津軽三味線と民謡歌手の〈二刀流〉、音楽の進化期す
歴史と伝統ある津軽三味線の世界に20歳の新星が登場した。中村滉己(こうき)だ。見た目は今時の若者そのものだが、ひとたび楽器を手にすると1音1音に情感、魂を込めた演奏で聴き手を魅了する。民謡歌手の顔も持つ〈二刀流〉音楽家は5月、初のフルアルバム『民唄 -TamiUta-』を発表。伝統を受け継ぎつつ、音楽を進化させる決意はすでにできている。
13曲収録のアルバムには“ホーハイ節”“春の海”など三味線や民謡の有名曲が並ぶ一方、5曲の自作曲も入っている。
「大学1年の夏、新型コロナウイルス禍の2年前に作曲を始めました。心・感情の赴くままに作る。収録曲“LABYRINTH -迷宮-(ラビリンス)”は音楽家としてのスタイルに迷った時に作りました。コロナで演奏活動が制限され、つらい時期だった。そしてラビリンスから“CATHARSIS -解放-(カタルシス)”につながりました」
三味線と民謡を駆使した彼の音楽は様々なジャンルが混じり合い、常に生成変化する。
「ラビリンスはEDMやヒップホップを、ホーハイ節はワールドミュージックを意識しました。雅楽やアジア音楽などの影響もあります。他ジャンルの音楽は全部血肉になる。津軽三味線に革新、革命をもたらしたのは上妻宏光さんですが、僕は伝統と進化。三味線や民謡は〈情〉の音楽なので、感情の発露であるR&Bなどブルースとも相性がいいはず」
東海地方で津軽民謡を広めた家系に生まれ、2歳で自然と津軽三味線を始めた。小学生の頃から数々の三味線コンクールで優勝する〈天才少年〉として名を馳せた。
「三味線はほとんど生活音だったので、物心ついたときから自然と好きになりました。本格的に音楽家として生きようと思ったのは、小学3年生で〈中村滉己〉の芸名をもらった時です。三味線が遊びでなくなりました」
現在慶應義塾大学の3年生。湘南藤沢キャンパス(SFC)に通いながら音楽活動を続ける。多忙な生活の中、津軽三味線と民謡歌手を両立するのには理由がある。
「SFCの学生は在学中に起業する人も多く考え方がとがっている。だから僕も刺激を受け、いろんな音楽を取り込む意識が強くなりました。三味線に加え民謡が持つ魂、節回しなどを生かしながら音楽を進化させたい。民謡は1音1音に感情を込めて歌うのでエネルギーをすごく使いますが、だからこそ三味線でも音一つ一つに全力を込められる。これからも国内外で音楽を吸収し、人生経験を音楽に反映したいです」
LIVE INFORMATION
中村滉己 1stアルバムリリースTOUR ACOUSTICS RE:DISCOVER 民謡
2024年7月6日(土)東京・稲城市立Iプラザ
2024年8月11日(日)愛知・宗次ホール
2024年8月25日(日)東京・銀座王子ホール
2024年10月20日(日)広島・福山市沼隈サンパル
2024年10月27日(日)大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
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