ハナブサユウキとの化学反応による制作
――ハナブサさんと一緒に音楽をやるようになったことは大きなことだったんですね。
「そうですね。アルバムの前のEP(2019年作『Loistaa』)もハナブサくんに入ってもらって作ったものなんです。曲作りの段階からがっつり一緒にやったのは今回のアルバムが初めてですけどね」
――ハナブサさんは今作の全曲のアレンジを手掛けています。Ryoさんにとって、どういう存在ですか?
「制作面でなんでも相談できる人。私にとってそういう人は初めてなんです。
ストレートにものを言う人なんですよ。例えばアレンジをしてもらうとき、〈私はこうしたい〉と希望を伝えるじゃないですか。その際、前にアレンジしてくれていた方は、私のイメージを土台に膨らませてくれました。もちろんそれも素晴らしいのですが、でもハナブサくんは〈それは違う!〉とハッキリ言うんです。知識が豊富なので、〈こんな感じでやりたい〉と言うと、〈だったら今のコード進行じゃなくて、こうしたほうがいい〉とか。それがありがたくて」
――制作の手順としては、まずRyoさんがまっさらな状態から書くわけですよね。
「ピアノを使って作ることが多いです」
――曲先ですか? 詞先ですか?
「メロディと言葉が同時に出てくることが多いですね。1曲目の“水平線は穏やかにブルー”は、水平線を見たときにあのメロディが降りてきたんです。〈でも水平線の向こうに行ったら帰ってこられなさそうだな〉と思っていたら〈境界線〉という言葉が出てきて、〈これだ!〉って。同時に降りてくるパターンが多いんです」
――わかる気がします。メロディから景色が見えるし、それが言葉と結びついているように感じるので。メロディが先にできて、さてどんな言葉を乗せようか?という作り方ではないんだろうなと。
「もっと言うと、歌詞とメロディが降りてきたら頭のなかで楽器の音が鳴り出す感じもあって。音を含めた全体像が浮かんでくるんです」
――それをハナブサさんに伝えて形にしてもらう。
「そうですね。例えば打ち込みも私ができたら、その全体像を形にして、ひとりで完成させられるかもしれませんが……」
――誰かと一緒にやることで生まれる化学反応こそが大事だったりする。
「そう思います。一緒に制作することで生まれる化学反応こそが一番大きいし大切です」
コロナ禍での〈このままじゃいけない〉という不安
――アルバム制作はいつから始めたんですか?
「2022年だったかな、“Konomama”を作ったんですよ。〈このままじゃいけない〉と歌う曲ですけど、それが転換点になりました。それまではAメロ、Bメロ、サビ、大サビ、みたいな構成の曲を作っていたんですけど、全然違うことをしてみたいと思ったときにあの曲が生まれたんです」
――曲構成において、今までと違うことをやってみようと。
「歌詞もです。本当に〈このままじゃいけない〉と思っていたんですよ。それまでだったら、1番は落ち込んでいて、2番で光が射して、最後に希望が見えて解決する歌詞を書いていたと思うんです。だけどコロナ禍で活動が思い通りにできなくてズーンと落ち込んでいたときに、そんなにうまくいく人生ってあるかしら?って思って。必ず最後には解決する……とは限らないし、無理やりハッピーエンドにすることもないんじゃないかと思って、あの歌詞を書いたんです。〈このままじゃいけない〉と感じている自分がここにいるんだから、それをそのまま曲にして伝えようと。そこから歌詞の書き方が変わりましたね」
――この曲の歌詞はアルバムのなかで最もストレートですよね。“Konomama”というタイトルだから〈このままでいたい〉という曲なのかなと思って聴き始めたら、〈このままじゃいけない〉という歌で。
「〈このままでいよう〉とか〈このままでいいんだよ〉という曲を求めて聴く人を裏切ろうという気持ちもちょっとあったんです(笑)」
――まんまと裏切られました(笑)。それだけ〈このままじゃいけない〉という実感を持っていたわけですね。
「はい。会社を辞めて、リセットして音楽を始めたのに、コロナ禍になって何もできない。いち早く配信ライブを始めるなどして動いているミュージシャンもいるのに、私は何もできてないじゃないかといった焦りがあって。
それまで私にとって音楽は常に楽しい場所だったんです。嫌なことがあっても音楽をしていれば、歌っていれば、楽しかった。なのに、その音楽でさえ楽しくなくなってしまったのは初めての経験で、私は今どこに立っているんだろう?みたいな気持ちになってしまったんですよね」
――そうした実感から生まれた“Konomama”は、同じような不安や焦りを持ったことのある多くの人の心に刺さるし、共感も得ると思います。