©Jazon Whittington

過去に結ばれた約束は、いくつもの過ちの果てに青空のような美しい未来を描いた――賞賛されるアルバム『Welcome To My Blue Sky』で語られる友情のストーリーとは?

 2025年も素晴らしいロック・アルバムが数多くリリースされたが、マンマの『Welcome To My Blue Sky』もそのひとつに挙げるべき一枚だろう。女性ヴォーカリスト2人の胸を抉る歌声、色鮮やかなギター、力強いリズム――焦燥感や不安を映しながらも、思春期的な甘苦さと眩さを併せ持つ楽曲は、オルタナやエモにおける、ある種の理想形にも感じられ、4月のリリース以降、日本でも多くのリスナーを魅了してきた。

MOMMA 『Welcome To My Blue Sky』 Lucky Number/Polyvinyl/Silent Trade(2025)

 そんなマンマの初となる来日公演が2026年1月、東京・代官山SPACE ODDにて開催される。アナウンス後、早々にソールドアウトしたことを受けて発表された同会場での追加公演も完売。そんな期待値の高さが窺えるライヴを記念して、先述した『Welcome To My Blue Sky』の日本盤がリリースされる。

 マンマは2015年、カリフォルニアの高校に通っていた友人同士、エッタ・フリードマンとアレグラ・ワインガルテン(共にヴォーカル/ギター)によって結成された。2018年のファースト・アルバム『Interloper』発表後にLAからNYへ拠点を移し、ドラマーのプレストン・ファルクス、プロデューサー兼ベーシストのアーロン・コバヤシ・リッチを加えた、現在の4人編成となる。

 2020年のセカンド・アルバム『Two Of Me』では、ローファイ然としていた初作よりヘヴィーさを増しつつ、チェロやウーリッツァーを使うなどアレンジの幅を拡げた。同作リリース後に、バンドは現在も所属しているポリヴィニールと契約。『Two Of Me』の際、コロナ禍でツアーができず、活動に行き詰まりを感じていたため、USインディー名門からのアプローチは救いになったという。

 ピクシーズやペイヴメントなど90年代のオルタナ~グランジにインスパイアされた3作目『Household Name』を発表した後は、デス・キャブ・フォー・キューティ、ウィーザー、さらにエッタとアレグラの敬愛するアレックスGらとツアーを重ねるなか、マンマは着実に活動規模を拡大。インディー・ロックのシーンにおいて、ネクスト・ビッグ・シングを予感させる存在として認知されていった。

 『Welcome To My Blue Sky』は、そうした大舞台を経験してきた彼女たちの成長を刻んだ作品だ。ブルックリンのスタジオGに加え、古い友人が運営するサンタモニカのワサッチ・スタジオで録音。リラックスできる環境とあって、挑戦ができたのだろう。立体的に重ねられたアコギ、ノイズやエフェクトが深く響く“Sincerely”の冒頭から、バンドが新たなフェーズに入ったことが伝わってくる。

 〈40年後もワクワクしながら演奏できる曲〉とアレグラが語る2曲目の“I Want You (Fever)”は、最上級のフックとなるギター・リフを持つバンガー。続く“Rodeo”では彼女たちならではの〈ラウド・クワイエット・ラウド〉を突き詰める。軽やかに弾むリズムとメロウなシンセが印象的な“New Friend”、スマッシング・パンプキンズばりのドライヴ感で圧倒する“Last Kiss”、“Let Go”で知られるフル・フルが下敷きにあったというエレクトロ・ポップ調の“Bottle Blonde”など、『Welcome To My Blue Sky』の楽曲は多彩。だが、いずれも聴き手の心を射抜くようなマンマ流のロック・アンセムであるという点は共通している。また、日本盤にはボーナス・トラックとしてエリオット・スミスの名曲をカヴァーした“Christian Brothers”を収録。原曲のヒリヒリとした感触を巧みに残すアレンジが聴きどころだ。

 前作のツアー時、エッタとアレグラはそれぞれ当時のパートナーを裏切り、別れを経験したという。本作は、そうした経験と向き合いながら制作された作品でもある。だからこそ、『Welcome To My Blue Sky』に映し出されるのは、不完全さを受け入れ、共に認め合う彼女たちの友情だ。1月にステージ上で鳴らされる楽曲は、そんなバンドの現在の空気を纏っているに違いない。

マンマの作品を一部紹介。
左から、2022年作『Household Name』(Polyvinyl/Lucky Number)、2020年作『Two Of Me』(Danger Collective)

アーロン・コバヤシ・リッチが制作に参加した作品を一部紹介。
左から、ディア・ボーイの2025年作『Celebrator』(Last Gang)、キル・バーズの2025年のEP『Crave』(Lucky Number)、ホットラインTNTの2023年作『Cartwheel』(Third Man)