シティポップ、ボカロ(ボーカロイド)、R&B、レゲエ……。よく耳にするあの音楽ジャンル名って、実際はどんな音楽を指しているの? そんな疑問に答え、音楽を一歩踏み込んで知ってもらうため、タワーレコードの音楽ガイドメディアMikikiが新連載〈音楽ジャンル再入門〉をスタートさせます。第2回は、初心者でもわかるボカロ入門。背景情報や海外で人気が高い理由、代表的なキャラクター、名曲・人気曲などをしっかりと紹介。これを読めば、音楽を聴くことがもっと楽しくなるはず!

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ボカロ(ボーカロイド)とは何か?

〈ボカロ〉とは、ヤマハ株式会社が開発し、2003年に発表した歌声合成技術・ソフトウェア〈VOCALOID(ボーカロイド)〉の略称。いわゆるデスクトップミュージック(DTM)で使用するソフトの一種で、歌詞とメロディを入力することによって、パソコン上で歌声を自由に作成することができる。

現在はソフト自体だけではなく、ボーカロイドを使って制作されたボカロ曲(ボーカロイドの楽曲)や作品、楽曲を制作するボカロP(ボーカロイドのプロデューサー、作曲家)、さらにイラストや動画と組み合わさった、インターネット上の音楽カルチャー全般や総体を指す言葉として広く定着している。

ボカロ(ボーカロイド)という言葉が指すものは?

前述のとおり、〈ボカロ〉とは本来ソフト自体を指す略称だったが、ボーカロイド文化の全体を指す言葉として使われている。2007年の初音ミクの登場以降、ニコニコ動画のような動画投稿サイトが主な震源地となり、電子掲示板やSNSを通じてボカロはネット上で現象化した。ボカロを用いて制作された楽曲が多数生まれ、それらの作者であるボカロPや、動画につけられたイラストや映像の作り手、そしてファン・リスナーが一体になって、ネット上で独自のカルチャーやコミュニティ、シーンやムーブメントが自然発生的に作り上げられた。もともと単なる技術的な用語だった〈ボカロ〉は、より大きなものを指す言葉に進化している。

そのため、〈ボカロ〉が音楽ジャンルを指すかどうかは断言が難しい。というのも、ボカロ曲にはロックやJ-POP、ダンスミュージックといったさまざまなものがあり、楽曲によってジャンルが異なるからだ。しかし、作者も聴き手も〈ボカロ〉〈ボカロ曲〉をある程度ジャンルとして捉えている面はあるだろう(ちなみに、ユーマ株式会社の代表取締役・弘石雅和は、ボカロはジャンルではなく総合的なアートに通じるもので、ヒップホップやテクノにおけるストリートがネットだと柴那典の著書「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」で語っている)。

VOCALOID(ボーカロイド)とは?

こちらもすでに書いたが、〈VOCALOID(ボーカロイド)〉とはヤマハ株式会社が開発した歌声合成技術、およびその応用ソフトウェアのことで、商標登録されている。フリーソフトのUTAU(ウタウ)、株式会社テクノスピーチらが生んだCeVIO(チェビオ)といった類似ソフトも存在するが、VOCALOIDはヤマハの技術だ。

VOCALOIDは、パソコンなどの画面上でメロディの音符と歌詞を入力するだけで、まるで人間が歌っているかのような歌声を自由に作り出すことができる。初音ミクにおける藤田咲のように、実在の声優や歌手の歌声をサンプリングしたものも多い。2003年の発表から数年はあまり広がらず、プロジェクト自体が危機に瀕していたが、2007年の初音ミクの発売で一大ムーブメントになった。

その後も現在に至るまでバージョンアップを重ね、リアルで滑らかな歌声の表現がどんどん可能になった。また、キャラクター/音声自体も多数の種類が発売されている。VOCALOIDは、DTMの世界に革命をもたらした技術なのだ。

ボカロ曲とは?

