Photo by Masanori Doi

1990年、突然の解散から34年の時を経て、奇跡の再結成と35年ぶりの来日公演をおこなった伝説のグループ、フェアーグラウンド・アトラクション。活動再開の地に選んだのは、バンドと特別な縁を持つここ日本。世界中のファン垂涎の奇跡の瞬間を捉えた、2024年6月27日の東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO公演のオフィシャルライブレポートが届いた。 *Mikiki編集部


 

音楽っていいな、歳を重ねるのも悪くないことだなと心から思える、贈り物のような一夜だった。

人気絶頂にあった1990年、たった1枚のオリジナルアルバム『The First Of A Million Kisses』を残して突然解散してしまったフェアーグラウンド・アトラクション。その印象があまりにも鮮やかだったので、昨年12月、34年ぶりのリユニオンが伝えられたときには心底驚いた人も多かったはずだ(筆者もその1人)。実際、来日ツアーの皮切りとなった渋谷クラブクアトロは待ち焦がれたファンで超満員。オールスタンディングのフロアには、リアルタイム世代と思しき男女に混じって、若者たちの姿も目立つ。会場には再会の喜びとこれから始まるライブへの期待があふれていて、誰もが楽しそうだ。このバンドが時代を超えて愛されていることが肌で感じられて、開演前から胸がいっぱいになる。

Photo by Masanori Doi

定刻の19時半を少しだけすぎた頃、オリジナルメンバー4人とサポートの2人が満面の笑みで登場。特大級の歓声と拍手で迎えられた。「今日は新しい曲と昔の曲、両方持ってきたからね!」。そう言ってエディ・リーダー(ボーカル/ギター)が歌いだしたのは新曲“A Hundred Years Of Heartache”。盟友マーク・E. ネヴィン(ギター)の手による、甘酸っぱいバラードだ。マークのアコギが刻むゆったりしたリズムに、エディーの伸びやかな声が重なる。サイモン・エドワーズ(ギタロン)が無駄のないベースラインを奏で、ロイ・ドッズ(ドラムス)がお馴染みのブラシで独特のスウィング感を醸し出す。どこまでもヴォーカルを中心に組立てられたシンプルで奥深いアンサンブル――。思わず「こういう曲を待っていた!」と言いたくなる、素敵なプレゼントでライブは幕を開けた。

そのまま流れるように、2曲目の“A Smile In A Whisper”。アルバム『The First Of A Million Kisses』の冒頭を飾ったナンバーだ。可憐なイントロが響いた瞬間、オーディエンスの歓声が爆発。感極まったエディーが後ろを向いて、そっと涙を拭う。彼女の声は少しハスキーさを増し、いい意味で押し出しも強くなった気がする。でもバンドの核にある歌心――この世界のいいところに目を向け、祝福するチャーミングさはまったく変わらない。両手を広げ、天を仰いで楽しげに歌う姿から、それがはっきり伝わってくる。オーディエンスはサビのフレーズを大合唱。冒頭2曲で、バンドの過去と未来が見事にリンクする。そこに何の違和感もないことが、ファンとしてしみじみ嬉しい。

そこからは初披露の新曲と『The First Of A Million Kisses』の収録曲が、ほとんど等分に演奏されていった。素晴らしかったのは、そのどちらもが本当に同じ輝きを放っていたことだ。軽快なリズムに乗せて、壊れゆく世界にユーモラスな祈りを捧げる“What’s Wrong With The World?”。マイクスタンドを握りしめたソウルフルな歌唱が心に残った“Gatecrashing Heaven”。ゆったりとワルツを踊りながら披露した“Last Night (Was A Sweet One)”。どの楽曲も着慣れたシャツのように、しっくり身体に馴染んでいる。鍵盤アコーディオンの旋律でそっと歌に寄り添うグラハム・ヘンダーソンと、勘所を押さえたビブラフォンで楽曲を彩るロジャー・ボジョレー。サポート2人との噛み合い方も申し分ない。