
宗教の知見を活かし、死とどう向き合うか
――布施さんご自身のライナーノーツには〈アルバム全体を通した楽曲の連続性を意識した〉ともありますね。
「そうですね。特に後半の“B.A.S.D.”“如是”“We Can Hardly See”“Ascending Shadow of the Mountain”は、曲の最後のコードが次の曲の最初のコードと結びつくように作っていて、そのまま続けて演奏できるようになっています」
――もうこの順番は動かせない、という感じで曲順を考えて……。
「そうです。そして1曲目の“つとめて”は早朝を意識した曲で、8曲目の“Ascending Shadow of the Mountain”は夕日を意識した曲です。“つとめて”は最後に書きました。2曲目以降の曲順は最初から決まっていて、その後で1曲目にふさわしいものを作ろうと思ったんです」
――これは僕の感想ですが、“如是”からは本当にギリギリのところの、転覆というか破綻寸前のところまでハーモニーを突き詰めている印象を受けました。
「楽曲の構成としては、最初と最後にテーマを演奏して、真ん中のところは完全にフリーで演奏しています。ですが、全体の調性感としては、最初のテーマをCメジャーで演奏して、フリーのところで調性を崩していって、もう一回再構築していく中で半音上のD♭メジャーに収束していくという大まかなストーリーだけは決めていました」
――〈フリー〉の部分があるといっても、〈破壊せよ〉という感じではない。
「3人とも〈この音を出したい〉と思った音だけを出して、余分な音を極力出したくないという方向性が強いと思います。あと、私自身はキース・ジャレットの即興演奏が好きなので、その影響もあると思いますね。キースの演奏はどちらかというとクラシカルで、野性的な感じになるときがあったとしても、基本には美しい方向性だと思います」
――前作『Isolated』には“Narrow and Wide”という、〈ああ、ジャズですね〉という感じの曲もありましたが、今回はそういうあからさまなものは含まれていませんね。
「前作は〈以前作っていた自分のオリジナル曲を何曲か集めてアルバムにしよう〉という形だったのですが、今回は最初からアルバムの全体的な雰囲気を考えていたので、そうした曲は入りませんでした。ここ1年間、そういう曲を私が作らなかったということもあります」
――ここまで僕が一方的にうかがってきましたが、布施さんご自身からこれは言っておきたい、伝えておきたいということがあれば、読者に向けてぜひお願いします。
「アルバムタイトルについて少し。ここまで話題に出してはいませんが、私は昔から仏教に強い興味がありました。みんないつかは死んでいく中で、その悲しみや苦しみにどう向き合うか、先人たちはどう対処してきたか、自分もいつか死んでいくということに対してどう考えていけばいいかを自分なりに考えたいというところから宗教について興味を持つようになりました。中でも、日本に生まれて、親戚の葬式も仏式で行われている以上、まずは仏教だなと。大学で少々サンスクリット語を学んだりもしたんです。
そうした仏教への興味も暗に示したいと思って、〈如是我聞〉を英語に訳して、『Thus Have I Heard』としました。後付けみたいなところもありますが……。死というものにどう向き合うかという意味で、宗教という知見をもっと見直すべきじゃないかという社会に対する問題意識も含めて、この仏教的なタイトルを選びました」
RELEASE INFORMATION

リリース日:2025年10月8日(水)
品番:OFM-002
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
1. Tsutomete つとめて
2. Northbound Journey ノースバウンド・ジャーニー
3. White Lycoris ホワイト・リコリス
4. Sado 佐渡
5. B.A.S.D. ビー・エー・エス・ディー
6. Nyoze 如是
7. We Can Hardly See ウィー・キャン・ハードリー・スィー
8. Ascending Shadow of the Mountain アセンディング・シャドウ・オブ・ザ・マウンテン
■メンバー
布施⾳⼈ Otohito Fuse ピアノ、作曲
⾼橋陸 Riku Takahashi ベース
中村海⽃ Kaito Nakamura ドラムス
2025年5⽉20⽇ 東京都豊島区Studio Dedéにて録⾳
録⾳、ミックス、マスタリング:吉川昭仁
PROFILE: 布施⾳⼈
1996年、東京⽣まれ。⾳楽家の両親の元、幼少期より⾳楽に親しむ。4歳よりクラシックピアノを森知英に師事。中学校・高校では吹奏楽部に所属し、フルートを担当。⾼校時代にビル・エヴァンスの『Waltz For Debby』や『Consecration』に触れ、ジャズの演奏に興味を持つ。2014年、東京⼤学⼊学と同時に東京⼤学ジャズ研究会に⼊部。学内外のジャズ研究会を中⼼にセッションを重ねる。2017年4⽉から1年間、慶應義塾⼤学のビッグバンドサークル、ライトミュージックソサエティに所属し、8⽉の〈ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト〉にてバンドで最優秀賞、個⼈で優秀ソリスト賞を受賞。2018年8⽉、〈Seiko Summer Jazz Camp〉に参加し、優秀賞(作曲・アレンジ部⾨)を受賞。東京⼤学⼤学院数理科学研究科修⼠課程修了(2021年3⽉)。IT企業に勤める傍ら、⾸都圏のライブハウスを中⼼に活動中。2024年3⽉、⾼橋陸(ベース)、中村海⽃(ドラムス)とのトリオによる1stアルバム『Isolated』をリリース。2025年10⽉、同トリオによる2ndアルバム『Thus Have I Heard』をリリース。
PROFILE: ⾼橋 陸
千葉出⾝。中学の吹奏楽でコントラバス/エレクトリックベースを始める。2014年、バークリー⾳楽⼤学のサマープログラムに奨学⽣として留学。同時に現地オーディションで全額奨学⾦を受賞。2017年に〈韓国国際ミュージックフェスティバル〉に参加。2018年に米ニューヨークで修⾏中、ジョニー・オニール(ジャズ・メッセンジャーズに1982〜1983年在籍)トリオに参加。2023年にフィリピン⼤統領に招待され、マラカニアン宮殿で演奏。同年、映画「⽩鍵と⿊鍵の間に」の劇伴⾳楽に参加し、同作が全国ロードショーされた。現在、東京を拠点に国内外を問わずコンサートなどに参加するほか、スタジオミュージシャンとしても活動し、映画、テレビCM、ドラマ劇伴、CDなどの⾳楽制作に携わっている。
PROFILE: 中村海⽃
米NY出⾝、栃⽊・群⾺育ち。6歳からドラムを学び、中学2年よりセッションホスト、ライブ活動を開始。⼩学5年より渡辺貞夫が指導するESCOLA JAFROに所属。⼩学2年よりバイオリンを始め、市のジュニアオーケストラで演奏活動、⼩学5年より高校3年まで吹奏楽部でトランペットを演奏。2018年8⽉、セイコーが主催する〈Seiko Summer Jazz Camp〉にて特別賞(Special Recognition Award)を前⽥憲男より受賞。同年10⽉に尚美ミュージックカレッジが主催する〈⾼校⽣ソロプレイヤーズコンテスト2018〉にて準グランプリ受賞。2019年7⽉、⽶ボストンのバークリー⾳楽⼤学の5週間のサマープログラム〈Aspire: Five-Week Music Performance Intensive〉に授業料・寮費全額免除の奨学⽣として参加。2020年9⽉、同⼤学に授業料全額免除の奨学⽣として⼊学。2022年12月21日、1stアルバム『BLAQUE DAWN』をBrilliant Worksよりリリ-ス。2025年3月12日、2ndアルバム『Invisible Diary』を⾃主レーベルよりリリ-ス。現在、東京近郊にてライブ演奏、作曲で活動中。