riko niikawaによるソロプロジェクト〈ゆうさり〉が、1stフルアルバム『星をつぐ人』を完成させた。ゆうさり名義では、これまで『由来』と『ほとり』という2作のミニアルバムをリリース。その両方をひとり宅録で作り上げてきたゆうさりだが、今作は佐藤日向子(ベース)、椿三期(ドラムス)というふたりのプレイヤーと共に作り上げたバンドサウンドによる作品に仕上がっている。まるで穏やかに眠る獣の毛並みを撫でているような、激しくも滑らかなバンドの演奏が素晴らしい。猛々しさと静けさ、ダイレクトさと品性と併せ持つ、その佇まい自体があまりにも稀有なアルバムである。

People In The Boxやthe cabsといったロックバンドに影響を受け、そこからharuka nakamuraやCuushe、さらにPredawnや君島大空といったフレキシブルな活動を行うソロミュージシャンに感銘を受けてきたという、ゆうさり。その柔軟な音楽性と活動スタンス、そして繊細でありながら逞しさも感じさせる心の姿は、アルバム『星をつぐ人』をきっかけにさらに広い世界で、たくさんの星々と出会うことになるだろう。

以下のインタビューでは本人に、本作『星をつぐ人』について話を聞いた。ゆうさりの音楽が描き出す様々な光――その多面的で肯定的な輝きについて、じっくりと語ってもらった。

ゆうさり 『星をつぐ人』 APOLLO SOUNDS(2024)

 

より多くの人に届けるためのバンド録音作

――1stアルバム『星をつぐ人』、素晴らしかったです。僕は昨日マスタリング済の音源を聴かせていただきましたが、出来立てほやほやですか。

「ほやほやです(笑)。制作期間がかなり長かったんですよね。最後にメンバーみんなでレコーディングしたのが今年7月なんですけど、去年7月にもアルバムのレコーディングはしていて。今年の1月には『ほとり』もリリースしているし、別の時空を行き来しながら作っていた感じがします(笑)」

――ミニアルバム『ほとり』と同時進行で制作が進んでいた時期もあるんですね。今作『星をつぐ人』は、1年前に想定していたものと、完成したものを比べたとき、合致する部分は多いですか? それとも、遠いところに来た感じがしますか?

「いい意味で、すごく変わりました。そもそもは宅録音源と合奏で録ったものをミックスして一つの世界観を作ろうとイメージしていたんですけど、阿部さん(本作のリリース元であるレーベルAPOLLO SOUNDSの代表・阿部淳)に〈全部バンドで録っちゃえば?〉と言われて。インタールードだけは自分で録ってミックスも自分でしているんですけど、それ以外はバンドで録りました。おかげで、強さのあるものになったと思います」

――バンドで録るとなったときに、ゆうさりさんが目指したバンドサウンドとはどのようなものでしたか?

「自分が今まで聴いてきて好きだったバンドの方向性が明確にあって。シンプルであることや、ダイナミクスが豊かであること――繊細な部分はどこまでも繊細に機微を表しているか、逆に大きくなる部分は天井の部分がどれだけ高いか。そういう部分を意識しました」

――好みのバンドサウンドを奏でているアーティストというと、具体的にどんな人たちが思い浮かびますか?

「Predawnのバンドセットの録音がすごく好きです。あとはPeople In The Boxとかthe cabs、10代の頃にはリーガルリリーや羊文学、カネコアヤノさんに衝撃を受けました。その人たちが聴いてきたバンドも聴きましたね。それにクレイロやサッカー・マミー、フィービー・ブリジャーズ、最近だと、山二つというバンドのアレンジや全体的な空気感に衝撃を受けました」

――改めて、ゆうさりさんにとって〈バンドだからできること〉とはどのようなものですか?

「生身の人間がベースを弾いてくれたり、ドラムを叩いてくれたりすることは、思っているよりすごいエネルギーを持っているなと思います。自分が映したかった景色をそのまま音に変換できるのは宅録で、そこにも気持ちよさはあるけど、やっぱりバンドじゃないと行けないところはあって。バンドだと映せる景色のレンジが広がるし、連れて行ってくれる場所が遠くなったり、広くなったりするイメージがあります。私はシガー・ロスが好きなんですけど、あの音楽はひとりだと作れないと思うんです(笑)。人が関わるって、すごいエネルギーですよね。

実際、今回のアルバムをバンドで録ったことで次のステップに進めた感じはありますし、先のことはまだわからないけど、今までひとりで作ってきた音源より、このアルバムは広いところや多くの人のもとに連れて行ってくれるんじゃないかと思います」

――今作が次のステップへ行けるものであってほしいというのは、制作されるうえで考えていたことですか?

「そうですね、ひっそりやりたいとは全然思っていなくて。パブリックイメージと自分の意志が嚙み合っていないところにもどかしさを感じていた部分もあったんです。より広い場所に行きたいし、より多くの人に届けたい……その素直な思いはアルバムに託したので、そういうところに連れて行ってもらいたいですね」