話題の映画「ロボット・ドリームズ」を音楽監修の原見夕子が語る!!

 昨年11月に日本公開されるやいなや、孤独なドッグとロボットの交流を描いたハートフルなストーリーが全国に感動の渦を巻き起こしているアニメーション映画「ロボット・ドリームズ」。スペイン人監督、パブロ・ベルヘルにとって初のアニメ作品である本作は全編セリフなしにもかかわらず、アース・ウィンド&ファイアの名曲“September”を筆頭に既発曲や劇伴が言葉以上のエモーションを物語に加えており、音楽も賛辞を集めています。そんな「ロボット・ドリームズ」のサントラが日本盤としてリリース。アルフォンソ・デ・ヴィラロンガの手掛けた劇伴に加えて、この日本盤だけのボーナス・トラックとして“September”も収録した特別仕様の一枚です。今回は、監督の公私にわたるパートナーで、「ロボット・ドリームズ」の音楽監修を担当した原見夕子さんにインタヴュー。ご自身の歩みから本作へのこだわりまで、たっぷりとお話いただきました。

ALFONSO VILALLONGA 『「ロボット・ドリームズ」オリジナル・サウンドトラック』 Milan/ソニー(2025)

 

80年代のNYをください!

――原見さんとパブロ監督はNYの映画学校で出会ったそうですね。

「はい。私は90年に写真学校に入るためにNYに行ったんですが、その学校を出たあと映画学校に入学したんです。もともと母親の影響で幼い頃から映画は生活の一部でした。パブロはその映画学校の教師だったんです。NYには10年くらい住んで、パブロの初めての長編映画を作るために渡西しました。それからはマドリードに住んでいます」

――パブロ監督の作品には「Torremolinos 73」(2003年)から関わっていますね。

「映画学校にいたときから、パブロは教師として私の作品に関わっていたわけで、一緒にものを作ることが私たちの核になっています。常に中心には映画がある感じ。パブロの長所はスタッフの意見によく耳を傾けることですね。いちばん大切なのは〈伝えたい話をセリフではなく映像でしっかり伝える〉ことで、そのためにスタッフ全員の頭脳をフル活用します」

――2017年の「アブラカダブラ」と今回の「ロボット・ドリームズ」ではミュージック・エディターとしてクレジットされていますが、その立場で特に気にしている点は?

「音楽は作り手の意図と登場人物の感情を正しく観客に伝えなければいけません。音楽によってシーンはドラマにもコメディーにもなるので。私がいちばん気を付けていることは、決して押し付けがましくならず、音楽が語りすぎないようにすることです」

――原見さんの音楽的なバックグラウンドを教えていただきたいです。

「幼い頃からピアノを弾いています。日本に住んでいた頃は、母がよく大阪フェスティバルホールのクラシック・コンサートに連れて行ってくれたものです。いま好んで聴いているのはクラシックとジャズですが、80年代はジュリアン・コープに熱狂していました」

――「ロボット・ドリームズ」の劇伴はジャズが基調になっていますよね。

「単純に、〈NYといえばジャズ〉という発想です。チック・コリア、ゲイリー・バートン、モダン・ジャズ・クァルテット、そしてブラッド・メルドーを参考にしました」

――作曲家のアルフォンソ・デ・ヴィラロンガはパブロ監督作の常連ですが、今回は彼にどうオファーしたんですか?

「〈80年代のNYをください!〉と頼みました。彼はあまりジャズを作らないのですが、NYに住んでいたこともあったので、求めてくれるものを理解してくれるだろうなと」

――劇伴のなかで原見さんの特にお気に入りの1曲は?

「あえて選ぶなら“The Card Players”でしょうか。メインテーマの4つのヴァリエーションのひとつですが、他のシーンより少し軽くするために楽器と音色を変えて、70~80年代のサウンドに近づけました。とても好きな場面なので音楽がぴったり合って満足です」

――“The Card Players”は、スキー場からの帰りの車中でドッグが窓にロボットの絵を描くシーンで使われていますね。私が特に愛聴しているのは、ドッグとロボットが公園を歩くシーンで流れるスティールパンが印象的な“Vivalding At The Park”です。

「スティールパンの音は、当時NYの公園や街中、地下鉄を満たしていました。このシーンでの演奏はちょっぴり素人っぽくて、本当にセントラル・パークで聴いているようです。この曲は大好きな映画『クレイマー クレイマー』へのオマージュでもあります。実は公園のシーンのなかに、ダスティン・ホフマンとジャスティン・ヘンリーがちらっと登場していますよ。木が開いて道が見える瞬間です」