消えゆくグリーンランド文化の中で、母国語で歌い続けるというメッセージ

 北極圏のグリーンランドで生まれたナヌーク。グリーンランド語に拘った歌は、不思議と馴染みやすく印象的だ。コールドプレイにも通じる叙情的なメロディを書く二人のソングライターのクリスチャンフレデリックのエルスナー兄弟は噂通り素朴で温かく、彼らがそこに居るだけで周囲は柔らかな空気に包まれる。

 「兄弟じゃなければナヌークじゃないと思ってる」

 兄のクリスチャンがバンドの背景を語ってくれた。

 「ギターを始めたのは80年代にバンドをやってた父親の影響だよ。僕たちの父はギタリストだったから」

 氷河の国の兄弟は音楽に恵まれた環境で育ち、貪欲に音楽を吸収してオリジナル曲も書き溜めていた。

 「最初に買ったCDはグリーンランドのSUME(スミ)だよ。ギターを弾き始めてからはジミヘンピンク・フロイド。その後メタリカブラック・サバスも聴いた。何故かわからないけどグリーンランド人は皆ギターを弾きたがるから聴く音楽もギターが中心なんだ」

 兄弟で曲作りをすることのメリットは兄が正しい方向に導いてくれることだと弟が言う。

 「弟は何故か自分に自信があって、曲が出来上がると2、3曲録ったらそれで満足してしまうんだ。僕は完璧主義だから『もう一度』と何度もテイクを録らないと満足できない。そこが兄弟でも違うところだよ」

 プロとして活動を開始してもグリーンランドでは国内ツアーすることは海外へ行くよりも困難を極める。

 「グリーンランドには陸路がないので国内をまわる時は船を使うんだけど、移動もコストもかかって地方公演をやったバンドはまだ2つしかいない。でもショウをやると観客がとても楽しそうなんだよ。目を見ていると幸せそうな様子が伝わってきて苦労も忘れるよ。僕らにとってそれが最も重要なことさ。行くたびに新しい発見にも出会えるしね。コンサートはスポーツ・アリーナやホテルのバー、カルチャー・センターみたいな場所でやるんだ。だからナヌークのファンは、5歳の子供から60歳の家族連れまで幅広いんだよ」

 ナヌークの目指すゴールはどこなのか。

 「グリーンランドでは狩猟や犬ぞりといった伝統文化がどんどん消滅している。でも消えゆく文化の中で、言葉だけはとても力を増しているんだ。だからグリーンランド語で歌うことはとても重要なことなんだ。僕たちが母国語で歌うことで、100%の本気が伝わってるんじゃないかな。たくさんの人に僕らの音楽を聴いてもらいたいからツアーを続け、メッセージを送り続けていくんだ。それがナヌークのゴールだよ。そうすることがグリーンランドの人たちのためにもなるし、僕らのためにもなると思う」


LIVE INFORMATION

ICE STATION
○2017/2/7(火)19:00開演 会場:磔磔(京都)
○2/9(木)、10(金)19:00開演 会場:Shibuya WWW(東京)
出演:ピーター・バックスコット・マッコイマイク・ミルズ/他
www.mplant.com