高校時代の先輩・後輩で結成され、オルタナティヴな日本語ギター・ロックを鳴らす4人組、told。昨年初のフル・アルバム『Early Morning』を発表し、今年は〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出演。最近ではベーシストの有島コレスケarko lemmingとしてソロ・アルバム『PLANKTON』をリリースするといった状況のなか、このたびバンドの新作『KIERTOTIE』が完成した。

ギター/ヴォーカルの鈴木歩積が普段エンジニアをしていることもあり、サウンドには毎回こだわりを見せる彼らだが、東京・八王子にあるオーケストラ・ホールで録音が行われた前作に続き、今回はなんと山梨にあるピラミッドでのレコーディングを行ったという。詳細はこのインタヴューを読んでもらえればと思うが、結果的に素晴らしい音響で現在のtoldをそのまま真空パックしたアルバムとなっている。ここでは、鈴木と有島に話を訊いた。

★arko lemming『PLANKTON』のインタヴューはこちら

told KIERTOTIE SMEJ(2015)

――2009年にバンドが結成されて、昨年ついに初のアルバムをリリースしたわけですが、早くも2作目が完成しました。アルバムを一枚出したことで、活動のペースも上がってきたということなのでしょうか?

鈴木歩積(ギター/ヴォーカル)「いや、正直あんまり変わってないかな(笑)。これまではライヴで曲を聴いて、CDを買ってくれていたのが、先に曲を聴いてライヴに来てくれる人が増えたっていうぐらい」

有島コレスケ(ベース)「僕はホントはもっと早く出したかったぐらいなんです。ファーストを出した後は、〈またすぐセカンド作りたいね〉ってムードだったので。まあ、〈レコーディングあるある〉だと思うんですけど(笑)、その波を1回逃した感が自分的にはあって、〈すげえ空いちゃった〉と。でも、いざ出来上がってみると〈まだ1年半しか経ってなかったんだ〉と思いました」

鈴木「一度、日常に返った感じはあったよね。1枚目でそのときあったものは全部出してしまったので、〈次を出すにしてもどうしよう?〉って感じもあったし」

――実際、今回の制作に向けて動き出したのはいつ頃だったんですか?

有島「8月ですね」

――結構最近ですね(笑)。

鈴木「〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出たのと同時期くらいに、〈12月に出そう〉と先に決めて、そこから逆算して、〈じゃあ、9月にレコーディングしましょう〉と。ただ、そのときはまだゼロ曲(笑)」

有島「でも、意外とやってみたらできたね。逆に、このバンドはそういう状況にならないとできないのかも」

鈴木「8月末に曲作りの合宿をやったんです。3日間泊まり込んで8曲の骨組みが出来て、9月の中頃にレコーディングが始まったんですが、直前まで歌がなかったんです。山梨でオケを全部録って、次の週に東京で歌録りだったんですけど、その日に録る曲を決めて、朝、別のスタジオに行って歌と歌詞をバーッと作って、出来立てほやほやの曲を歌いに行く、みたいな。だから、ヴォーカル・ブースに歩いて行くまで歌詞を書き続けていた曲もあったり」

有島「そのスピード感が逆に良かったのかもしれないです。俺はその頃自分のソロ・アルバムも作っていて、さらにドレスコーズのレコーディングもあったから、回転数が一人だけ異常だったから(笑)」

――でも、オケを録ってるときは完成形が見えてなかったわけですよね?

鈴木「そうですね、着地点は見えないまま録ってました。なので、歌はオケに寄せていった感じです」

有島「演奏だけだと〈ん?〉って曲もあったんですけど、〈歌で印象は変わるはず〉と思いながら録ってました」

鈴木「頂上をめざして登山するようにオケを作ったけど、頂上からの帰り道を誰も知らない。下山ルートを知らないまま、俺一人で下山して、〈ここに来たよ〉って感じ(笑)」

――じゃあ、ファースト・アルバムが5年間の集大成だったのに対して、今作は2015年のtoldが真空パックされているわけですね。

有島「出来たばっかりの曲だから、逆に愛着があります。曲が出来てから時間が経ったせいでお蔵入りになっちゃうパターンもあるけど、今回はすぐ作品に入れられて良かったなと」

鈴木「でも、僕は正直まだ曲を掴みきれてないんですよね。これまではライヴでやっていくなかで〈こういう曲なんだ〉と思うことが多かったこともあって、いまは新曲をライヴに向けて練習してみても、〈この人誰だっけ?〉という感じなんです。〈会ったことはあるんだけどなあ〉と思いながら、だんだん合わせていくうちに〈あ、あの人だ〉、みたいな」

