〈cozy pop=居心地のよいポップス〉をさらに発展させるために――22歳、ジャズ・ポップ界の新星がEPデビュー!
aron!は、ノースカロライナ州の州都シャーロットで生まれ育った新人。6月6日に21歳でEP『cozy you (and other nice songs)』でメジャー・デビューしたジャズ・ポップ系のシンガー・ソングライターだ。同EPに収録されている6曲は、彼自身が歌い、主にギターを弾いているジャジーなオリジナル曲ばかり。インタヴューの席にも、アコースティック・ギターが傍らに置いてあった。そんなaron!に、まずは音楽的バックグラウンドについて語ってもらおう。
「8歳の時にゲームの『ギターヒーロー』をきっかけにギターに夢中になり、当初は地元の音楽学校でレッスンを受けていた。けれど、現在の音楽スタイルに直接繋がっているのは、11か12歳頃に、後に僕のジャズ・ギターの先生となる80歳のスタンに出会ったこと。初めて会ったときのスタンはサム・アッシュという楽器店で、イーグルスの“ホテル・カリフォルニア”を何人かとジャムセッションしてたんだけど、その中に変わったギターを演奏しているギタリストがいて、それが彼だった。スタンからはジャズ・ギターに加えて、楽譜の読み方、“ブラック・コーヒー”や“いそしぎのテーマ(The Shadow Of Your Smile)”などのジャズ・スタンダードを教わった。僕の両親はパール・ジャムやレッド・ツェッペリンなどのロックが好きだったから、なおさらジャズはクールで新鮮だったんだ」

その後aron!は、地元の高校と大学でクラシックを学び、さらに音楽への理解を深めていく。
「高校時代にクラシックの授業を選択したのは、周りの友だちがクラシック・ピアノを習っていて、その影響が単純に大きい。僕は高校に入るまではクラシックは全然知らなかったけど、高校~大学時代はバッハやラヴェル、チャイコフスキーなどを聞いた。で、クラシックとジャズには共通点もあれば、まったく重なり合う部分がないことを知り、そのことが自分の音楽に生かされている。最近はプーランクもよく聞くよ」
aron!は、自分の音楽を「シンガー・ソングライター・ジャズ」と称している。「居心地よく過ごしたい」ということをテーマにした、暖炉を囲んでいるような温もりにあふれた『cozy you』を初めて聞いたとき、僕がすぐに連想したのは、aron!と世代的には孫と祖父ほど違うジェイムス・テイラーの最新作『アメリカン・スタンダード』(2020年)だ。ジェイムスはボストン生まれだが、子供時代~思春期をノースカロライナ州で過ごした。1968年に英国のアップルからリリースされた彼のファースト・アルバムには、ノースカロライナへの望郷の念を歌った曲“Carolina In My Mind”が収められている。『アメリカン・スタンダード』は、そんなジェイムスがノースカロライナで育った時代に家族揃って聞いていた1927年から61年までのスタンダードを取り上げたアルバムだ。一方、『cozy you』はaron!のオリジナル曲ばかりだが、あたかもジャズ・スタンダード集のような趣を持ち、曲によってはジャンゴ・ラインハルト調のギターをはじめ、古めかしいクラリネットやピアノ等がフィーチャーされている。ちなみにジェイムスは、アコースティック・ギターの名手でもある。
「かつての僕は、ジャズ・スタンダードのようにオーセンティックでありながら、今の時代に合うような曲は、自分には作れないと思っていた。でも、数を重ねるうちに、だんだん良い曲を書くことができるようになった。ただ、ジャズ・スタンダードといっても、もともとはミュージカルや映画のために作られたポピュラー・ソングだから、良いものもあれば悪いものもある。そこが面白い点だと思う。たしかにクラリネットは、ベニー・グッドマンのようなスウィング・ジャズ、あるいはナット・キング・コールやフランク・シナトラの昔のジャズと結びついてる。僕も、ジャズ・クラリネット奏者のアーティ・ショウが参加していた歌手のビリー・ホリデイやメル・トーメを聞いてきたし。ただし、そもそも僕には、クラリネットが昔の楽器というイメージは全然なく、単純に音色が好きなんだ。なんかキュートな感じがしてね。僕はヴルフペックが好きだし、自分はあくまでも今の音楽を作っていると思っている。そんな僕にとってのギター・ヒーローは、ジョン・メイヤー。彼はバークリー音楽大学で学んだギタリストで、ジャズも知っているから」
aron!は、サニー・サイド・アップ!というインディー・ポップ系バンドでも活動してきた。だから『cozy you』では表現しきれていない音楽的埋蔵量はまだまだありそうだ。
「ファースト・アルバムについての構想は色々あるけど、今はまだ言いたくない。ただ、曲によっては『cozy you』よりビッグなプロダクションになるかもしれない。同じことは繰り返したくないからね」
aron!(アーロン)
ノースカロライナ州シャーロットで生まれ育つ。ノースカロライナ芸術大学でクラシックの作曲を学び、その後、マイアミ大学の全額奨学金を得て、ジャズ・ヴォイスと映画音楽を専攻。2023年、「ヴィンテージ・ポップ・サウンド」と呼ぶものを探求し、オンラインで強力な支持を集め始め、数多くのレーベルからも声がかかった。そして2025年、aron!は名門ヴァーヴ・レコーズと契約し、デビューEP『cozy you (and other nice songs)』をリリースすることとなった。