〈ボカロ曲〉とは、VOCALOIDなどの音声合成ソフトウェアによって生み出された歌声が歌唱パートを担当する楽曲のこと。ボカロPと呼ばれる作家が作詞・作曲・編曲を担い、ニコニコ動画やYouTubeといった動画サイトを主な発表・活動の場にしていた。

実在の人物の声を使ったものも多いが、ボカロ曲の特徴はやはり人間ではなく機械やキャラが歌っていること。ボカロならではの、いい意味での違和感や機械っぽさ、電子的な響きがある歌声こそが魅力だ。また、ボカロは人間には歌いこなすことが難しい高速のテンポや、非常に高い音やロングトーン(長く伸ばす音)、高低差の大きな広い音域、ブレス(息継ぎ)のない複雑なメロディラインを自由に表現できる強みがある。

初音ミクの登場直後は、コミックソング的なネタ曲も多かった。また、キャラの設定をもとにしたキャラクターソング的なものも多数作られた。しかし、ボカロPの作家性を前面に打ち出した曲が増えていき、作り手にも注目が集まるようになった。ソフト(キャラ・音声)の選択、ボカロを駆使する技術、歌詞などが生む世界観といった点でそれぞれの個性・独自性が花開き、音楽性も多様なジャンルに広がったことで、ボカロ曲は大きな幅を持っている。

 

ボカロブームを巻き起こしたバーチャルシンガー、初音ミク

〈初音ミク〉とは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が2007年に発売した音声ライブラリ〈VOCALOID2 キャラクター・ボーカル・シリーズ01 初音ミク〉のこと。VOCALOID技術をもとにした歌声合成ソフト、およびそのパッケージに描かれたバーチャルシンガーが初音ミクだ。

クリプトンの〈ピアプロキャラクターズ〉の第1弾として発表され、〈未来的なアイドル〉という設定のキャラで、青緑色の長いツインテールの髪型やミニスカート姿などが特徴的なデザインになっている(ちなみに、クリプトンの代表取締役・伊藤博之は、「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」でDX100というシンセサイザーの意匠を取り入れたことを明かしている)。公式設定ではないが、ユーザーの創作が生み出した〈ネギ〉のような象徴的なアイテムもある。

初音ミクの登場によって、VOCALOID自体が大ブームとなり、ボカロはネット上で一気に現象化した。単なる歌唱ソフトの枠を越え、キャラとしての親しみやすさや魅力、設定が多くのクリエイターの創作意欲を刺激し、多くの人に愛される存在になった。初音ミクはボカロ界の最大の功労者なのだ。

2011年に〈MIKUNOPOLIS in LOS ANGELES〉を開催したことを皮切りに、初音ミクは世界各地でライブも行っている。国外でも広く認知され、ボカロ文化を象徴する、老若男女に愛されるアイコンなのだ。

ボカロ=初音ミクではない

しかし、〈ボカロ=初音ミク〉ではない。〈ボカロ〉と聞くと初音ミクを連想する者が多いだろうが、ボカロはあくまでも音声合成技術や文化全般を指す広い概念。初音ミクはその最大の象徴的存在だが、数多くある音声ライブラリ(ボイスバンク)のひとつではある。

たとえば、2004年に開発した初の日本語用VOCALOID〈MEIKO〉、2006年の男声ボカロ〈KAITO〉、初音ミクと同年に発売された〈鏡音リン・レン〉、2009年リリースの〈巡音ルカ〉など、ボカロにはクリプトンのものだけでも多数種類がある。2008年にはGACKTの声から生み出された〈がくっぽいど〉も話題になった。バーチャルシンガー花譜の歌声をもとにした2021年の〈可不〉のように新しいものも次々と生み出されており、個性豊かなキャラや声質を持つソフトが多数存在する。異なる魅力を持つソフトの多様性がボカロ文化を豊かにしているのだ。

 

ボカロが世界的人気カルチャーになった3つの理由

初音ミクの登場後、ボカロが〈ビッグバン〉とも評される爆発的なムーブメントになり、高い人気を獲得し、巨大な文化に成長した背景には、従来の音楽制作や音楽産業の常識を覆す画期的な仕組みと、ネット時代のファンコミュニティの存在があった。主な理由を3つの点から解説しよう。

理由1:個人がボーカル曲を手軽に制作・発表できるようになったため

以前はミュージシャンが作詞・作曲を行っても、ボーカリストを確保してスタジオでレコーディングをするには高いハードルがあった。ボカロの発展に影響した〈同人音楽〉の分野でも、〈歌姫〉と呼ばれる歌手たちの人気やギャランティの高さがネックだったという。

