
魔暦紀元前13年(1986年)4月2日にリリースされた聖飢魔IIの第二大教典『THE END OF THE CENTURY』。代表曲“蠟人形の館”を含む初期の名盤だ。今回は発布から40周年を祝って、連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉でお馴染みのジャズミュージシャン西山瞳に本作を掘り下げてもらった。 *Mikiki編集部

テレビで別次元の凄さを放っていたバンド
80年代、多くの小学生は、1999年に天変地異が起こり恐怖の大王がやってくると思っていた。少なくとも、私は半分ぐらい信じていた。この〈半分ぐらい〉という態度が、この時代独特の空気だったように思う。ノストラダムスの大予言に始まり、ネッシー、ツチノコ、徳川埋蔵金、胡散臭い話に溢れていた。今、胡散臭い話に話半分ぐらいで向き合う姿勢は、この時代を経験していることが大きい。
そんな時代に、聖飢魔IIは異様な存在感をテレビからお茶の間に放っていた。
ビジュアルの強烈さは言わずもがな、トークコーナーもべらぼうに面白く、どんな出演者がいても全部持って行ってしまう。それだけですでにインパクトは絶大だったのだが、小学生の私が最も奇妙に感じていたのは、演奏時間になると一転して空気が変わり、テレビが全く別の世界に変わることだった。
あまりにも凄いので、〈半分ぐらい〉で話を聞けないのである。小学生にもわかった、別次元の歌の凄さ。歌唱は変幻自在で、野蛮な歌い方をしたかと思えば、時折ものすごく綺麗な声でも歌う。バンドも、こんな見た目なのになんだか余裕のパフォーマンスで、テレビ用という感じに見えない。
世紀末に現れた聖飢魔II、これはきっと凄いものに違いないと、テレビに齧り付いて見ていた小学生は、私の他にも沢山いただろう。
初期衝動と前進する様を捉えた紛うことなき名盤
1986年にリリースされた『THE END OF THE CENTURY』は、紛うことなき名盤である。聖飢魔IIのマスターピースであるどころか、国内ヘヴィメタルの歴史においても80年代の重要作として位置付けられるであろう。
収録曲の“蝋人形の館”がシングルで大ヒットし、日本のポップス界にお茶の間レベルでヘヴィメタルを浸透させ、ヘヴィメタルを知らない人でも聖飢魔IIと“蝋人形の館”は誰でも知っているということになった。
このアルバムのリリースから40年経った今、全曲通してぜひ聴いて頂きたいのである。
莫大なセールスを記録しただけでなく、ヘヴィメタルとして非常に高いクオリティを1986年に提示していたことに、驚嘆するだろう。
1985年の『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』、1986年の『THE END OF THE CENTURY』『地獄より愛をこめて』は、レインボーの初期3枚(『銀嶺の覇者』、『虹を翔る覇者』、『バビロンの城門』)と似た位置付けだと筆者は考えている。
それは、音楽性、パワー、クオリティ、世界観など、初期にバンドのアイデンティティが形成されていくドキュメント的側面があり、生き物のように急速に前進する様と、まだ守るものがないがゆえの冒険、ピュアな初期衝動を見ることができるからだ。

メタルサウンドとポップさが両立したプロダクションの進化
『THE END OF THE CENTURY』が前作と大きく違うのは、サウンドプロダクションである。
前作に比べ、ドラムの音が圧倒的にダイナミックで締まり、ボーカルの様々な歌唱表現が余す所なく伝えられ、生々しく肉薄する。そして2本のギターのキャラクターやアプローチもしっかり交通整理され、上質で安定したヘヴィメタルの音として素晴らしく纏まっている。前作は第1作ということもあり、まだサウンド面で安定しておらず、バンドのエネルギーを伝えきれていなかった部分があった。この2作目にして、真正のヘヴィメタルのサウンドとポップシーンに向けての聴きやすさが両立した、しかしエネルギーは全く失われないという見事なバランスを持つ聖飢魔IIのサウンドになった。当時のスタッフも、完成の際には〈これは良いものを作った〉と興奮したのではないだろうか。それぐらい、1枚目からのサウンドの飛躍は大きい。
ミドルテンポの高解像度なグルーヴに驚嘆する“DEMON’S NIGHT”
今も演奏される曲が多く収録されており、それぞれの曲に注目点はあるのだが、筆者がこのアルバムで一番魅力を感じている“DEMON’S NIGHT”を詳しく取り上げる。
魅力の理由は、それぞれのミュージシャンとしての体力の高さと、この瞬間を生きるアンサンブルで起こる強烈な磁場があり、このテイクはマジックが起こっていると感じているからだ。
ヘヴィメタルにおいて、高速テンポ曲はそのエクストリーム性からバンドの代表曲になり、ライブのクライマックスとなり、バンドの華となる。しかし、粘りのある深いグルーヴを持ったミドルテンポ曲、これもヘヴィメタルの大きな魅力の一つであり、聴きどころである。
ヘヴィメタルの〈音が異常にでかく、歪んでいる〉ことによるミドルテンポは、リズムの打点が不明瞭になり、そのズレが強力なグルーヴを生む。否応なく体が深く沈み込み、フィジカルに深い感覚を与える。
そして、ミドルテンポは高速テンポより、音色、タイム、全てを解像度高く演奏できないといけないので、高速ではある程度誤魔化せてしまうことが、ミドルテンポでは誤魔化せない。バンドの本当の体力が出ると思っている。
当然のことながら、この時代は現代のような録音修正テクノロジーはまだ存在せず、これをリアルな人力(悪魔力)でやっていたのだと思うと、バンドの演奏力の高さと、基礎体力の高さ、グルーヴの解像度の高さに、ミュージシャンとして驚嘆するのである。
“DEMON’S NIGHT”のグルーヴの作り方は、面白い。基本的にベースとドラムが4分音符を刻み、その1拍の中身をギターが細かく刻むことでグルーヴを作っている。その上にボーカルが16分音符で乗っていき、少し溜めて入って飛び込んでくる歌詞〈Night!〉。1拍に対するアプローチが重層的で重く、聴くたびに〈なんて良いヘヴィメタルなんだろう〉と思うのである。やっていることはシンプルがゆえそれぞれにシビアなタイム感覚も求められ、全てがうまく噛み合ってこのグルーヴが生まれている。
