インタビュー

ダニエル・クオンのはてしない物語―東京インディーの異端児、新作『ノーツ』の真相と異常な音楽愛を語る初インタヴュー

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まあライフ・エクスペリエンスだね、全部。好きな音楽もあるけど、でも破壊したい。僕の曲をどうやって作るか、それが大変

――『ノーツ』には森は生きているのメンバーだった岡田(拓郎)くんと増村(和彦)くんも参加してるけど、彼らと最初に会ったのはいつ?

「結構前だね。『Rくん』が出た後だから、一昨年ぐらい? 岡田が珍屋(立川の中古レコード店)でアルバムを聴いて興味があったみたいで、彼とちょっと呑んで、一緒に演奏して。初めて会った時に増村と3人でリハーサルをやったらすごく良くって、ライヴやろうかなと思って。ライヴは本当に適当。全然リハーサルとかしたことないし。(ステージを共にしたのは)全部で5回ぐらいかな?」

――『ノーツ』のジャケットはポール・マッカートニーの『McCartney』っぽいよね。

「これは朝歩いてたら(見つけて)、ちょっと自分で並べ替えたりしたけど、学校の外に本当にこういう感じで落ちてて、いいんじゃないかなって」

ポール・マッカートニーの70年作『McCartney』収録曲“Junk”

 

――アルバムの1曲目のタイトルも“Fruit, Not Apple”だけど、最初に入ってるリンゴをかじる音は、アダムとイヴの神話から来てるんだよね?

「あれも聖書に書いてあって、みんながリンゴって言うけど、本当はただの果実で。最初は女性のキャラクターがリンゴを手に取って、よく聴くと僕はヘビのキャラクターで、〈OK?〉って言ってる(笑)。そこで〈カチッ!〉と鳴って、次のシーンは〈ダンダンダンダン……〉って走るイメージで、そしたら増村のクラッシュ・シンバルが聴こえて地獄に堕ちていくんだけど、そこは地獄じゃなくてオフィスだったという(笑)。最初の罪を犯したから地獄に堕ちて、ずっと仕事をしないといけなくって。それが終わったら最後にドアが閉まる音が鳴って、次が“Hop Into The Love Van”っていう曲で、タクシーの運転手みたいな人が〈ハイ〉って言う。それはドラマーの(牛山)健の声なんだけど(笑)」

――この曲に限らず、ソドムとゴモラ、ダビデとゴリアテとか、聖書からの引用がよく出てくるよね。

「それは本当に、僕の歴史だから。毎週教会に行かされてた。そういう情報もまだ(頭に)入ってるから、アウトプットすればヘルシーかなと思って(笑)。聖書も何回か読んだから、インスピレーションっていうか、イメージが……子供の時のトラウマだね。聖書読んだことある? ヤバイよ」

――そう?

「半分ぐらいホラーだよ(笑)。みんなでジーザスをずっとフォローして、子供の時も〈これ何だろう?〉って思ってた。彼がグロイ感じで死んじゃって、もう一回起きて、〈アイム・バ~~ック!〉って。〈ヤバイじゃんジーザス! テイク・イット・イージー、ジーザス!〉って(笑)。何回死んでも起きるし。その頃に教会からクリスチャン・ロックとか紹介されたけど、すっごいダサイ(笑)。初めてエイミー・グラントとかも聴いて。マイケル・カードキース・グリーンも。でもほとんどAORだね。当時ペンシルヴァニアに韓国系のコミュニティーがあって、白人が韓国の人たちにそういう音楽をレンタルして、〈ヘイ、コリアン・ピープル! フォロー・ジーザス!〉みたいな(笑)、そういうキャンペーンって感じだった。そういえばいつだったか、僕が(所有していた)CDを全部持っていって、みんなで壊すみたいなミーティングがあった(笑)。昔のビートルズみたいな感じで、クイーンの『Greatest Hits』とか、ニルヴァーナの〈アンプラグド〉(『MTV Unplugged In New York』)を〈バキッ!〉って割られて〈オー、ノーッ!〉て」

エイミー・グラントの82年作『Age To Age』収録曲“In A Little While”。100万枚を超えるセールスを記録した、クリスチャン・ミュージックの人気作

 

――じゃあトラウマだったものが出てしまうだけで、(聖書からの引用は)特に意識しているわけではないんだ?

