英国の北ロンドン出身、2000年生まれのシンガーソングライター、マヤ・デライラ。名門ブリット・スクールで音楽を学んだ彼女の親密な歌声、等身大の歌詞、巧みなギタープレイはTikTokやInstagramを通じて爆発的な支持を得た。

コロナ禍に覆われた時代に音楽で人々を癒し、魅了したマヤは2022年、なんと伝統あるレーベル、ブルーノートと契約。そして、ついにデビューアルバム『The Long Way Round』を完成させた。さらに、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’25〉への出演も発表されたばかりだ。

今回は、そんな気鋭の才能にTOWER VINYL SHIBUYAへ来店してもらい、自身が影響を受けたレコードやお気に入りの作品を選んでもらった。マヤという音楽家を形成した〈長い道程〉も伝えるインタビューになっている。 *Mikiki編集部

※このインタビューは2025年3月25日(火)に発行予定の「bounce vol.496」に掲載される記事の拡大版です

MAYA DELILAH 『The Long Way Round』 Blue Note/Capitol/ユニバーサル(2025)

 

通学時に毎朝聴いたキース・ジャレットの美しいピアノ

──選んでいただいたのは5枚。マヤさんの決めた順番で話していただけたらと思います。

「キース・ジャレット『The Köln Concert』(1975年)から始めます。ずっと大好きなアルバムなんです。キース・ジャレットが好きだということもあるけど、懐かしい気持ちにさせてくれるアルバムでもあるから。もともとは父の大好きなレコードなので。

KEITH JARRETT 『The Köln Concert』 ECM(1975)

毎朝、車で学校まで送ってもらうとき、何度もこのアルバムを聴いた。特に“Part III”(おそらく“Part II b”のこと)は感動的でお気に入りでした。彼が椅子に腰掛けてピアノを弾き始めたら、もうすべてが即興なんです。 

実はこの日、コンサートの終盤に彼は激怒して会場を出て行ったんですよね。弾いていたピアノがリハーサル用のもので、状態が悪かったから腹を立てていたわけ。誰かが彼を説得して会場に連れ戻したんじゃなかったかな。でも、そんなことがあったのに“Part III”はこのアルバムでも際立って美しい曲になっています。すごいですよね」

──初めて聴いたとき何歳くらいでした?

「たぶん、10歳かな。父が学校に送ってくれるようになったのがその年だったから」

──最初はきっとジャズだとも思わずに聴いていたんでしょうね。

「まさか! ジャズだなんてぜんぜんわかってない。むしろ、バレエの曲だと思っていたかな。この中で、すごく好きなパートがあるんですけど、それは3秒くらいの短さなんです。そこだけ瞬間的にクラシックのように聴こえる。私は子どもの頃バレエを習っていたからすごく好きになったのかも。今もそのパートを聴くと、バレエを思い出します。

でも、それだけじゃない。いろんなジャンルが混ざり合っているようにも聴こえていたし、そもそもジャンルなんか関係なく美しい曲だと思っていました」