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エラス=カサド、ブルックナー“ロマンティック”をピリオド楽器で録音

 1977年、グラナダ生まれの指揮者パブロ・エラス=カサドの快進撃が止まらない。昨2023年はバイロイト祝祭にデビュー、2028年の“リング”新演出の指揮も内定した。ブルックナー生誕200年の今年はピリオド楽器のオーケストラ〈アニマ・エテルナ・ブルージュ〉とともに交響曲シリーズのリリースを開始。同年2月にNHK交響楽団へ客演した際、第1作『交響曲第4番“ロマンティック”』の特色を中心に話を聞いた。

PABLO HERAS-CASADO, ANIMA ETERNA BRUGGE 『ブルックナー:交響曲第4番』 Harmonia Mundi/キングインターナショナル(2024)

 昨年はウィーン国立歌劇場のリゲティ生誕100年記念“グラン・マカーブル”の指揮で大成功を収めた一方、今回のN響では〈お国もの〉のデ・ファリャ“三角帽子”も披露するなど、レパートリーはルネサンスから現代まで驚くほど広い。「どんなに忙しくても好奇心は失いたくありません。すべての作曲家と文化を学ぶ気構えで、挑戦を続けています」。楽器や奏法もHIP(歴史的情報に基づく再現)を念頭にベートーヴェンやシューマンはフライブルク・バロック・オーケストラ、シューマンはミュンヘン・フィル……と録音パートナーを替えてきた。「私には境目がないのです」。ブルックナーの録音では鍵盤奏者&指揮者のヨス・ファン・インマゼールがベルギーで1987年に組織したアニマ・エテルナ・ブルージュをパートナーに選び、長いリハーサルを経てセッションに臨んだ。

 「私はモダン、ピリオドを分けず、作曲家と楽団固有のサウンドとの相性を最優先に考え、モダン楽器でもHIPを念頭に置きます。アニマ・エテルナではブルックナー存命当時の楽器を使った結果(筆者注:弦は12型)、従来のモダン楽器演奏に比べ、少なくとも10倍の色彩とドラマトゥルギーの可能性が得られ、彼の音楽に潜む劇的傾向の感触が鮮明に浮かび上がりました」。ブルックナーが「まだ、全て手の内に入っていたわけではない」と率直に打ち明けるエラス=カサドは「アニマ・エテルナの音を得て、ようやく待っていた瞬間が訪れたと思いました」。

 ピリオド楽器の採用で「ブルックナーの新しさ、もっと言えば攻撃的で過激な側面、内に秘めた炎の爆発が明瞭になりました。もう一方のデリケートな側面、内面の壊れやすさも併せ、とてもエモーショナルで純粋、人間的な音楽である真価も、はっきりと現れます。ありったけの感情を注ぎ込んだ録音です」。