「まあライフ・エクスペリエンスだね、全部。フィーリング……こういう話をするとジョン・レノンみたいになっちゃうけど(笑)、やっぱりタッチとか、ピアノに座るとこういうポジションで弾くというのは全部フィーリングで。その日がバッドかハッピーかも関係あるかもしれないけど、すべてコンビネーションで、そこがおもしろいかな。好きな音楽もあるけど、でも破壊したい。僕の曲をどうやって作るか、それが大変。エミット・ローズはオリジナルなアレンジを始めたけど、ソロになる前はどれもビートルズに似ていて、あんまり良くなかったんじゃない? 良くないビートルズもいっぱいあるけど、エミット・ローズは自分で録音してたし、それがインスピレーションになって、自分でもやろうかなと。そうしたらジム・オルークみたいなアーティスト――(自分で)ミックスもするし、エンジニアやプロデューサーもできる人がいて。(自身の)ファースト・アルバムの時は自分でミックスはしなかったけど、ヴォーカルのダブル・トラックとか、ギターは左に振るといったシンプルなアレンジの勉強にはなって。70年代の音楽は本当にテキストブックっていうか、勉強したいんだったらそこから始めたらいいなと思って、いっぱい見つけた。80年代はほとんどダメだけど(笑)。ミックスとか、ドラムが大きすぎる!」

2010年作『ダニエル・クオン』収録曲“A Tiger's Meal”

 

――『ノーツ』も、最初のデモの段階では結構シンプルだったけど、最終的にはかなりフィールド・レコーディングした音が入ってるよね。

「なんて言うんだろう? 直感的っていうか、あまりプランニングしてないかもしれない。『Rくん』が好きだった人はこれも好きなんじゃない?  サイレンとか、フィールド・レコーディングの音もいっぱい入ってるし。フィールド・レコーディングを後で編集する時が一番おもしろかった。ファースト・アルバムは結構普通のアルバムって感じだったから」

――でも“Lady B”とか“Judy”は結構昔に作った曲でしょ?

「ああいう昔のアイデア、コードやメロディーもあったし、セカンド・ヴァースにコーラスとか、そういう〈普通〉のアレンジもライヴでやってたけど、今回は変態になろうかなって(笑)。(作り込みすぎて)最後の2週間ぐらいは本当にチャレンジだったけど。〈Pヴァイン、プレッシャ〜! 僕も仕事忙しい〜!〉 って(笑)。スパークスの“Beat The Clock”みたいな」

スパークスの79年作『No.1 In Heaven』収録曲“Beat The Clock”。ジョルジオ・モロダーがプロデュースした、時間に追われる現代人を皮肉ったナンバー

 

――この間も、〈入ってる音全部に意味があるんだ〉って言ってたよね。

「本当に、適当じゃないと思う。歌詞にもいろんなイメージがあるけど、音楽でそれをフォローするっていうか。卓球の音が入ってる曲(“Mr. Kimono”)も、よく聴いたら2人で卓球してるけど、〈カラオケ行こう〉って誘われて、もう一人が〈えっ?〉って言ってボールが転がっていって、次のパートでは〈ナナナナー♪〉っていう、すごいダサイ感じで」

――カラオケに行ってるんだ(笑)。“Judy”では曲の途中で笑っちゃってるパートがあるよね。

「あそこのシーンは、チェリーボーイみたいなアダムのキャラクターが女の子と一緒にベッドに入って……だから〈ドゥルドゥルドゥ……〉って歌ってるところはセックス・シーンみたいな(笑)。録音してる時に〈これ本当にステューピッドだな〉と思って笑っちゃったんだけど、雰囲気がいいかなと思ってキープしてて。そういうムードってあるでしょ? それを破壊したいというか。そしたら最後にブライアン・メイみたいなギターが入って、彼がイッちゃうの。それがクライマックス(笑)」

――オルガズムなのか(笑)。それは(“Judy”の)ミュージック・ビデオにも反映されてるの?

