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新たな領域へ踏み出したアルバム『ヨイトマケの唄』

そんな異端児が、いわゆるメルヘンチックなシャンソンの世界に嫌気がさし、みずからの言葉を用いて人間の業に迫る歌曲を作り始めるようになるのは間もなくのこと。自分にしか歌えないテーマを発見し、丹念に言葉とメロディーを積み重ねながら血の通った音楽を生み出していく。

彼が新たな領域へと踏み出していった時期を映し出す作品でいうと、今回配信されたなかでは、アルバム『ヨイトマケの唄』(1966年)がそれにあたるだろう。抒情味溢れる歌詞とメロディーを持った“うす紫”(不遇だった音楽学校時代に書かれた曲)、戦争の記憶を色濃く反映させた“ふるさとの空の下に”(東京から長崎へと帰郷する汽車で偶然に知り合った青年をモデルにした曲)など、どっしりした一本気を感じさせるブレのない歌唱が圧巻で、身も心も引き締めてくれる名曲がズラリ並んでいる。

美輪明宏 『ヨイトマケの唄』 キング(1965)

この時期のシングルでは“湯どうふの唄”(1966年)もステキだ。ありふれた父子家庭の風景をほのぼのとハートフルに描き出したこの曲は、ひとりで何役もの感情を巧みに表現してみせる氏の面目躍如的ナンバーであろう。

それから“黒蜥蜴の唄”(1968年)である。深作欣二監督作「黒蜥蜴」の公開に際して発表したラウンジーな人気曲で、美輪の良き理解者のひとりである中村八大による洒落たボサノヴァアレンジもとてもイカしている。

 

どの曲も放送禁止歌のようなカルトアルバム

同時期には、寺山修司の〈劇団天井桟敷〉で上演された「毛皮のマリー」、ジャン・コクトーの戯曲を三島由紀夫監修で翻訳した「双頭の鷲」といった舞台作品、五社英雄や深作欣二が演出を手掛けたテレビドラマ「雪之丞変化」といった映像作品でも充実した仕事を残しているが、そんな彼が現在の〈美輪明宏〉に改名したのが1971年。その後の注目すべき作品に、フォーク3大レーベルのひとつ、エレックレコードからリリースされたセルフプロデュースアルバム『白呪』(1975年)がある。

美輪明宏 『白呪』 エレック(1975)

21世紀以降に幾度かCDで再発され、たくさんのリスナーの耳に届けられた本作に対して抱くイメージは、日本音楽史きってのカルトアルバム、といったものではないか。軍靴が地面を踏みしめるザックザックという音と頼りなげな進軍ラッパがイントロを飾るオープニング曲“祖国と女達(従軍慰安婦の唄)”からして痛烈。演劇チックな表現スタイルとアングラロックサウンドが結びついた“悪魔”とかやたらとプログレッシブだし、どのアプローチもかぎりなく先鋭的。次から次へと背筋が寒くなるような叫びや囁きが通り過ぎていくなど、どの曲も放送禁止歌のような佇まいをしている。しかしこれぞ、弱き者たちの声にならない叫びを代弁しながら、既存の文化体制に向けて異議を唱える彼の真骨頂といえる作品だろう。

低音や高音を巧みに使い分けながら、弱さも醜さも丸ごと包み込む愛、そして鋭くて燃えるような怒りを表現していく様子からは、建前のない本音でのみ勝負する基本スタンスが明確に窺えるし、とにかく彼以外には歌いこなせない迫力と情感をたっぷり堪能できる1枚であると断言できる。

ところで彼のディスコグラフィーには『日本心中歌謡史 (情死―その愛と死)』(1973年)なる優れた企画アルバムもあるが、現在ではなかなか機会に恵まれない状況となっている。こちらも早く日の目を見る日がくることを心から願う。

 

