(左から)Kenny Wollesen, Victor Gonçalves, Emi Makabe, Thomas Morgan, Jason Moran
©Kuo-Heng Huang

父の死を乗り越えて、到達したスピリチュアリティ

 ニューヨーク、ブルックリンを拠点に活躍する、シンガー/三味線プレイヤーのエミ・マカべが、セカンド・アルバム『Echo』をリリースする。前作『Anniversary』に続き公私とものパートナー、トーマス・モーガン(ベース/ヴォーカル)を中心としたレギューラー・クァルテットに、ゲストとしてビル・フリゼール(ギター)、ジェイソン・モラン(ピアノ)、ミシェル・ンデゲオチェロ(MC)を迎え、その音楽の世界観をさらに拡大した、スピリチュアルな一作である。

Emi Makabe 『Echo』 Sunnyside(2025)

 2021年、マカべは最愛の父を失った。パンデミック下で、最後を看取ることができず、マカべは後悔と、心に傷を負う。翌2022年、マカべはチェンバー・ミュージック・アメリカの奨学金を得て、ジェイソン・モランのメンターシップを受けることになる。マカべのレギュラー・クァルテットのリハーサルを、モランに聴いてもらい、彼女の音楽観を揺さぶられる示唆を受けたという。そしてマカべは、モランをコ・プロデューサーに迎え、父を追悼したアルバムを制作することを決意し、完成したのが本作『Echo』である。

 共鳴を意味するEchoと、日本語の亡き人への祈りを意味する回向、アラビア語の同語の意味する強い郷愁や記憶を、このタイトルに込めた。ビル・フリゼールがアコースティック・ギターで、スピリチュアリティに深遠さをもたらした“The Birthday Song”。ボリショイ・バレエ団で活躍した岩田守弘にインスパイアされた“Morisan”は、ジェイソン・モランが参加し、クァルテットが音楽をプレイする歓びに満ちたという。モランのアイディアで、ミシェル・ンデゲオチェロがMCで参加した2曲も、ストーリーに説得力をもたらしている。クァルテットも、ピアノ、ベース、ドラムに加えて、ヴィトール・ゴンサルヴェスはアコーディオン、ウーリッツァー、ウォルセンはヴィブラフォンを、マカべはフルート、モーガンはコーラスを担当し、サウンドに多彩なカラーを施した。悲しみを克服して、エミ・マカべはアーティストとしての、さらなる高みに到達した。