しかし、ボカロが登場したことでパソコン1台とソフトさえあれば、プロの歌手は必要なくなった。個人の制作環境でも、バーチャルシンガーによる高品質な歌によって楽曲を自宅で制作できるようになったのだ。しかも、機械だからこそ表現の幅も広い。先述のように、ボカロは人間の限界を超えた表現も自由にできるからだ。創作の自由度を上げたのがボカロだと言える。

米津玄師やAyase(YOASOBI)のような著名アーティストも生んだボカロ文化だが、ボカロPはスタート当初はほとんどがアマチュアだった。それは、ニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトで楽曲を発表し、レコード会社やレーベルを介さず個人が全世界に作品を直接発表できるネット環境が整っていたことが大きい。そこから人気を得たミュージシャンがメジャーデビューする、という流れも生まれた。

理由2:二次創作の連鎖(N次創作)による参加者の拡大

ボカロ文化の大きな特徴のひとつは、同人文化やオタク文化と同様に〈二次創作〉が生まれる点にある。あるボカロPが投稿した楽曲をきっかけに、イラストレーターが絵を描き、動画制作者がミュージックビデオを作り、歌い手が〈歌ってみた〉動画でカバーを投稿し、ダンサーが〈踊ってみた〉を撮る、といった創作の連鎖が自然発生的に起きたこと(N次創作)が、ボカロの世界を豊かにしたのだ。

これには、公式側の寛容な姿勢も大きく寄与している。初音ミク発売の約4か月後、2007年12月にクリプトンは二次創作のガイドラインを提示(「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」では、自由な創作を生むルール設定とクリエイター同志でのマナーの定着を目指したことを伊藤が語っている)。これにより、ファンを含め多くのユーザーが当事者として文化に参加できる環境が形成された。ボカロに関わるものがどんどん派生して広がっていくエコシステムが、人気の長期化と巨大化をもたらしたと言える。

理由3:キャラとしての魅力と自由な世界観の表現

ボカロの多くは、初音ミクを筆頭に魅力的なイラストのビジュアルやキャラ設定を持っている。だからこそ、単なる〈DTMで音楽を制作するソフト〉という領域を超え、制作者も聴き手もキャラに感情移入したり親しみを感じたりできる。ボカロが単なるソフトや技術を超える存在になったのは、それが魅力のあるキャラだったからだ。

しかし、ボカロの多くは特定の物語や決まった性格が厳密に設定されているわけではない。あくまでバーチャルな存在で、原作・原典はないことが多い。だからこそ余白があり、クリエイターたちはストーリーや世界観を自由に作り上げ、それらをボカロに託して歌わせることができる。それによってラブソングから青春の1ページ、生活感のある歌、SFの曲、ファンタジーの世界を描くものまで多種多様なボカロ曲が生まれた。その自由度の高さが聴き手の想像力をかき立て、多くのファンを夢中にさせる要因になっている。

 

ボカロの人気キャラクター/ソフト10選

ここでは、ボカロカルチャーを代表する人気キャラクター10組をご紹介。国民的ヒット曲となった“千本桜”などで知られる初音ミクをはじめ、個性豊かなバーチャルシンガーたちのプロフィールをチェックしよう。

初音ミク

クリプトンから〈キャラクター・ボーカル・シリーズ〉第1弾として2007年に発売された音声合成ソフトであり、ボカロ文化を象徴するシンガー。年齢16歳、身長158cm、体重42kgの設定で、ブルーグリーンの長いツインテールがトレードマーク。声優・藤田咲の声をもとにした、高音まで心地よい可憐な歌声の持ち主だ。ボカロシーンに革命を起こした“メルト”や“千本桜”など数々の大ヒット曲を生み出してきたほか、海外でのライブツアーの開催や安室奈美恵にレディー・ガガら有名アーティストとコラボレーションするなど、〈電子の歌姫〉はその名を世界中に轟かせている。

重音テト

2008年のエイプリルフールにインターネット掲示板の2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で〈ジョーク〉として創作され、UTAUで実用化されたバーチャルシンガー。年齢は31歳、性別はキメラ、身長159.5cm、体重47kgの設定で、赤いドリル型のツインテールとフランスパン好きという個性的なプロフィールを持つ。2023年に歌声合成ソフトウェア〈Synthesizer V〉版が発売されるやいなや、人間らしい息遣いとエッジの効いた歌声を獲得。劇的に進化した表現力をもとに“人マニア”“オーバーライド”“テトリス”など大ヒット曲が次々に誕生するなど、誕生から15年以上を経た現在、ネット音楽シーンの最前線で活躍している。

