠距離コラボレーションを始めたんだ。現在はスローソン・マローン1で演奏している共通の友人が彼の音楽を聴かせてくれて、深く共鳴した。クラムの黎明期には、一緒に忘れられない初期のハウスショーをたくさん経験して、割り勘することもあったよ。僕がベースを少し弾いた『MAY GOD BLESS YOUR HUSTLE』(2017年)は、ワンテイクの同時録音だった。気楽なレコーディングの瞬間だったね」(ジェシー)