評判の朝ドラ「虎に翼」、作曲家の森優太がサントラに込めた想いを語る!

 2024年4月から放映が始まったNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」もいよいよ最終回目前。昭和を生きた実在の女性裁判官、三淵嘉子をモデルにした骨太な人間ドラマには絶賛の声が続いている。そして、忘れちゃいけないのがドラマを彩る音楽の素晴らしさ。物語の中盤で、突然、画面からスチュアート・マードック(ベル&セバスチャン)の歌声が聴こえてきた朝の衝撃は忘れられない。固いテーマに引き込まれすぎない、ファニーでポップな楽曲など多数の劇伴を担当している森優太は、インディー映画や舞台、ドラマの音楽を手掛けて頭角を表してきた気鋭の作曲家。今回の「虎に翼」では朝ドラという大舞台で、森ワールドが自在に展開されている。サントラ第2弾がリリースされたばかりの「虎の翼」の音楽について、森に訊いた。

森優太 『連続テレビ小説 虎に翼 オリジナル・サウンドトラック Vol.2』 コロムビア(2024)

 

――そもそも「虎に翼」の音楽を依頼されたきっかけは?

「チーフ演出を務められている梛川善郎さんから去年の春に〈候補の1人に推薦する〉という連絡をいただきました。梛川さんは僕が音楽をやったNHKの夜ドラ『あなたのブツが、ここに』(2022年)の演出をされていて、そこで一緒にがっつりドラマを作った。そのときにいい印象を持っていただき、今回の『虎に翼』にもそれに近いカラーを必要とされたんだと思います」

――楽曲の雰囲気などの指定はあったんでしょうか?

「寅子の口癖でもある〈はて?〉とか〈スンッ〉をタイトルにした曲はコミカルでキャッチーなものにしようというのは演出のアイデアでもあったんです。梛川さんには、題材的に固く重くなる場合もあるからこそ柔らかく包むような部分があるといいよね、という言葉をいただいてました」

――ベル&セバスチャンのスチュアート・マードックが劇中で歌った“You are so amazing”は、インストとしてもさまざまに変奏され、ドラマの基調を作っていますよね。

「はい。最初にいただいた作曲の発注リストでも〈ドラマのメイン・テーマをこの曲名で〉という依頼でした」

――タイトルも決まっていたんですか。

「実はあのタイトルは、脚本にはあったけど、本編では使われなかった台詞なんです。華族令嬢の涼子さま(桜井ユキ)が山田よね(土居志央梨)の情熱を認めたときに英語で言ったもので、女性が女性を認めている瞬間の言葉でした。その意味合いがドラマとしても象徴的なので曲名として残ったんです。そして、その経緯からしてもこの曲は英詞だなと思ったし、曲の最後に〈You are ao amazing〉って歌いたいなと考えた。その結果、あの曲が出来上がったんです」

――そこから誰に歌わせようか、という話に。

「せっかくの朝ドラという大舞台だし、〈世界中でいちばんこの曲を歌ってほしい人は誰?〉という妄想をしてみたんです。そしたらすごく自然にスチュアートの声に思い当たった。それで一回、彼の連絡先をググってみました」

――え、ご自身で?

「はい。マネジメントの問い合わせ先に辿り着いて、こちらの企画と僕の想いをメールにして伝えました。マネージャーさんからはすぐに色よい返事が来たんですが、そのあと2か月は何の連絡もなし(笑)。もう諦めかけていたら、去年の年末にスチュアート本人からメールが来たんです。〈楽譜くれ〉って。〈え? それって歌うという意味なの?〉と僕が戸惑っていたら、マネージャーさんから〈スチュアートは歌うそうだから、ここから先は直接やりとりしてね〉ということに」

――すごい! 夢みたい! それがあの歌声が流れる、優三さん(仲野太賀)との別れや、寅子が日本国憲法に出会う名シーンに繋がっていったんですね。思いつきが叶うということが、このインタヴューを読む人の勇気になると思います。だって、朝ドラにベルセバですよ。

「〈Vol.1〉収録の“寅子の翼”、〈Vol.2〉に入れた“出涸らし上等”などは、金管楽器とかを使いつつも、自分のなかではロックの魂も入れて、オアシスやクイーンみたいにしたいと思った曲でした」

――ベルセバのみならずオアシスやクイーンまで!

「あと、このドラマ自体が差別への戦いというテーマを含んでいるし、ゴスペルっぽさも入れたいと思っていましたね。その一方、〈Vol.2〉に収録されている、僕自身もお気に入りの“天体と幸せのワルツ”には、大好きなジョン・ブライオンが音楽を担当した映画『パンチドランク・ラブ』のサントラへのオマージュっぽいところもあります」

――“You are so amazing”に話を戻すと、〈Vol.2〉にはさまざまなアレンジでの変奏ヴァージョンも収められていて。

「〈Vol.1〉に収録されたスチュアートが歌うヴァージョンで意図していたのは、壊れやすいものを優しく包み込むようなイメージだったんです。だけど、このドラマって優しさや楽しさばかりではなく、悔しさも結構あるし、傷ついた人、夢が叶わなかった人をきちんと描いていて、苦い部分もあちこちに散らばっている。特に、ドラマの終盤で使われる“辿りつく場所”というタイトルになったチェロとストリングスによって変奏したヴァージョンでは、関口将史さんのチェロで歌メロを強く弾いてもらいました。その強い音をもらえたとき、このドラマの持つもうひとつの側面を浮かび上がらせてくれた気がしました。今回リリースされたサントラの〈Vol.2〉には、このドラマが進んでいくうちに生まれた、決して明るいだけじゃないメッセージも流れているように思います」

森優太によるサントラ。
左から、2024年の『朽ちないサクラ』、2021年の『くれなずめ』(共にランブリング)