100以上の楽器や非楽器を操り、〈現代のマエストロ〉と呼ばれるトクマルシューゴ。彼が、実に8年ぶりになる待望のニューアルバム『Song Symbiosis』を完成させた。〈「うた」とともに生きる「わたし」の姿を映す、珠玉の全18曲〉と謳われる本作、その制作プロセスや背景にあった深い思惟、あるいは話題のアニメ「ちいかわ」の音楽との関係とは? 松永良平(リズム&ペンシル)を聞き手にじっくりと語ったインタビューからは、「考え込んで時間がかかりすぎてしまう」と自ら語る、特異な音楽家の姿勢が浮き彫りになった。 *Mikiki編集部

トクマルシューゴ 『Song Symbiosis』 TONOFON (2024)

 

〈極致的〉な自分の音楽に感動できなくなった

――アルバムを聴いて、まず18曲というボリュームに驚きました。でも数えてみたら、前作『TOSS』(2016年)から8年も経っていた。

「そうなんです。そして、8年経って〈(あえて)CDを作ったなあ〉という気持ちでした。〈この際、(リリース形態は)CDだけでもいいかな〉というくらい(笑)。今回はCDを全面に出してやろうという作りにしたんです。パッケージもこだわって作りました」

――単にパッケージとしてのCDというだけじゃなく、曲数の多さも、インタールード的なトラックの置き方も、確かにこれはCDの時代の感覚という気がします。

「そうです。まさに。レコードや配信の感覚ではないですね。僕が中学生の頃にCDを買うときも、裏ジャケを見て曲数が多いほうを買ってたので(笑)。18曲という見え方はちょっと重たそうですけど、中身は割とシンプルにできたと思ってます」

――シンプルという言葉もわからなくはないんですが、僕はむしろこの新作にはトクマルシューゴというヒトそのものが割と未整理な状態でアルバムに出ていると感じました。

「8年前に『TOSS』、その前に『In Focus?』(2012年)を出して、その2枚で自分の感覚は〈極致的〉なところまで行ったと思っていたし、〈極致的〉なものを求めてもいたんです」

――極めて至る。まさにそうだったし、受け手もそれを驚きながら楽しんでいました。

「キワキワな部分までやり尽くして、その先に何かあるんじゃないかということをやってきた。そのあと、リリースツアーでヨーロッパに行ったり、フェスにも出たりして、いち段落して、さあ次のアルバムを作ろうかなと思ったとき、〈極致的〉であろうとする自分の音楽にあまり感動できなくなっていたんです。人を驚かせたり、覚醒させたりするような、一聴しただけで〈すごい!〉と言われるような音楽を作っても、自分があんまり感動しなくなってきていたんです。

それが何故かを考えていて、じゃあいったん自分なりの普通のアルバムを作ってみようかと思ったんです。強い意志というより、普段の自分が聴いている音楽や自然とあふれ出るものを大事にして、自分にしか聴こえない音や自分にしか見えないものをただただ出す。それだけで次は、自分としてはいいアルバムができるんじゃないかと、ずっと考え続けてました。

その感覚で2019年くらいに新しいアルバムを作り始めて、2020年に出すつもりだったんです。でも、ちょうど世の中はコロナ禍になってしまいました。次のアルバムは、生活のいいバイオリズムのとき、自分がいちばん上の部分にいるときにリリースしたいと思っていたのが、いちばん悪い時期に当たってしまった。なので〈これは今じゃない〉とリリースをいったん中止しました。でも、このアルバムにもそのとき作った曲は入ってます。“Sakiyo No Furiko”や“Canaria”、“Hora”、“Mazume”の4曲かな」