「それは危ないから、ビデオとは関係ない(笑)。最後のほうにヴァイオレンスもあるけど、壊してるのはオブジェクトだから。いまは本当にどこでもヴァイオレンス、ヴァイオレンスでしょ? でもこれはステューピッドだし、ヴァイオレンスもステューピッドだから、そういう意味で。でも最後に出てくるブタにはちょっとメッセージがあるかも(笑)」

――そういえば2曲目(“Hop Into The Love Van”)のヴォーカルではピーター・アイヴァースを、3曲目(“Lady B”)ではスコット・ウォーカーを意識したとか。

「オマージュっていうか、ああいう音がすごく好きで、声が聴こえるとその人のキャラクターはそんなに関係なくなるから、真似してみようかなって。本当にそれが楽器というか、ピーター・アイヴァースの声は誰にも真似できないからチャレンジ!っていうか。すごい気持ち悪かった。今回はヴォーカルが本当にチャレンジだった。すごくたくさん歌ったから。リアクションとかタイミング……、全部勉強だね。スタジオで録らなかったし、普通のシチュエーションだったら誰かがプレイバックするけど、全部(録音)が終わってから自分でやったから、面倒臭いなっていうか、適当っていうか、結構難しかった。ハーモニーとか、ただフィーリングで」

ピーター・アイヴァースの編集盤『Nirvana Peter』収録曲“Miraculous Weekend”

 

スコット・ウォーカーの69年作『Scott 3』収録曲“It's Raining Today”

 

――“Japanese Only”という日本語の曲は細野晴臣を意識したんだよね。

「あー、そうだね。あれは結構難しかった。すごくシンプルだとみんな思うかもしれないけど、〈ああいう音ってどうやって作るんだろう?〉って感じで。彼の歌を聴いてちょっと勉強したけど、ブレシングがおもしろいから」

――それ以外で誰か真似してみた人はいる?

「真似しようとすると意識しちゃうから、ナチュラルに全部出したかな。でも、いま聴くと〈あ、そうか、このヴォーカルは……〉とか、結構いっぱい入ってるんじゃないの、いろんな人が歌ってるみたいだね(笑)。そういうコンセプトっていうか、クイーンやビートルズのように、メンバーが3~4人ぐらいいて、みんな自分の曲を歌ったりするバンドが好きだから」

――“Mr. Kimono”はなんでこのタイトルなの?

「ワーキング・タイトルだったんだよね。その前にもいろんなタイトルがあって。〈キモノ〉は女の人の着物を思い出すけど、〈ミスター〉は普通のサラリーマンみたいな人かなと思って。あの曲はちょっとキャラクター・スタイルっていうか、ちょっと病気な、頭の中で何を考えてるかわからないサラリーマンが出てきて、いろんな色とか、パターンが入ってるからキモノなのかな」

―― 〈キモノ〉っていうと、スパークスの『Kimono My House』も連想するけど。

「最後の前の曲(“Holy Smokes!”)とかもね。彼(スパークスのラッセル・メイル)とも日本で会ったしね、〈はなまるうどん〉で(笑)

――ああ、今年の〈サマソニ〉にフランツ・フェルディナンドと合体したFFS〉名義で出た時だ。

「彼が帰っちゃうところだったから、〈ラスト・チャンス、ストップ!〉と思って近付いて、〈……スパークス?〉って訊いたら〈……イエス〉って(笑)。もし〈ノー〉って言われたら本当に危なかった(笑)」

スパークスの74年作『Kimono My House』収録曲“Amateur Hour”

 

――しかもジム・オルークのライヴの帰りだったんでしょ?

「そう。でもそうしたらジム・オルークのこと忘れちゃって(笑)。〈スパークス、イエ〜イ!〉って。すごいビックリした」

――ジム・オルークが『Rくん』を聴いて、フランク・ザッパの『We’re Only In It For The Money』っぽいと言ってたらしいけど、ダニエルとしては今回のほうがそれっぽいみたいだね。

「何回か偶然(ジムと)会って、そういう話もしたけどね。ライヴが終わってみんな外にいて、(山本)達久さんに話して、その時はストーカーみたいな感じでみんなと話したけど、まあ(自分がジムの)ファンっていうか。(『Rくん』も)全部聴いたかどうかわからないし、10秒ぐらい聴いたのかもしれないけど(笑)」

――じゃあ別に(〈We’re Only~〉を)意識してたわけじゃないんだ。

「でも編集とか、全部フランク・ザッパから学んだから。ザッパはいろいろ好きなのがあるけど、アルバム全部で1曲っていう感じだし、何回か聴いてたから、そういう関係もあるかな。〈ザッパっぽいアルバムを作るぞ〜!〉とか、そういう感じではなかったけど」

マザーズ・オブ・インヴェンションの68年作『We’re Only In It For The Money』収録曲“Who Needs The Peace Corps?”

 

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