――レコーディングに関しては、資料に〈ピラミッド・レコーディング〉って書いてあって、最初は〈何を言ってるんだ?〉と思ったんですけど……。

有島「そうですよね(笑)」

――でも調べてみたら、山梨にピラミッド・センターというところがあるんですね。

鈴木「前回はホールで録ったので、次もちょっと変わった所で録りたいねと話していたんです。それで、前作のマスタリングをやってるときにエンジニアの上條(雄次)さんが〈実家の近くにピラミッドがある〉と言っていて、僕もやっぱり最初は〈何を言ってるんだ?〉と思ったんですけど(笑)、調べてみたら、どうやらノイズのパーティーとかもやってるみたいで。ということは音も出せるってことだから、〈じゃあ、そこでやりましょう〉と。それから実際に下見に行ったら、めちゃめちゃ良い場所だったんです。部屋の鳴りも良かったし、周りが大自然で、〈ここ最高だな〉って」

――確かに、音はすごく良いですよね。

鈴木「前回はめちゃめちゃデカいホールだったから、壁から音が跳ね返ってこない感じだったけど、今回はそのときよりも狭くて締まった空間で録ったから、前作の掴みどころのない感じよりは、わりと締まった音になった気がする」

『KIERTOTIE』トレイラー映像

 

――まさに、前作の広がりのある音像も良かったけど、いまのコンプがバキバキの音源に慣れてる人からすると、迫力が足りないように聴こえちゃう可能性もあったと思うんですね。でも、今回は広がりがありつつ、ちゃんとエッジも立っていて、より幅広くアピールできるんじゃないかなと。

鈴木「ちょうどいい感じになりましたね(笑)。あと今回はドラムとベースが結構大きいと思うんですけど、それに関しては上條さんが〈ビート感を出したい〉と言っていました。〈ギターは小さくていいんだよ〉って。海外のEDMなどでも、ウワモノが超少なくて、ドラムと歌しかないような曲があるじゃないですか? そういうものがノリやすいんじゃないかという意図でミックスされてる感じがありますね。4つ打ちじゃないと、リズムに身体が追いついていかないというのはちょっとわかる気がして。でも僕らは4つ打ちの曲なんてないから、ビート感をはっきり出したほうがノリやすいんじゃないかと思ったんです」

――新曲は8曲作られたとのことですが、残りの2曲に関しては“Gardens”が『FLAG』からの再録で、イントロダクション的な雰囲気のある“Early Morning II”は山梨で作ったとか?

鈴木「いや、“Distress of Casual boy”がこのバンドで最初に作った曲なんです。“Early Morning II”は合宿のいちばん最後に作った曲で、朝4時くらいに、みんな半分寝ながら……」

有島「俺だけ眼が冴えてて、曲構成を映像から作ってるんです」

鈴木「ホワイトボードに曲構成を書いていくんですけど、他の曲はAメロ、Bメロとか書いてあるのに、この曲だけ〈旅立ち〉と書いてあって、見返しても全然わからない(笑)。小節数も曖昧だったよね?」

有島「数で決めてなくて、映像を思い浮かべながら弾いて、〈まだ……まだ……よし、ここで次!〉っていう(笑)。そうやって構成を作ったので、抽象的な曲になりました」

――前作からの流れを踏まえたタイトルかと思いきや、実際に早朝に作っていたと(笑)。

鈴木「ただ、最近曲を聴いていて思ったことなんですが、ひとつの場所から別の所に行くみたいな、ファースト・アルバムの主人公がお出かけするという印象を受けたので、1曲目で良かったなと」

――なるほど。ピラミッドの中で作ったからこそ、ちょっとスピリチュアルな雰囲気の曲になったのかと思いました。

鈴木「合宿したのも結構な山奥だったんです。ピラミッドより山奥だった(笑)」

有島「それが大きいですね。どっちも山だったから、浮世離れした感じが出たのかも」

――“Target”に入ってるパーカッションもピラミッドっぽいというか、スピリチュアルな印象を受けました。

有島「そうそう、これはピラミッドに行ったら(パーカッションが)あって、使わない手はないなと(笑)。たぶん、踊りや瞑想に使うために置いてあったんですが、鈴とかそういうものがいっぱい入った袋があって、〈とりあえず録っておこう〉と。なので、タンバリンやシェイカーなんかがサビ裏で使われていたりします。あとは“Work and Holiday”に入ってる銅鑼もイチ押しです」

鈴木「前回はゲスト・ヴォーカルとして土岐麻子さんに参加してもらったんですけど、今回はゲストがいないので、そのぶん前回よりもいろんな楽器が入っています」

――アルバムの全体像という意味では、何か青写真はありましたか?

