シンガーソングライターの柴田淳が4年ぶりのオリジナルアルバム『901号室のおばけ』をリリースした。救急救命士資格取得、初めての舞台など様々な経験をしてきた彼女。音楽プロデューサーに武部聡志氏を迎えて制作された本作は、人生の機微や深み、素晴らしさを描いた歌詞、シックな美しさをたたえたアレンジ、楽曲の世界観を豊かに体現するボーカリゼーションなど、柴田淳の〈今〉をダイレクトに反映した作品に仕上がっている。
「制作はすべて武部さんにお願いしていたんですが、完成したものを聴いて、〈こんなに素晴らしい作品を作っていたんだ〉と感動しました」という彼女に、アルバムの制作プロセスについて語ってもらった。
SNSでも曲でも〈全部見せてしまう〉
――柴田さんのX(Twitter)のポスト、いつも読ませてもらっています。すごく率直な意見を発信してますよね。
「やばいですよね。ただ、あれは私じゃなくて親指がやっていることなので。プロフィールにも〈本人ではなく本人の親指の呟きです〉と書いてるので(笑)。
コロナ禍の時期、Twitterから卒業したんですよ。あまりにも振り回されていたし、返信と戦って傷ついたり。これは良くないからやめようと思って抜け出して、(救急救命士の)専門学校に通っていたときはインスタをやっていました。学校の生徒のみなさんもやっていたし、インスタのほうがまだ空気が澄んでるなって。
結局戻ってきちゃいましたけど、自分でも要注意だなと思ってます。ファンの人しか見てないくらいの感覚で呟いちゃってるし、もうちょっと自覚を持たないと。もっと言うと、表に出ている感覚がないんですよ。見栄を張るとかカッコ付けることが好きじゃないし、全部を出してしまう。もうちょっと隠そうよ、ファンの人たちもそこまで見たくないよって思うんですけどね」
――全部見せてしまうというのは、曲も同じでしょうか?
「そうかもしれないです。自分のこともそうだし、以前は〈みんなが言いたくないこと、隠していることをいかに言い当てるか〉という感じがあって。心を翻訳するという言い方をしていたんですが、人が言葉にできない思いを歌にするというか。たとえばカップルがドライブしていて、私の曲が流れて気まずい雰囲気になったら――お互いに隠していることがバレちゃうとか――成功だなって。
でも、その後に不快になるだけのある映画を観て、考えが変わったんですよ。〈もしかしたら私も同じようなことをやっていたのかも〉と思ったし、やっぱり不快にさせちゃダメだなって。その後は〈この題材は意地悪だな〉と思うものは避けるようになりました」
救急救命士の学校がつらくて……
――なるほど。では、ニューアルバム『901号室のおばけ』について聞かせてください。4年ぶりのアルバムですが、前作以降、ソングライティングの変化はありましたか?
「20年くらい活動してきたなかで、(2020年頃は)自分でもあまり納得できていなかったんです。制作の環境もそうだし、ディレクターがいなくなったり、人間関係的にもいろいろなことがあって、すべてにおいて苦しかったんですよね。私、充実感のあるCDって、重く感じるですよ」
――CD自体の重さが増す?
「そうです(笑)。初期の頃は重くて内容が濃いCDを作れてたと思うんだけど、だんだん軽くなってきている気がしていました。最後のほうは制作がつらすぎて号泣したり、自分を絞り切ってしまった感じもあったんです。私としては柴田淳としての活動を休みたかったし、どこにも行けない、どうしたらいいかもわからない迷子状態で。
だからコロナ禍の1年目は、私にとっては好都合だったんです。コロナ禍だから活動できないって言い訳できるから。でも、思った以上にコロナ禍の影響が続いて、どうしようかなと考えたときに、高校1年のときに歌手になる夢と天秤にかけてた救急救命士の資格を取ろうと。でも、学校がつらくてつらくて……」
――そんなに大変だったんですか?
