歌と踊りの二刀流でスターダムを駆け上がるカナダの新星! 来日公演を経て届いた待望のサード・アルバムはポップスターとして覚醒した現在を鮮やかに映し出す!
成功ゆえの葛藤
“greedy”のヒットを生んだ『THINK LATER』(2023年)を聴き、以降の動きを“It’s ok I’m ok”や“Sports car”などで追ってきた人なら、これこそが彼女のやりたかったことなのだと改めて実感させられたに違いない。パフォーマンスの映像から伝わるのも、ダンサーという自身のルーツに忠実なパフォーマンスをクールなヴォーカル表現と融和したテイト・マクレーの姿だ。昨年10月の初来日公演を観た人ならその思いはより強いことだろう。このたび初めて日本盤が登場するサード・アルバム『So Close To What』によって、彼女の本質はさらに明確に世界へ提示されるはずだ。
カナダはカルガリー出身、2003年生まれのテイト・マクレー。母親がダンス教師だった関係で、そもそも幼い頃から彼女が熱中していたのはダンスだったという。早くからプロのダンサーをめざして研鑽し、10歳の頃にはNYのダンス・アワードで表彰もされた。キッズ・ダンサーとしてジャスティン・ビーバーのステージに立つという経験もしている。2016年にはUSの人気オーディション番組「アメリカン・ダンスアイドル」に出演し、カナダ人として初のファイナリストに選出されもした。
ただ、自身のYouTubeチャンネルにダンス動画と並んで投稿しはじめた自作曲がそれ以上に多くの耳を惹きつけることになり、4000万回以上の再生回数を記録した“One Day”を彼女は配信リリースしている。例えば同世代のビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴらのような才能が世間に発見されていく時代の空気のなかで、ティーンなりの喪失感や感情の機微を繊細に歌う当時のテイトの表現もまた注目される流れだったのだろう。2019年にRCAと契約した彼女は、“tear myself apart”や“all my friends are fake”などを経て2020年1月に最初のEP『all the things i never said』を発表。さらに4月には“you broke me first”がTikTok経由でブレイクする。翌年のセカンドEP『TOO YOUNG TO BE SAD』もそうした初期設定に則って作られ、そして2022年のファースト・アルバム『i used to think i could fly』は、フランク・オーシャンやウィークエンドらの影響を素直に反映していた。
ただ、そうした儚げなダーク・ポップ路線と彼女が熱中してきたダンスを融合するのは困難で、その頃のテイトには葛藤があったという。確かに初作は好内容でヒットを記録したものの、その方向性で成功すればするほど本人の理想的なパフォーマンスからは遠ざかっていきかねない。そこで自己の表現を改めて見つめ直し、望ましい形で両方の要素を共立したのが“greedy”だったわけだ。