ドルチェ&ガッパーナも惚れ込んだ“チケット即完売バンド”の加熱的サウンド
We are The Hot Sardines.(俺ら、ピリ辛イワシだぜ!)、こういう名付けのセンスが大好物だ。リーダーのエヴァン“ビブス”パラッツオ(p)と、双頭的存在のミズ・エリザベス(vo)が出逢って生まれた、「基本8人を中核に」ホット・ジャズを歌って踊って奏でるバンド。「レッチリの流れで“レッド・ホット・サーディンズ”と呼ばれる時もあるわ(笑)」というバンド名は、近所のスーパーで見つけた小さな缶詰の表記から即決された。サッチモやジャンゴやファッツ・ウォーラーらの時代のフット・ストンピング・ジャズを現代風に撥ねさせるサウンドにぴったりだ。
イワシは遊泳能力が高い小魚だが、その伝統的味わいをフレッシュに加工するに際してはやはりアンチョビ(塩漬け・非加熱)ではなく、オイルサーディン(油漬け・加熱)の俗称のほうが相応しかったのだろう。「そう、仰るとおりにメンバーを徐々に釣っていったんだ(笑)。というよりも僕らの場合、2人で網を置いといたら魚のほうが勝手に飛び込んできてくれたという感じかな」(エヴァン談)。折しもNY周辺では1920~30年代のジャズが再評価されだし、それを新鮮に受けとめて換骨奪胎を志す若い音楽家たちが増えてきていた。「ただ、そんなブームで出てきた十把一絡げのバンドの一つにはなりたくなかった」2人が、最初に誘ったのがタップ・ダンシングの“急速なエディ”・フランシスコという辺りに彼らのこだわりが透視できる。「彼女と共通して好きだった存在にフレッド・アステアやジーン・ケリーがいたからね。このテの音楽を初めて聴くという人々に届ける場合、タップ・ダンサーがもたらすビジュアル的エネルギーの意味はとても大きいと考えているんだ。エディの振付は毎回が即興だし、サックスやピアノのソロと同じように踊っているんだよ」(同前)。そう、よく撥ねるんだ!
メジャーデビュー後の2作のプロデューサーは(ノラ・ジョーンズやエルヴィス・コステロとの仕事で知られる)イーライ・ウルフだが、唯一CDでは上手く伝わらない部分があるとすれば、件のエディの脚さばきの凄さだろう。彼らのライヴ演奏を一度でも観れば、それも前の席であればあるほど、ピリ辛イワシ音楽の回遊性に魅せられるコト、請け合いだ。モンローやエラの持ち歌に混ざって、ロバート・パーマーの1985年ヒット曲《恋におぼれて》を挟む辺りもニクい選曲だ。「あれはニック・マイヤ―(sax)の編曲で、カウント・ベイシー+ジョー・ウイリアムス+レイ・チャールズがちょっと入ったようなバイブに仕上がっているよね」、彼らの個性が集約されたコメントだ。ビリー・ホリデイの『ラヴァー・マン』以来、大好きな21世紀のデッカ盤が2枚増えた。