「月~金でビッシリ授業があって、遅刻は許されないので毎朝6時半に起きて。理不尽なことも多かったけど、受験資格を得るために我慢して。
そうこうしているうちに、舞台(『ETERNAL GHOST FISH』/作・演出:西田大輔)のお話をいただいたんですよ。柴田淳の活動は自分で曲を書いて、自分で企画して、〈こうします〉〈こうしてください〉とすべて決定してきたんです。舞台はそうじゃなくて、演出家さんから注文されたことに一生懸命応えるという真逆の立場。それがすごく楽しかったんです。こんなことを言うと良くないかもしれないけど、プロデューサーではない立場は、心が少し楽でした(笑)」
柴田淳って何だっけ?
――身を委ねるという経験を始めてした、と。
「そうなんです。舞台も無事に終わって、学校も終わって資格を取って、いよいよ柴田淳に戻ってきたわけですけど、〈柴田淳って何だっけ?〉という感じになってたんですよね。いろんな経験をしてきたけど、柴田淳は止まったままだし、〈私ってどんなキャラだっけ?〉とか、ファンの人たちとの距離もわからなくなって。
いわば真っ白な状態だったし、どうしたらいいかもわからなかったから、〈プロデューサーを付けてほしい〉とお願いしたんです。スタッフの方々とも話すなかで、そういえば武部聡志さんのラジオに呼んでもらって、〈いつかプロデュースさせてください〉って言ってもらってたなと思い出して。ダメ元で打診したら快諾してくれて、初めてプロデュースしてもらうことになって。以前の自分だったらぶつかっていたかもしれない。武部さんとも〈今だったんだね〉とお話しました」
――制作も武部さんがリードする形だったんですか?
「そうですね。曲も選んでもらって。アレンジについては、私の拙いピアノで〈こういう曲なんです〉と披露したら、その場でコードを拾って、イントロから何から全部出来上がっていって、とにかく感動しました。武部さんのピアノも素晴らしかったし、〈この人に任せれば大丈夫だ〉と思って、その後はすべてお任せしたんですよ。なのでレコーディングの場で初めてアレンジされた曲を聴く状態だったんですけど、すべてカッコよくて。アルバムが出来たときに武部さんから〈好きなようにやらせてくれてありがとう〉と言われたんですが、こちらこそ〈全面的にプロデュースし全部やってくださってありがとうございました〉でした」
――歌録りはどうだったんですか?
「テイクのセレクトだけは自分でやろうと思ってたんですけど、そこも武部さんが〈僕に任せてほしい〉と。スタッフからも1日2曲録りたいと言われて〈そんなのやったことないよ!〉と思ったんだけど(笑)、結果的にはお任せしてよかったですね。〈(声が)ひっくり返るところがクセになるから、このテイクを使うね〉と言われたり、自分では選ばないようなテイクが使われることもあったんだけど、それも面白くて。今回のアルバムに関しては、武部さんがセレクトした柴田淳の歌を楽しんでもらえたらなと思っています」
私は歌だけ歌っていればいい。なんて幸せな人生だろう
――歌唱はもちろん、アレンジや演奏も素晴らしくて。アルバムを聴かせてもらって、〈こういう柴田淳の歌を聴きたかった〉と思いましたし、今現在の柴田さんの表現もしっかり反映されてますよね。
「よかった。かなり過密なスケジュールだったので、制作中は毎日、精一杯やるしかなかったんです。武部さんも毎日のようにメッセージをくれて、励ましてくれて。〈今日録った曲は出来上がったんだから、聴かなくていい〉という感じで進んでいって、ミックスのときに初めて全曲通して聴いたときに、〈こんなにすごいアルバムを作ってくれてたんだ〉と感動して。自分で書いた歌詞もよく覚えてなかったから、〈そうか、こんな歌詞を書いてたんだ〉〈そうそう、そうだった〉と思い出しながら聴いてました(笑)」
――それくらい集中していたんでしょうね。“綺麗なままで”“透明な私”などの哀切なラブソングは、〈これぞ柴田淳〉という名曲だなと。
「アルバムのブックレットの写真を見たときに〈私、大人になったんだな〉と思って(笑)。歌詞もそうなのかもしれないですね。以前はもっと切羽詰まって、〈あなたがいないと苦しくて苦しくて〉〈こんなに好きなのに愛してくれない〉という歌詞が多かった気がするんですよ。