鏡音リン・レン

2007年に〈キャラクター・ボーカル・シリーズ〉第2弾として登場した、14歳の少年少女からなるバーチャルシンガー。ともにブロンドヘアで、エメラルドグリーンの瞳を持っている。大きなリボンが目を引く女の子・リンのキュートでありながら力強く高らかに響く高音と、男の子・レンのハキハキとしたパワフルで疾走感のある歌声が重なり合うことで、ソロはもちろん、デュエットで圧巻の存在感を放つ。“炉心融解”や“テレキャスタービーボーイ”などそれぞれのソロ曲から2人で掛け合うナンバー“劣等上等”まで幅広くこなし、鏡合わせのような独特の表現力で絶大な人気を誇っている。

巡音ルカ

2009年に〈キャラクター・ボーカル・シリーズ〉第3弾として誕生した、20歳のバーチャルシンガー。ピンクのロングヘアとエレガントなスリットドレスがトレードマークであり、クールでハスキーな歌声の持ち主として知られる。日本語だけでなく英語の歌唱にも対応したバイリンガル仕様が最大の特徴で、ジャズからR&B、EDMにロックまで大人っぽいジャンルで抜群の存在感を放っている。“ダブルラリアット”や“ルカルカ★ナイトフィーバー”など数々の名曲を通して、初音ミクや鏡音リン・レンとは一線を画すアンニュイな魅力で熱烈なファンを生み出し続けている。

KAITO

2006年に登場した男性バーチャルシンガー。青いヘアとロングマフラーがトレードマークで、爽やかさと温かみを併せ持つ伸びやかな歌声が特徴だ。“千年の独奏歌”や“上弦の月”など情緒豊かな和風曲やバラードで圧倒的な存在感を誇り、頼れる姿から愛される情けない一面まで幅広いキャラ性で親しまれている。愛称は〈兄さん〉。

可不

〈CeVIO AI〉の技術を用い、バーチャルシンガー・花譜の歌声をもとに作られたキャラクター。白髪とサイドの髪飾り、そして少しハスキーで切なさを帯びた歌唱表現が特徴だ。“きゅうくらりん”や“マーシャル・マキシマイザー”などの大ヒット曲を生み出し、ボカロシーンに新風を巻き起こしている。

flower

少年のようなハスキーさと、鋭くエッジの効いた歌声が特徴の女性バーチャルシンガー。“シャルル”や“ベノム”に代表されるように、疾走感あふれるロックやダークな楽曲と抜群の相性を誇る。その中性的な格好良さは、感情の爆発や激しさを表現したいクリエイターから絶大な支持を集めている。

GUMI

グリーンのヘアとゴーグルがトレードマークのバーチャルシンガーで、株式会社インターネットが2009年に発売したMegpoid(メグッポイド)のキャラ。声優・歌手の中島愛の声をもとに制作され、人間の声に近い自然で伸びやかな歌唱力が魅力だ。“KING”や“モザイクロール”など、ポップスから硬派なロックまでどんなジャンルにも馴染む汎用性の高さで、数多くの名曲を生み出す原動力となっている。

MEIKO

〈姉さん〉の愛称で親しまれる、2004年に誕生した日本初のボーカロイド。赤い衣装とショートヘアが特徴で、ソウルフルかつパワフルな歌声の持ち主だ。“Nostalogic”や“悪食娘コンチータ”など、大人っぽくダイナミックな楽曲で圧倒的な存在感を放ち、ボカロ文化の黎明期から愛され続けている。

IA

1st PLACE株式会社が2012年に発表したIA -ARIA ON THE PLANETES-。歌手のLiaをもとにした透明感のあるクリアな高音と圧倒的な歌唱力で人気を誇っている。透明感と芯の強さを両立した声質は幅広い曲調で映え、“アスノヨゾラ哨戒班”“スーパーヒーロー”“Henceforth”といった人気曲を歌ってきた。「カゲロウプロジェクト」のメインボーカルを担当したことで人気を博し、世界的に知られる存在になった。

 