ブルースのにおいがするギターソロと悪魔そのものな歌唱
また、この上に乗ったギターソロが実に見事で、リズム隊の重量感のある4分音符の上で、短くも濃い存在感のあるギターソロが繰り広げられる。
個人的にこのソロは昔から大好きで、何度も繰り返しここに注目して聴いていたのは〈洋楽ロックの香り〉がしたからではないかと思う。日本のロックのギターソロに突如現れる歌謡曲臭さがなく、本物のブルースのにおいがしたのかもしれない(私はジェイル大橋派なので、贔屓目もあることを断っておく)。
ここでこの曲は終わらない。この後に入ってくるデーモン小暮の歌唱がとんでもなく凄まじいのだ。正直、これは悪魔である。いや、最初から悪魔なのだが、ここまで素晴らしいインストパートがあった後、それを凌駕する勢いでハイトーンで切り込んでくる様は、もはや技術や音楽面での解説は意味をなさない。凄いものが来た時に、さらに凄いもので返す。これができるのは、本物のスター(悪魔)だけである。
これだけ凄いテンションを重ねても、まだこの曲はミドルテンポである。ミドルテンポでこのエネルギーの放出量。尋常ではないが、これがヘヴィメタルのミドルテンポの良さなのだと、なぜか世間に胸を張りたくなる。ラストでテンポもキーも上がるのだが、そこまで全てミドルテンポで持っていく部分に注目して、聴いてみてほしい。
“DEMON’S NIGHT”のみを取り上げたが、『THE END OF THE CENTURY』には他に“JACK THE RIPPER”、“怪奇植物”、“FIRE AFTER FIRE”など、後に何度も演奏される定番曲が収録されており、万が一にも聴いていない方がいたら、アルバムを通して聴いてみて欲しい。
お茶の間に浸透しつつも、妥協なきサウンドと確かな技術で本物のヘヴィメタルを届けていた聖飢魔IIの、初期の超重要作にして傑作である。
【2026年4月22日追記】本稿は、西山瞳さんの意向で、聖飢魔II独自の用語は一般的な言葉に置き換えています。構成員(メンバー)のお名前も、リリース当時のものです。信者(ファン)以外の読者にもわかりやすくするための方針ですので、ご了承いただけますと幸いです。 *Mikiki編集部
■西山 瞳
LIVE INFORMATION
西山瞳トリオ ツアー
2026年4月18日(土)神奈川・横浜 Jazz Spot Dolphy ※終了
開場/開演:19:00/19:30
2026年4月19日(日)千葉・稲毛 Jazz Spot CANDY ※終了
開場/開演:19:00/19:30
2026年4月20日(月)千葉・柏 Nardis ※終了
開場/開演:19:00/19:30
2026年4月21日(火)東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
開場/開演:18:30/19:15 ※19:15~ opening act(後日発表)、20:30~ 西山瞳トリオ
2026年4月22日(水)新潟 りゅーとぴあ スタジオA
開場/開演:19:00/19:30
2026年4月23日(木)長野・松本 Storyhouse Cafe & Bar
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)
前売/当日:4,000円/4,800円(いずれもDrink代別)
ご予約:ticket@spn1.speednet.ne.jp/090-1691-7988
制作:Office Ohsawa
協力:Disk Union
PROFILE: 西山 瞳
1979年生まれ。2005年、〈横濱ジャズプロムナード〉のジャズ・コンペティションにおいて自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデン録音の1stアルバム『Cubium』をアミューズよりリリースし、デビュー。2007年に日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、2作のスウェーデン録音作品をリリース。2010年、米〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉で自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門の3位に入賞。2011年作『Music In You』は、CDジャーナル誌の2011年ベスト・ディスクに選出されるなど芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2015年にヘヴィメタルの名曲をカバーするユニットNHORHMを始動させた。アルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』はリリース前よりヘヴィメタルとジャズの両面で話題になり、ジャンルを超えるベストセラーとなった。シリーズ3作はいずれも高評価、好セールスを記録。以降、文筆活動も通じてジャズとヘヴィメタルを横断した活動を継続中。タワーレコード運営のウェブメディアMikikiにて継続中の連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は、同サイトで圧倒的人気を誇る。2023年作『Dot』、2024年作『Echo』はジャズ、ヘヴィメタル、クラシックを踏まえた活動の集大成の連作として発表され、ストリーミングサービスを中心に世界中で聴きつづけられている。現在は自身のトリオを中心に全国のジャズフェスティバルやホール公演、イベント、ライブハウスなどで演奏活動中。オリジナル曲は高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。
ウェブサイト:https://hitominishiyama.net/