でもリアルの生活もそうなんですけど、今の私は恋愛や結婚よりも一人を謳歌しちゃってるんですよね。(専門学校に通っていた)3年間があったからこそ、今、自由であることをすごく実感できているのもありますし、それがもしかしたら歌にも出ているかもしれません。物事は捉え方でいかようにも変わるし、私は歌だけを歌っていればいい。なんて幸せな人生なんだろう……ということに20年くらい気づいていなかったんです(笑)。ようやく、20年分の幸せをかみしめてます」
――今のお話は、“星の朝露”という楽曲に表れていますね。〈私の世界は 私だけのものだから/楽しい出来事も 私の思うまま〉という。
「そうなんですよ。いいことも悪いことも自分の捉え方次第というのかな。そのことを知ってしまったので、ヤバいです(笑)」
幸せも不幸せも同じ
――以前はインタビューのたびに「そろそろ幸せになりたい」と仰ってましたが。
「言ってた! 今は幸せになりたいとか愛されたいとか、あまり思わなくなりました。
大変な思いをして救命救急士の国家資格を取得しましたが、歌うことがどれほど好きだったのかを別の夢を掴むことで再認識できたというのかな。さっきも言ったように音楽人生に行き詰まりを感じていたんですけど、〈やっぱり歌うことが好きなんだ〉とこうして確かめられたのは本当にラッキーだと思います」
――“本当のこと”の〈幸せも 不幸せも同じ/生きてる 奇跡だけ〉というフレーズも心に残りました。
「歌詞の通りなんですけど、幸せも不幸せも一緒だなって思ったんですよ。不幸せも幸せというか……。
“短くて長い詩”という曲もあるんですが、これは最期の瞬間を想像して書いたんですよ。だんだん意識が薄れてきて〈つらいこともたくさんあったけど、それも私らしいな〉と思って涙が出てきたり、幸せも不幸せも含めて全部が幸せだったと感じるんだろうなと。そんな感情を歌っているんですが、“本当のこと”もその延長線上にあるかもしれません。
〈知らぬ間に 出来た傷はいつか/誰かを助けたもの〉という歌詞もあって。知らないうちに誰かを助けることもあると思うし、自分で勝手に〈私は不幸だ〉〈幸せだ〉と決めてるだけかもしれないなって。一つ一つの出来事に意味合いを持たせなくてもよくない?みたいな感じかな」
――〈自分のやってることに意味がない〉という状況って、なかなか耐えられないですからね。
「そうなんです。ファンの方から〈自分が存在している意味がわからない〉と言われることがあるんですが、〈生まれてきた理由なんて誰にもないよ〉って思うんです。人はそこに何か意味があると信じたい生き物なのかもしれませんね。〈私が死んだら太陽がこっち向かってくる〉っていうんだったら大変だけど(笑)、実際には何の影響もない。私はもっとシンプルに、生きてるだけでいいし、幸せも不幸せも同じだよって言いたいですね」
追い詰められると力を発揮する
――希望の歌なんですね、“本当のこと”は。アルバムの最後は“月のあさひへ”。スタンダードのような風格を持つ美しい曲ですね。
「“月のあさひへ”の作詞は演出家の西田さんなんですが、私のアルバムのなかに他人の歌詞が入ってくるのも初めてなんですよ。
この曲はもともと舞台のために書いた曲なんですが、そのときもいろいろあって。西田さんに〈舞台上で歌を歌ってほしい〉と言われたんですが、最初はお断りしたんです。専門学校にも通っていたし、初舞台でもあったので、それで精一杯だったから、〈無理です〉と。
でも、しばらくすると〈シンガーソングライターとして長年やっているのに、人が書いた曲を歌うのはどうなんだろう?〉と思い始めて。〈今更こんなことを言って申し訳ないですけど、やっぱり書かせてもらえますか?〉とこちらからお願いしたんですよ。絶対にいい曲を書かないといけない状況だったんですが、その日の帰り道、自転車に乗りながら鼻歌を歌ってるうちに奇跡的に出来上がって。〈追い詰められたら尋常じゃないパワーを発揮する〉とゲッターズ飯田さんに言われたことがあるんですけど、まさにそういう感じでした(笑)。