ボカロPや歌い手、イラストレーターなどボカロのクリエイターたち

続いて、ボカロカルチャーの根幹をなすクリエイターたちをご紹介。楽曲を生み出すボカロPはもちろん、その拡散やブームの発展を支える各活動者の多様な役割と相乗効果を紐解いていこう。

ボカロP

〈P〉はプロデューサーを意味する。楽曲の作詞・作曲・編曲を行い、VOCALOIDやUTAUなど音声合成ソフトを使用してオリジナルの音楽を創り出す、ボカロ文化の核心的担い手だ。初音ミクなどバーチャルシンガーを駆使することで、人間には歌唱するのが難しい高速テンポや難解なメロディラインを取り入れた独創的な楽曲を生み出し、ニコニコ動画やYouTubeといった動画共有サイトで公開している。

今や日本を代表するシンガーソングライターである米津玄師はボカロPの〈ハチ〉名義でキャリアをスタートさせたほか、世界的ユニットとなったYOASOBIのAyaseもボカロPとして登場した歴史を持つ。さらに、Adoの“うっせぇわ”(syudou作)やyamaの“春を告げる”(くじら作)などボカロPが手掛けた楽曲がJ-POPのメインストリームで大ヒットを記録するなど、現代の日本音楽シーンに欠かせないクリエイターとして活躍の場を広げている。

歌い手

ボカロPが制作した楽曲をカバーし、〈歌ってみた〉として動画共有サイトなどに投稿する人間のシンガーのこと。2007年にボカロ曲“メルト”が〈歌ってみた〉ブームを巻き起こして以降、ボカロ曲特有の難易度の高いメロディなどを見事に歌い上げる、豊かな歌唱力や表現力を持つ歌い手が数多く登場して大きな人気を博している。同じ楽曲であっても歌い手ごとに異なる声質や解釈、アレンジが施されることで、楽曲の新たな魅力が引き出される点が大きな特徴だ。彼らがカバーすることでオリジナルのボカロ曲も脚光を浴びるなど大きな相乗効果を生み出し、ボカロシーンに活況をもたらし続けている。

前述したAdoやyamaをはじめ、歌い手からJ-POPのメインストリームへ躍り出る例や、まふまふやEveなど音声合成ソフトを駆使して自ら楽曲制作まで手掛ける歌い手も少なくない。

イラストレーター・映像クリエイター

ボカロ曲の世界観を視覚化し、音と映像が融合した〈動画作品〉として完成させるクリエイターのこと。動画投稿サイトにおいて、第一印象を決定づける視覚要素はヒットを左右する大きな鍵。そこで印象的なサムネイルのイラストやMVがセットで投稿されることで、ボカロ曲は爆発的に拡散していく。ユニークなキャラクターデザインや物語性を感じさせる絵、音楽のテンポや歌詞に同期した先進的な映像表現は、楽曲の没入感を何倍にも引き上げる役割を担う。

秋赤音やのうをはじめ、りゅうせー、WOOMAなど、独創的なビジュアルを生み出す才能が多数活躍しており、その世界観はイラストの〈描いてみた〉といった二次創作の連鎖をも生み出している。彼らの存在は、ボカロシーンの広がりに欠かせない大きな原動力となっている。

 

ボカロの名曲・代表曲15選

ここでは、ボカロの歴史を知る上で重要な楽曲を15曲紹介。ボカロが文化として根付く以前の黎明期から、TikTokなどを通じて大きなバズを生んだ2020年代以降の最新曲までをまとめてチェックしよう。

ika_mo feat. 初音ミク “みくみくにしてあげる♪【してやんよ】”(2007年)

初音ミクが自身のことをメタ視点で歌う歌詞など、今に続く〈初音ミクの在り方〉を初めて示した楽曲。シンプルな四つ打ちのリズムトラックは耳馴染みがよく、そうしたキャッチーさから〈踊ってみた〉動画やリズムゲームなどにも用いられた。ニコニコ動画でボカロ楽曲として初めて1,000万回再生を達成した曲。

ryo (supercell) feat. 初音ミク “メルト”(2007年)

それまでキャラソン的なボカロ曲がスタンダードとなりつつあったなかで、初音ミクを一人の〈歌い手〉として迎えた革新的な一曲。軽やかなピアノの旋律が心地よく、恋する少女の胸の内を綴ったピュアな歌詞もこの曲を一層特別なものとしている。2026年にはNetflix映画「超かぐや姫!」のためにryoが同曲を新たにリミックスしたことも話題となった。

cosMo@暴走P feat. 初音ミク “初音ミクの消失”(2008年)