〈聖なる怪物〉の本質に迫る名ライブ盤

美輪の美意識に共鳴した三島由紀夫が氏を〈聖なる怪物〉と評したそうだが、言葉の真の意味を理解するための手がかりとなるのは、残されたいくつかのライブアルバムなのかもしれない。なかでももっとも数多くの答えを詰め込んでいると思われるのが『老女優は去り行く 美輪明宏のすべて』(1978年)だ。

美輪明宏 『老女優は去り行く 美輪明宏のすべて』 CBS/ソニー(1977)

〈銀巴里生活25周年記念リサイタル〉として1977年7月23日に東京・郵便貯金ホールで開催されたライブを収めた本作は、振れ幅のある歌声でひとつの曲の中に豊かな人生を描き出す氏の特異なパワーが充満した1枚となっている。何よりも、歌は祈りであるという真理を実践する喜びに打ち震えるようなパフォーマンスひとつひとつが眩くてしょうがない。

 

タランティーノらも愛する傑作主演映画

と、ここまで音源を中心に紹介してきたが、氏が主演を務めた映画「黒蜥蜴」(1968年)と「黒薔薇の館」(1969年)がBlu-ray/DVDでリリースされるという素晴らしい出来事も起きたばかりなので併せて紹介したい。

深作欣二, 丸山明宏 『「黒蜥蜴」「黒薔薇の館」』 松竹(2025)

江戸川乱歩の小説を三島由紀夫が戯曲家した「黒蜥蜴」は、美輪 × 三島ならでは美的感覚がスクリーンいっぱいに炸裂した美と倒錯の世界。フィルムノワール的な退廃美がとにかく圧巻で、クエンティン・タランティーノやジョン・ウーといったフィルムメイカーたちが本作に対する尽きせぬ想いを表明していることも有名だ。

そして「黒蜥蜴」に続いて深作欣二がメガホンをとった「黒薔薇の館」もまたシネフィル垂涎の一作であり、若き日の繊細で儚げな田村正和と麗しくも危険な香りを放つ美輪との絡み合いが最大の見どころとなっている。

どちらも所有して手元に置いておきたい魅惑の逸品。この機会をけっして逃してはいけない。

 


RELEASE INFORMATION
美輪明宏シングル/アルバム25タイトル 配信サイト一覧:https://bio.to/akihiro_miwa

■配信楽曲情報
【シングル】
1965年6月10日発売 “ヨイトマケの唄”
1965年11月1日 “太陽が大好き”
1966年11月1日 “湯どうふの唄”
1967年6月1日 “雪国の女ごころ”
1968年8月10日 “黒蜥蜴の唄”

【アルバム】
1965年12月10日『ヨイトマケの唄』
1968年10月20日発売『丸山明宏 デラックス』
1969年8月10日発売『別れのブルース-丸山明宏“おんな”と“愛”を唄う-』
1987年4月21日発売『美輪明宏の世界』
1991年8月21日発売『愛の贈り物』
1992年10月21日発売『CHANTE LES TUBE POPULAIRE EUROPIA』
1995年9月6日発売『昭和の名歌を唄う』
1999年8月27日発売『日本の心を歌う』
2001年2月21日発売『<愛>を歌う』
2002年10月22日発売『古賀メロディーを唄う』
2006年11月8日発売『日本の詩を唄う』
2013年12月25日『BRAVA DIVA MIWA』

 

深作欣二, 丸山明宏 『「黒蜥蜴」「黒薔薇の館」』 松竹(2025)

リリース日:2025年6月11日

■Blu-ray
構成数:2枚
品番:SHBR-0769
価格:12,100円(税込)
封入物:黒蜥蜴ポスター(B3変形サイズ)
映像特典:「黒蜥蜴」「黒薔薇の館」オリジナル予告編

■DVD
構成数:2枚
品番:DASH-0157
価格:11,000円(税込)
封入物:黒蜥蜴ポスター(B3変形サイズ)
映像特典:「黒蜥蜴」「黒薔薇の館」オリジナル予告編