舞台の上で歌う曲だったので、歌詞は西田さんにお任せして。アルバムに入れるときは、他の曲とは出来上がった経緯が違うので、ボーナストラック的に収録することにしました」
――11月22日(金)には、ビルボードライブ東京で柴田さん、武部さんによるライブ(〈Billboard Live presents Piano Duo Session #7 柴田淳 × 武部聡志 ~ Birthday Special~〉)が開催されます。ツアーを期待しているファンの方も多いと思います。
「もしも願いが叶うなら、武部さんがやってくれたら最高ですね。今回のアルバムは武部さんに依存する形で作ったので、右も左もわからない私はそのまま残されてるんですよ。この後どうしたらいいんだろうって(笑)」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2024年11月20日(水)
■通常盤(CD)
品番:VICL-66023
価格:3,520円(税込)
TRACKLIST
1. 綺麗なままで
2. 星の朝露
3. 〇〇ちゃん
4. 喫茶店にて
5. 誰もいない駅
6. 短くて長い詩
7. 透明な私
8. 本当のこと
9. 知恵の輪
10. 月のあさひへ
■CD封入特典
通常盤(初回生産分のみ):スペシャルイベント抽選応募シリアルA封入
VICTOR ONLINE STORE限定盤:スペシャルイベント抽選応募シリアルB封入
■スペシャルイベント概要
①ミニライブ&握手会(抽選200名様ご招待)
※通常盤封入シリアルAとVICTOR ONLINE STORE限定盤封入シリアルBの1セットで1回応募可能
②リアルサイン会(抽選200名様ご招待)
※通常盤封入シリアルA、またはVICTOR ONLINE STORE限定盤封入シリアルBいずれか1つで1回応募可能
開催日:2025年1月25日(土)
開催場所:東京近郊エリア(ご当選者様へメールでお知らせいたします)※詳しくは商品封入の応募チラシをご確認ください。
■CDチェーンオリジナル特典
対象チェーンの店舗・オンラインにて、対象商品をご予約・ご購入いただいた方に、先着で各オリジナル特典をプレゼント! 特典は各店先着でなくなり次第終了となります。一部店舗では取り扱いのない場合がございますので、ご予約の際は各店舗にご確認ください。
(特典内容・対象店)
ポストカードA:タワーレコード全国各店/タワーレコード オンライン
ほか
LIVE INFORMATION
Billboard Live presents Piano Duo Session
#7 柴田淳 × 武部聡志 ~Birthday Special~
2024年11月22日(金)東京・六本木 ビルボードライブ東京
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
(1日2回公演)
https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-20181
PROFILE: 柴田 淳
シンガーソングライター/救急救命士。3歳よりクラシックピアノを習い、高校に進学しJ-POPに目覚め歌手を目指す。両親の反対もあり、大学進学後成人を待ってからオーディションを受け始める。作詞作曲はその頃から始める。2001年、“ぼくの味方”でデビュー。現在まで、シングル19枚、オリジナルアルバム13枚、カバーアルバム2枚他、ライブBlu-ray等をリリース。シンガーソングライターとしての活動の他にも、楽曲提供、ナレーション、ラジオパーソナリティなど幅広く活躍している。コロナ禍を経て、救急救命士の資格取得の為、専門学校へ通いながら活動。2024年3月、第47回救急救命士国家試験に合格。見事救急救命士となる。
オフィシャルサイト:https://www.shibajun.jp/
YouTube:https://www.youtube.com/@shibatajunofficial
X:@shibatajun
Instagram:https://www.instagram.com/shibatajun_official/
