股下89(またした・はっく)を経て、大山田大山脈、The Halcyonといったユニット/バンドで活動中の安島夕貴(あじま・ゆき)が本人名義での初アルバム『第一音源集』をリリースした。内省的でパーソナルなアシッドフォーク然とした曲調にはシド・バレットを連想したが、本人はデヴィッド・ボウイなどのグラムロック、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテのソロなどを愛聴していたという。アルバムは自己の内奥と対話しているようなノイジーな曲と、明瞭なボーカルが光るポップでキャッチーな曲が両輪として機能し、陰と陽のバランスの取れた稀有な一枚となっている。安島に話を聞いた。

安島夕貴 『第一音源集』 造園計画(2025)

 

パンクやオルタナに影響されたバンド股下89でスタートしたキャリア

――僕は安島さんがボーカル/キーボードを担当していた股下89のライブを観たことがあるんです。今、大森靖子さんのバンドのシンガイアズでベースを弾いているえらめぐみさんがメンバーでしたね。ちょっとサイケがかったミニマルファンクだったと記憶しているんですけど、あれが安島さんのキャリアの最初期でしょうか?

「最初ですね。その前は学校の軽音楽部でSHAKALABBITSなどのコピーバンドでドラムを叩いていて、オリジナルをやり始めたのは股下89が最初です。

最初に夢中になった音楽は、Tommy february6でしたね。小学6年生の時に自分のお小遣いで初めて買ったCDがTommy february6のファーストで。〈英語で歌っているの、かっこいいな〉と思って。洋楽で最初に好きになったのはアヴリル・ラヴィーンですね」

――股下89はどういう音楽をやろうと始まったんですか?

「パンクロックとかオルタナティブロックが好きなメンバーたちで集まって、最初はコピーをしていたんです。ゆらゆら帝国、ソニック・ユース、リチャード・ヘル、パブリック・イメージ・リミテッド、ビキニ・キルとか。それがなんとなく、オリジナルを始めるようになって」

――ああ、ゆらゆら帝国。今回リリースされた『第一音源集』の“エンドロール”を聴いた時にゆらゆら帝国を思い出したんですけど。

「はいはいはい、確かに」

――これってかなり前にあった曲なんですよね?

「多分10年ぐらい前からありましたね。今回アルバムに入っている曲は大体それくらい前からあったんですけど、あまり楽器が得意じゃないので、ひとりで作ろうとしても、なかなかアレンジが進まなくて。宅録をちゃんと始めたのが比較的近年なんですよね」

――10年前に作った曲と今回収録されている曲はだいぶ変わったんですか?

「変わったところは、編曲に10年来の友人である鈴木将太さんをお迎えしたことですね。その点で、編曲については全く違いますね。曲のコード進行、メロディーについてはノータッチですけど、オーバーダブされた楽器――ギターやピアノ――は、彼がかなりの部分を演奏してくれていて。フレーズも、彼がいちから作ってくれています。

最初、ひとりでデモを作ったんですけど、一回完成させてみて、何かわからないけれど足りないなって思ったんですよね。その足りない点は、技術とかアレンジ力で補えるものかもしれないと思って、将太さんにアレンジをお願いしました。彼の中にあって私の中にないものを提供してもらったようなイメージです」