BPM 240という超高速なテンポとエレクトロパンクなサウンドにのせて、ボーカロイドの生死を歌った衝撃作。〈マスターノ辛イ顔、モウ見タクナイカラ〉と健気な心を持ちながら、終始寂しさが滲む歌詞は、実像の有無に関係なくボーカロイドにも終わりがあることを必死に伝えている。同曲を起点に、ボカロの生死をテーマにした〈消失シリーズ〉なるものが誕生した。

doriko feat. 初音ミク “ロミオとシンデレラ”(2009年)

シェイクスピア「ロミオとジュリエット」と童話「シンデレラ」をモチーフに、わがままな主人公の心情を綴ったシンフォニックメタルなナンバー。それまでのボカロ曲と大きく違い、歌詞においてかなり刺激的な表現や言い回しが多用されている点もリリース当時大きな反響を呼んだ。〈歌ってみた〉動画をはじめ、曲を題材にした二次創作なども数多く制作された。

wowaka feat. 初音ミク・ルカ “ワールズエンド・ダンスホール”(2010年)

当時のバンドシーンのトレンドと共振するかのように、ギターのカッティングとリフを推進力に疾走していくロックチューン。ミクとルカのツインボーカルがエモーショナルに響き、キャッチーなメロディも含めてボカロ曲の枠を超えて人気を博した一曲だ。その後、wowakaはヒトリエでも活躍。2019年にこの世を去ってしまったが、同時期に切磋琢磨した米津玄師などに多大な影響を与えた。

DECO*27 feat. GUMI “モザイクロール”(2010年)

当時まだそこまでポピュラーな存在ではなかったGUMIの歌声を一躍有名にした曲。DECO*27の得意とするソリッドなバンドサウンドを基調に、歪んだ愛情を露にした独占欲の強いリリックが光る。楽曲発表後、瞬く間に多くの歌い手たちが〈歌ってみた〉動画を投稿したことからジェバンニ(漫画「DEATH NOTE」の劇中キャラ、ジェバンニのように本来時間がかかる作業を短時間で完遂してしまうことを指すネットスラング)なる現象も生まれた。

ハチ feat. 初音ミク・GUMI “マトリョシカ”(2010年)

言わずと知れたハチこと米津玄師による通算15作目のボカロ曲。タイトルに紐づけてロシア民謡的な音階を随所に散りばめていたり、独特なワードセンスを駆使した押韻をしていたりと、そのテクニカルな楽曲は現在も米津の色として定着している。投稿から7年後の2017年、ニコニコ動画で1,000万再生を突破し〈神話入り〉を果たした。

黒うさP feat. 初音ミク “千本桜”(2011年)

ヨナ抜き音階(ニロ抜き短音階)で日本情緒を醸し出したボカロを代表する一曲。和風テイストのレトロフューチャーな世界観もあってか海外リスナーからの人気も高い。和楽器バンド、小林幸子、Adoらがカバーしたことによって世代やジャンルを跨いで愛される曲となったほか、ミュージカルや歌舞伎の題材になるなど音楽以外のカルチャーとも融合を果たしている。

じん(自然の敵P)feat. 初音ミク “カゲロウデイズ”(2011年)

じんの執筆した小説などを含む同名のマルチメディアプロジェクトと連動した曲で、“人造エネミー”などに次ぐ3作目として投稿された。焦燥感が滲むギターロックにのせ、終わらない夏の日の悲劇がループしていく様子が描かれている。楽曲単体でも楽しめるが、小説や漫画などにも触れてもらうと、この曲を様々な視点から深掘りすることができるのでオススメだ。

kemu feat. IA “六兆年と一夜物語”(2012年)

PENGUIN RESEARCHのベーシスト堀江晶太がkemuとして発表したラウドナンバー。ドラムやギターのハードなサウンドと流麗なピアノの旋律が絡み合う中毒性のある楽曲は、“インビジブル”“地球最後の告白を”などと一つの世界観でつながっている。同曲や“カゲロウデイズ”をはじめ、この時期はメディアミックスを前提とするようにいくつもの伏線が張られたボカロ曲が頻出していた。

日向電工 feat. 初音ミク “ブリキノダンス”(2013年)