有島「サビは開(ひら)けた感じにしたいと思っていたので、そこは意識しました。サビのコードを作ったのはだいたい俺かも」

鈴木「サビで演奏が盛り上がる曲はあんまりないよね」

有島「そう、ちょっと大人なんですよ。“予定”なんかも、サビで落ちるし」

――確かに、バンドで最初に作ったっていう“Distress of Casual boy”あたりは曲調もヤンチャな感じですけど、他はもう少し大人な印象です。

鈴木「“Gardens”も古い曲だからか、サビで上がっていく感じだけど、“それぞれ”のサビは超テンション低いもんね」

有島「“それぞれ”はみんなモヤッとしてて、〈歌が入れば大丈夫なはず〉と思いながら作ってました(笑)」

――“それぞれ”はもともとどんなイメージだったんですか?

有島「ループが基本で、歌で展開が変わって、ファズのギターが単音を弾いてる感じ。ヤックみたいなイメージですね。ああいうテンションの曲があってもいいんじゃないかと」

ヤックの2011年作『Yuck』収録曲“Get Away”

 

鈴木「平気で〈ヴォーカルで変化を付ける〉なんて言うんですけど、〈何も変わんなくね?〉と思って(笑)。“Target”もオケがずっと一緒なんですよ」

有島「サビ以外、ベースはずっと一緒」

鈴木「Bメロになっているところも、結局歌は変わってなくて、コーラスを入れて何とかするという(笑)」

――ループっぽい感じは全体的にありますよね。

鈴木「今回はリフものが多いんですよね。合宿でいちばん最初に作ったのが“Fall”だったし。あと“Sunday”は前作に入っている“ImaginaryLine”という曲がオープン・チューニングで、毎回ライヴでギターを持ち替えるんですが、1曲しかそのチューニングの曲がないから、もう1曲作ろうと。で、意外と“Work and Holiday”もそのギターでできることが判明して、最近はそっちで練習しています。なんでかというと、“Work and Holiday”は上の3本しか弦を使ってないからなんですけど(笑)」

toldの2014年作『Early Morning』収録曲“ImaginaryLine”

 

――再録の“Gardens”は、バンドにとって思い入れの強い曲なのでしょうか?

有島「いい曲だけど、自分たちはそれほどでもないかも」

鈴木「好きだけど、〈これが俺たち〉みたいな感じじゃないね」

――でも、お客さんからの人気は高い曲ですよね。

鈴木「好きだって言ってくれる人は多いですね。シンプルな曲なので……それがいいのかな?」

有島「この曲は鈴木が最初から歌とギターで持ってきた曲で、最近はそういう曲がないから、そこに理由があるのかも。歌が自然というか、心地良い感じになってるのかなと」

鈴木「ちなみに、別のインタヴューを受けていて気付いたんですが、“Gardens”の歌詞の最後が〈窓を開けて〉で、その後に“夜風が窓を”が来るんですよ」

有島「おー、オシャレやなあ」

鈴木「僕、歌詞を書いてるときはあんまり意味がわかってないというか、時間が経ってから、〈これ、こういう辻褄の合わせ方あるな〉みたいなことがすごくある。だから、人に言われて気付くことが多いんです」

toldの2012年のシングル『FLAG』収録曲“Gardens”

 

――書いてるときは無意識だけど、それが必然性を帯びてくるんでしょうね。

鈴木「基本的に〈これはこうです〉みたいな歌詞はあんまり書くことがなくて、聴いた人が100人いたら100人それぞれが感想を持ってくれるものであればいいなと思ってるんですよね」

――個人的に今回の歌詞から感じたのは、〈否が応にも時間は過ぎていく〉ということ。それが悲しくもあり、心地良くもあるような。そういった相反する感情があるなと。

鈴木「1日でも1か月でも1年でも、時間の変化については言いがちです(笑)。〈人生とは?〉みたいなことじゃなくて、普通に生活するなかで感じたことや見たものを人に伝えたいんだけど、〈今日は夕焼けが綺麗だった〉と言っても、実際に見ないとその夕焼けは伝わらないじゃないですか。だから一歩引いて、想像の余地がある歌詞がいいのかなと」

有島「でも、今回の歌詞はわりとわかりやすくなってない?」

鈴木「これまでは散文的な歌詞が多かったんですけど、たぶん僕の言葉の在庫がなくなって、わかりやすくなったんだと思います(笑)。でも音楽に限らず、普通に生活するうえでも、この1年半で考え方がシンプルになったというか、余計なことを考えなくなったので、そういう変化が歌詞にも出ているのかなと。回りくどいことをしなくなったので、それでわかりやすくなったのかもしれないですね」

――回りくどいことをしなくなったということですが、アルバム・タイトルの『KIERTOTIE』は〈迂回〉という意味なんですよね?

