©Bella Newman

Making A Fire
歴史を知り、 未来を鳴らすニュー・ジェネレーション……躍動と内省を深く包容したファースト・アルバム『Be Sweet To Me』はヴァイオレット・グロールの美学と個としての存在を鮮やかに印象づける!

 「音楽は私にとって、家族を繋ぐ大切なものなんです」と語る通り、ヴァイオレット・グロールは音楽に囲まれて育ってきた。父はフー・ファイターズのデイヴ・グロール。2006年生まれというから、すでにフー・ファイターズが世界規模での成功を収めた後のことだ。幼い頃から部屋でビートルズのレコードに合わせて歌い、初めての楽曲を書いたのは12歳の時。同じ年には小児病院を支援するためのチャリティ・コンサートで初めてのステージを経験しており、そこで彼女と父が歌ったのはアデルの“When We Were Young”だったという。

 その時点ですでに将来の道を志していたのだろう、14歳でDAWを使いこなせるようになって楽曲制作に取り組みつつ、フー・ファイターズの楽曲やライヴにも参加するようになり、2021年には父の主宰するロズウェルから最初のシングル“Nausea”をリリースしている。2023年にはフー・ファイターズのシングル“Show Me How”でも歌って広く知られるようになった。そんな彼女が「子どもの頃からずっと聴いてきた」音楽として影響を語るのは80年代後半から90年代にかけてのオルタナティヴ系で、「あの時代の音楽には、メッセージ性からヴィジュアルまで、本物で生々しい力強さがある」として、ピクシーズやサウンドガーデン、コクトー・ツインズ、ブリーダーズ、PJ・ハーヴェイ、マフス、ビョーク、アリス・イン・チェインズ、L7、ジュリアナ・ハットフィールドらの名を挙げている。そうした音楽を柔軟に吸収してきた彼女だからこそ、いつまでも父の庇護下で輝けるはずはなかった。

 2024年に彼女はジャスティン・ライゼンと出会い、そこから彼のチームとの制作をスタート。ジャスティンといえばチャーリーXCXからリル・ヨッティ、イヴ・トゥモア、ヤー・ヤー・ヤーズなど幅広い面々と仕事してきたLAのプロデューサーだが、近年ではキム・ゴードンのソロ作での仕事ぶりが特に有名だろう。そんな彼との共同作業は“THUM”と“Applefish”のリリースという形で実を結び、ヴァイオレットは2025年にメジャー契約を獲得することになった。

VIOLET GROHL 『Be Sweet To Me』 Aurora/Republic/ユニバーサル(2026)

 このたび登場したファースト・アルバム『Be Sweet To Me』も基本は同じ布陣で制作されており、彼女はブリーダーズの『Last Splash』(93年)を参考に全体像を組み立てていったという。自身の美学を貫いたアルバムでは、緩急のある展開で挑発する“595”からパンキッシュな“Cool Buzz”に至るまで、ざらついたギターを軸にした刹那的なバンド・サウンドの躍動感とドリーミーで内省的な空気感が融合され、そのなかで全編を通して彼女の豊かなヴォーカル表現が鮮やかな印象を残す。いわゆる今風のアーティーなインディー感ではなく、かつて一世を風靡した時代の親しみやすいオルタナ感に溢れた聴き心地は、オリヴィア・ロドリゴ以降の世代のみならず往年のリスナーたちも魅了するはずだ。