呪術的で幾何学な歌詞が耳を引く、日向電工にとって6作目のボカロ曲。〈バガヴァッド・ギーター〉〈アヴァターラ〉といった聖典や神話にまつわるワードがめまぐるしく飛び交う高速ロックチューンで、島爺やAdoなどが〈歌ってみた〉動画を投稿している。ブレスする暇もないようなハイテンポの曲こそ歌ってみたくなるのだろう。

カンザキイオリ feat. 初音ミク “命に嫌われている。”(2017年)

“初音ミクの消失”のようなボカロ視点の生死ではなく、カンザキイオリという生身の人間の死生観と深いメッセージが刻まれた曲。自己嫌悪とそれを励ます周囲の声に対する不快感をストレートに描き、生きることの尊さや難しさを伝える様はamazarashiなどと通ずるところがある。2021年のはまふまふが「NHK紅白歌合戦」で同曲を歌唱し、より注目を集めることとなった。

Chinozo feat. FloweR “グッバイ宣言”(2020年)

TikTokを介して人気が爆発するなど、それまでとは異なる形で曲が浸透した2020年代のボカロシーンを象徴する一曲。中性的なv flowerの特性を上手く用いたメロディライン、引きこもりをテーマにした内省的な歌詞は、どこか黎明期のボカロシーンの香りを残してるようにも感じられる。なお、YouTube上での再生回数は現時点(2026年9月)で1.5億回を突破している。

ピノキオピー feat. 初音ミク “神っぽいな”(2021年)

現代批評的なリリックが冴わたるエレポップ曲。〈〇〇っぽい〉とどっちつかずで中途半端な意見や視線を丸ごと飲み込むような皮肉めいた歌詞は、ヒップホップの精神に基づいて紡がれているようだ。SNS経由であっという間にコンテンツの一部として消費されていくボカロシーンの現状を嘆くかのような、ピノキオピーなりの主張が込められた名曲。

Kanaria feat. GUMI “酔いどれ知らず”(2022年)

すでに“KING”などで名を馳せていたKanariaの8作目となる曲。丸サ進行(椎名林檎“丸の内サディスティック”に代表される定番コード進行)をベースにしたR&B調のリズム、不穏なムードを演出するシンセとギター、少し下を巻くようなGUMIの独特な調声など、そこまで音を重ねずにボリューム感を出しているあたり、ボカロ曲の制作環境の進化も感じさせる。

 

ボカロ曲の作り方は?

ボーカロイドをより深く知りたいなら、やはり実際に触ってみるのが一番いいだろう。ここではボカロ曲を制作する手順を大きく3つのステップに分けて説明していく。〈誰かと〉でなく〈あなただけ〉で作り出せるのがボカロ曲。あなたもボカロPへの第一歩を踏み出そう。

1. リズムトラックや伴奏の制作

やはり一番必要なのは曲そのもの。制作方法としてはPCにDAW(音楽制作ソフト)を導入し、楽曲の骨組みを作っていくのが主流となっている。最初に何から手をつけていくかは人によって違うが、主にリズムトラックから組み上げていくのがセオリーだろう。ゼロからリズムトラックを制作するユーザーもいるが、元々ソフトに入っているループ素材を使って簡単に組んでいくのもアリだ。

次にピアノの音などを打ち込んで伴奏とメロディを組み立てていく。ピアノが弾けない、譜面が読めない人でも大丈夫。視覚的に音を配置して、それを繰り返し聴きながら入力していけば、伴奏やメロディの原型のようなものはできていくはずだ(またはリズムトラック同様、ソフト内にある素材を組み合わせてもいいだろう)。

そうやって楽曲の大まかな形が見えてきたら、ボカロに何を歌わせるか歌詞を考えていこう。どんなことをボカロを通して伝えたいか、好きなボカロにどんな言葉をかけてほしいか。自由な視点で〈ボカロに歌わせたい世界観〉を考えていけばいい。このあとの調声で変更する可能性もあるので、まずは歌詞の軸となるコンセプトやストーリーなどをしっかりと決めておくことが重要だ。