鈴木「そこがまた回りくどいことしてるんですよね(笑)。これはもう、生まれ持った性質というか。ただ、このタイトルは辞書から思いついたタイトルなんです。最初に〈Detour〉という単語がカッコイイと思って、これが〈迂回〉という意味なんですけど、ただ〈De〉で始まるのがちょっとネガティヴな感じがして。それで〈迂回〉を他の言語に変換してみたらフィンランド語の〈KIERTOTIE〉がいちばん字面も良かったし、片仮名にしてもイケてるなと。意味不明なアルバム・タイトルが結構好きなんですよ。THEATRE BROOKの『VIRACOCHA』『TROPOPAUSE』みたいなタイトルにも憧れがあったので」

――でも、無意識的に付けたこのタイトルが意味を持つというか。今年はSEBASTIAN Xをはじめとした中央線沿線の仲の良いバンドたちが、解散したり活動休止することも多かったじゃないですか。そういうなかで、toldはある意味〈迂回〉かもしれないけど、自分たちのペースで活動を続けるんだという、そういうふうにも受け取れるように思ったんです。

SEBASTIAN Xの2015年のミニ・アルバム『こころ』収録曲“こころ”

 

鈴木「なるほど。なっちゃうもんなんですね、そういうふうに」

――実際に今年、周りのバンドの状況を見ていてどんなことを感じましたか?

有島「〈続かないんだね〉と思ったかなあ。〈辞めちゃうもんなんだなあ〉と。僕らはそもそも高校の友達同士が遊びの延長でやってる部分があるけど、〈バンドやろうぜ〉ってメンバー募集して始めていたら、解散とかもあるんだろうなと」

鈴木「友達から始まったバンドと、バンドで仲良くなった人たちというのは、またちょっと違うでしょうね。友達って解散しないじゃないですか? 絶交はするかもしれないけど(笑)」

有島「もともと〈こういうのやろうぜ〉って集まってたら、音楽性が変わってきたことを理由に解散するのもわかるけど、俺たちは音楽とは関係ないところで集まっていて、音楽にしてもわりと何でも好きだしね」

鈴木「高校生のときは学年違うのに毎日遊んでたからなあ」

有島「俺と山﨑(裕太、ギター)くんは卒業した後の鈴木を心配してましたもん。〈あいつ友達いないんじゃないか?〉って(笑)」

――いまは鈴木さんはエンジニアとして、有島さんはバンドマンとして、told以外の活動もしていますが、長い付き合いのお2人はお互いのいまをどのように見ているんですか?

鈴木「あんまり変わってないんですよね。もともといっぱいバンドをやっていたから、それがいまは大きい舞台になったんだなとは思うけど、別に〈そういうやつ〉と昔から思ってるというか、〈有島、最近忙しくなったな〉とは思うけど、よくよく考えたら前から忙しくしてたなと」

有島志磨(遼平、ドレスコーズ)くんなんかもそうですけど、いま一緒にやってる人はもともと友達だった人が多くて、僕は何も変わってないつもり。環境がちょっと変わって、たまたま露出は多くなったけど、やってることは何も変わってないです」

――ちなみに、鈴木さんはarko lemmingのアルバムはどう思いましたか?

鈴木「俺、まだちゃんと聴いてないんですよ。聴かせてくれないんで、本人がくれるまで聴かないでおこうかと(笑)」

arko lemmingの2015年作『PLANKTON』収録曲“Sigh”

 

有島「俺もわざわざ鈴木が録ったアルバムだからって聴かないし(笑)」

――状況は変わっても、関係性は変わってないっていうことですね。

鈴木「もしかしたらですけど、全員ふとした瞬間に〈家を建てるのがおもしろい〉という話になったら、次のアルバムは『家』かも知れない(笑)」

――関係性ありきだから、音楽じゃないかもしれないと。

鈴木「まあ、音楽もやるとは思うんですけどね。でも、みんなが街作りにハマったら、次は『街』をリリースして、〈この商店街に流すBGMを作ろう〉みたいな、そういう感じになるかもしれないですね(笑)」

『KIERTOTIE』収録曲“Fall”