
表現と商業性・資本主義とのバランス
望月「話は飛びますが、原爆が落ちて来年で80年です。被爆体験を語って伝承する方って無報酬でお話しされるそうですが、もしお金が支払われることになったら表現が組織化され、質も画一化されるかもしれないと思ったんです。
choriさんと被爆体験者を同じように語っていいかはわかりませんが、もしchoriさんの表現やオーガナイズにある程度のお金がかかっていたら、何かが画一化されてしまっていたかもしれません。上の世代を呼ばなかったことを含め、その点は重要な気がします」
小島「つまり、商業ベースとの距離感についての話ですよね」
望月「そうです。同時に商業ベースへのることで洗練されていく面も当然あって、これは現代詩の課題でもあるかもしれません」
文月「choriさんに頼まれてイベントに出たり、2019年に〈詩人狼村5th〉というネット上での人狼企画で選評を書いたりしましたが、毎回謝礼を頂いていました。ただ、いつも思っていたのは、このお金はどこから発生してるんだろう?ということで(笑)。choriさんなりの思いやりだと思いますが、やはりどこか資本主義から離れている方だったと感じます。
例えば『ちょりびゅーと』収録作の“730”に、〈時給 730 円で パスタ茹でてるきみが 年収 何億円かの歌手の歌には涙こぼすのに 時給 730 円でレジ打ってるヤツの歌に 耳を傾けないのは なんでだ〉という部分がありますよね。何億円も稼げる人のすごさや価値って、時給730円で働く人からそうじゃない人まで多様な人が感動する音楽を生み出せることだと普通は考えるわけですが、choriさんはあまりに純粋というか、資本主義に染まっていなさすぎると思いました」
小島「彼は、お題をもらって即興で詩を組み上げることなどに関してもすごく上手でした。仕事の依頼でものを書くことも、へっちゃらでできる人間だったんです。なんぼでも書けると。例えば狂言師の茂山千之丞さんとの〈chori/童司〉というユニットでライブをする時、朝までに10編の詩を書けと言われたら、ある程度の水準以上の詩をちゃんと出してきたそうです。
だから彼は、商業ベースに適正があったと思います。そういうオファーをどんどんする環境を作っていたら、突破口を開けたんじゃないかと思うんです」
文月「『詩学』が休刊したタイミング(2007年)などでchoriさんに再デビューしてほしかったのですが、その頃はもうリーディングの活動へシフトされていました。もう一度、中原中也賞を狙ってほしかったとは思います。choriさんは退路を断って、道を一つに絞りたかったのかもしれませんが」
小島「『すばる』に短編小説が載ったタイミングも何かのきっかけにできたと思うんですよね。その後に編集者とやりとりをして、ボツを食らってやめてしまったんですよ。彼は粘り腰がなかったんです(笑)。『すばる』に載せた作品で芥川賞がとれないから、もうやめてしまうと(笑)。
ただ、〈小説を書くのは別に好きじゃない〉とも言い切っていました。何のために書いたかというと、知名度を上げるため、売れるため、自分の立場を世間に広めるためだったと。それも、言うたら不純な動機ですよね(笑)。不純でもいいから、やり切れたらよかったのですが。
音楽においても、チャンスはいくつもありました。レーベルに所属して全国流通盤を出しましたし、メジャーデビュー寸前のところまで行っていた。音楽なんて詩よりもっと商業ベースなので、開き直って使えるものを全部使ったらよかったのに、choriは中途半端だったんですよね。裏千家の門の前でアー写を撮ってはいましたが(笑)」
文月「choriさんの生活スタイルも関係していますか? 体調管理の問題とか」
小島「それは当然ありますね」
文月「私も結婚して人と暮らすようになり、生活が整ったことでメンタルがかなり補強されました。作品を作る、表現する以前に生活という土台がないと踏ん張れないんですよね」
小島「メンタルって、まずフィジカルから来ると僕も思います。そこは、彼は壊滅的にダメでしたね(笑)。
彼自身、もっと早く死ぬと思っていたんやないでしょうか。choriを10代の頃から知っている詩人の方に話を聞いたら、彼の人生プランに〈30代〉というのはなかったそうです。例えば25歳までにビルボードの1位をとれていなかったら、その後の人生なんて必要ないと思っていたかもしれません。ただ軸を他者や社会からの評価に置いてしまっていたので、それが得られないと満たされなかったという」
望月「承認欲求の話ってすごく難しいですよね」
小島「choriは承認欲求の塊でした。承認欲求が富士山より高かったんですよ(笑)」
望月「ハーバード大学の研究では、適切なコミュニティに所属し、相手からも必要とされ、自分も相手を必要としている状態がいちばん幸せなんだそうです」
小島「これは本人に聞いたことではないのでわかりませんが、もしかしたらchoriは幸せになってはいけないと思っていたかもしれません。要するに、裏千家を継ぐ立場である長男でありながらも家を出る、という前代未聞の行動で犠牲や無理を強いた人が多すぎるので」
文月「裏千家を継ぎながら詩人になる可能性もあったのでしょうか? 私や大抵の人ならそう考えると思いますが、choriさんの信念は違ったんでしょうね」