2. 歌入れ、調声

①で伴奏部分が大方完成したと思うが、いよいよ重要な歌に取りかかっていく。具体的には作ったメロディと歌詞をボカロのソフトに入力して歌わせるステップだ。専用のエディターソフトを開いて書き出した伴奏を読み込んだのち、その伴奏に合わせて画面上のピアノロール(音階の書かれた画面)に音符を一つずつ入力していく。それぞれの音符に歌詞を打ち込んでいけば、ボカロがその言葉を歌い始めるはず。思い通りにボカロが歌ってくれた瞬間、きっと大きな達成感を感じるに違いない。

入力したそのままの状態(ベタ打ち)でもある程度は歌として成立していると思うが、ここからがボカロPの腕の見せ所。調声という作業を行うことで、歌自体をブラッシュアップすることができるのだ。声の明るさ、ビブラート、ブレスの量などを調整し、音と音のつながりを滑らかにしていけば聴きやすい歌声になっていく。曲によってはあえて滑らかさを削ぎ落とし、ロボットのように歌わせることもできるので、それもまた調声の面白いところだ。

3. ミックス、マスタリング

②で完成でも構わないのだが、多くの人に聴いてもらいたいのならさらに楽曲のクオリティを上げる必要がある。それはミックスとマスタリングの作業だ。ミックス(ミキシング)では、ボカロの声と伴奏で入力した各楽器の音量バランスを整え、それぞれの音がきれいに聴こえるよう調整していく。左右の音の広がり(パン)を考えたり、不要なノイズをイコライザーで削ったり、リバーブなどのエフェクトを使って歌にアレンジを加えたりと、曲に一体感が出るように仕上げていく。

ミックスが終わったら最後にマスタリングの作業へ。リスナーがどんな環境で曲を聴くのかを想像しながら、全体の音圧や音質を細かく調整していく。YouTube、ニコニコ動画、Spotifyといったサブスクなど、どのプラットフォームに自分の曲をアップするかもミックスやマスタリングを行う上では重要になってくる。まずは自分の活躍するフィールドを決めて、それらに合わせて調整していこう。

そしてマスタリングまで終えたら、WAVやMP3などの音声ファイルとして曲を書き出せば、あなただけのボカロ曲の完成だ。

 

ボカロをもっと聴きたい 、知りたい、楽しみたいなら〈Mikiki〉

ボカロをもっと聴きたい 、知りたい、楽しみたいなら、ぜひMikikiの過去記事を☑してほしい。当記事内に埋め込んだ関連記事だけでなく、〈ボカロ〉のタグを辿ってもらえれば関連する記事のすべてにアクセスできる。

また、アーティスト別のタグもあるので、そちらでアーティストごとの記事を読むことも可能だ。この記事で紹介した代表的なアーティストのタグは次のとおり。〈初音ミク〉〈wowaka〉〈DECO*27〉〈米津玄師〉〈じん〉〈ピノキオピー〉。

直結しているタワーレコードの通販サイト、タワーレコード オンラインではボカロの作品・商品を購入できる。記事の末尾に関連作品もチェックしてほしい。コンピレーションアルバムや書籍も充実しているので、タワーレコード オンラインで〈ボカロ〉〈ボーカロイド〉〈初音ミク〉〈歌ってみた〉のキーワード検索したり、気になったキャラ名、アーティスト名、曲名、アルバム名を調べてみよう。

Mikikiは、今後もボカロに関係するインタビューやコラムなどを積極的に制作していく予定なので、X(旧Twitter)InstagramFacebookなどSNSの公式アカウントをフォローして最新情報をチェックしてもらいたい。

 

まとめ

以上、ボカロの歴史や概要、代表的なキャラ、名曲や人気曲などを詳しく解説してきた。単なる音声合成ソフトとして生まれたボカロは、初音ミクという絶大なアイコンを生み、2000年代のネット文化や二次創作カルチャーというカタパルトを得て、多数のクリエイターを刺激し、日本と世界の人々をつなぐ一大文化となった。さらに、米津玄師、Ayase、n-buna(ヨルシカ)、キタニタツヤ、バルーンこと須田景凪といった第一線のアーティストを輩出し、現在ではJ-POPを含む日本の音楽の重要な基盤のひとつになっている。それだけでなく、演劇や伝統芸能、クラシックやオペラ、バレエといったハイカルチャーを交差してきた歴史も長い。

そんなボカロをより詳しく知り、聴いて楽しむ一助にこの記事がなったら幸いだ。ボカロの世界は奥深いので、ここからさらに踏み込んで掘っていってほしい。