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涙は正直ね

――ほかの曲についても聞かせてください。1曲目の“水平線は穏やかにブルー”はタイトルからして名コピーのようで、印象に残ります。

「この言葉が浮かんだ時点で〈よしっ、これで書ける〉と思いました」

――〈涙は正直ね〉と、歌から始まるところでもう惹きつけられる。

「この曲の登場人物は素直になれないところがあるんですけど、じゃあ素直なものってなんだろう?と考えたとき、涙かなぁって思って。それで〈涙は正直ね〉という歌い出しになり、終わりにもう一度このフレーズを使いました」

――アウトロはセッション感が出ていて、セカンドラインのようなピアノも入るのが楽しい。演奏に遊びがあるのがいいですね。

「このまま穏やかに終わったら普通だなと思っていたときに、ああいうコード感を提案してもらって、レコーディングでもメンバーが遊んでくれました。

そうそう、この曲と6曲目の“レイリー”と9曲目の“aarre”は、バンドでレコーディングしたんです。バンドじゃないと出せない空気を出したいとハナブサくんが言ってくれて、ライブでも演奏してくれたことのある仲間にお願いしました。

“水平線は穏やかにブルー”と“aarre”にはストリングスが入っているんですけど、〈ここはストリングスじゃないとよくないよ〉と言ってくれたのもハナブサくん。実際、デモと比べたら奥行きと立体感が全然違うものになりました」

――2曲目の“SHIKI”は、最近また注目されだした90年代R&Bのテイストで。

「Aメロを思いついて作り始めたとき、かっこいい曲にしたいと思って、90年代R&Bのテイストにしようと。あの時代って〈かっこつけることがかっこいいんだぜ〉みたいなところがあったじゃないですか(笑)」

――確かに。出だしのロウを効かせたボーカルがいいですね。声に幅のあるRyoさんですが、ここでは低い声が魅力的に感じられる。

「ありがとうございます。宇多田ヒカルさんのボーカルを思い出しながら歌いました」

――コーラスワークも活きている。

「(バグルスの)“ラジオ・スターの悲劇”の〈アンワアンワ~〉っていうコーラスからインスピレーションを受けて、遊んでつけました。楽器の代わりにこういう声を重ねたら面白いんじゃないかなと」

――“Konomama”を挿んで、4曲目は“浮かばれたいねサタデー”。

「“Konomama”と同じで、ネガティブな気持ちのときにできました。本当に〈浮かばれないなぁ、浮かばれたいなぁ〉って思っていた時期だったので」

 

どう見られたっていい、自分の歌声を素直に活かそう

――5曲目“SEA”は、タイトルの通り海底にいるような感覚が味わえるアレンジですね。

「文字通りすぎるんですけど、深い海みたいな曲にしたいと思っていました。サビで〈好きだとか愛してるはもうどうだっていい〉と歌っていますけど、世の中の型にハマってしまうことなんてないんだよ、って言いたくて」

――自分自身にも言い聞かせている。

「そうですね。〈あなたを信じる私を信じること〉とも歌っていますし」

――6曲目“レイリー”はイントロで鳥の鳴き声も聴こえるし、ミニー・リパートンの“Lovin’ You”を想起させます。

「バンドのサウンドはあの曲からインスピレーションを受けています。ギターは松本コーキくん。信頼できる仲間なんです」

――この曲は素直に歌ってこそ心に響くと思うんですが、どんなことを意識して歌いましたか?

「まさしく邪念を捨てて歌いました。実は自分のまっすぐすぎる声にコンプレックスがあったんです。R&Bを歌うならしゃがれてるくらいがいい、でも自分はそういう声の持ち主ではないと思っていて……。

空が青く見えたり赤く見えたりする現象をレイリー散乱(光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱)といって、そこからタイトルをつけたんですけど、どう見えても空は空なんだからいいじゃないかって考えたとき、どう見られたっていい、まっすぐな声をそのまま活かそうと思えて、この歌詞を書いて素直に歌ったんです」

――素直に歌うことは、むしろ難しいことだったりしますよね。

「年を重ねてよかったと思いました。若かったら、かっこよく歌おうとか、雰囲気を持たせようとか、邪念が入って素直さを出せずにいたと思う」

――7曲目“calm”。ピアノだけで歌っても成立しそうな切ないパラードだけど、アレンジはモダンでエレクトロ味がある。これはRyoさんのアイデアですか?

「サム・ヘンショウの“Take Time”を聴いていて、私ならこのイントロからこういうメロディに展開させて歌うだろうな、なんて思ったのがきっかけでした」

――8曲目“ラフロア”は初期YMOのようなテクノポップ感のあるイントロで始まる弾んだ感覚のポップソング。ネガティブなところから生まれた歌詞が数曲あるなかで、これはポジティブですよね。

「最後にできた曲なんですけど、ほかの8曲を並べて聴いたとき、このままだと〈陰〉なアルバムになっちゃうと思って。だから前向きな歌詞を書いて、遊びたいだけ遊ぼうとゲームっぽい音を入れてもらったんです」

――この曲があるのとないのとでけっこう印象が変わりそうですもんね。