結婚(ニービチ)の祝宴に継承されるウチナー伝統音楽の豊饒

 沖縄の結婚式の披露宴は派手なことで知られている。芸能の島だけあって、数百人規模の披露宴にプロが招かれることもあるが、新郎新婦の関係者がわれもわれもと芸の腕を競うのだ。かつてお屋敷の庭などで行なわれた披露宴には、通りがかった人までそのまま参加するという伝説もあった。いまはホテルで行なわれることが増えたので、さすがにそれはない。

 『沖縄ニービチソング決定盤』は、そんな沖縄の結婚式・披露宴で演奏される伝統的な民謡や古典の定番曲を収録したアルバムだ。八重山古典音楽の部分を担当した高那真清によれば「ニービチとは根引きと書きます。沖縄方言で結婚のことです。男の求婚を女が断って、木にしがみついて離れない。それで男が木の根っこごと引き抜いて連れて帰って妻にしたという伝説があるんです」とのこと。

結ヌ会, 喜久山節子, 石川陽子 , 長嶺ルーシー, 高那真清, 垣花貞子 『沖縄ニービチソング決定盤』 RESPECT RECORD(2024)

 沖縄の披露宴のSNSの映像の数々を見ると、音楽は何でもあり感が強いが、節目節目には伝統音楽が場の空気を引き締める。

 「オープニングのことを座開きと言うんですが、沖縄本島では“かぎやで風節”、先島諸島の宮古島では“とうがにあやぐ”、八重山諸島はちょっと変わっていて、新郎側の兄弟・姉妹が“かぎやで風節”か“赤馬節”、新婦側が“鷲ぬ鳥節”をやります。これは戦後のことで、戦前は“赤馬節”をやっていたんじゃないのかな」

 ひとくちに沖縄と言っても本島と宮古島や八重山諸島では、ずいぶん離れていて、音楽もちがうわけだ。以後、親戚、友人、知人、職場の同僚などが余興を出し合う。そのため結婚式が決まると、みんな一所懸命練習するんだそう。宴の終わりは、伝統曲のカチャーシーで盛り上がる。

 「本島では“唐船どーい”。宮古島では“くいちゃー”。八重山では“六調”のことが多く、その後新郎新婦を“弥勒節”で送り出す。新郎新婦がポップスを使う場合は、“弥勒節”は客が帰るときに演奏する」

 高那真清が三線を手にしたのは18歳のときだから遅いほうだが、お祝い事の地方を頼まれているうちに、古典音楽の道に進んで、いまに至っているという。鑑賞のためにではなく、実用的に演奏することで、民謡や古典曲が暮らしの中で生きて継承されていく。宴会好きが芸能の豊かさを支えていると言うこともできるだろう。

 「伝統的な音楽が身の回りにある環境だから、特殊なものとしてではなく、自然な形で受け止めてきた。先祖が代々つなげて遺してくれたおかげで、われわれもうたえるわけです」