聴く者の胸を熱くする“グリーンランド愛”

 グリーンランドといったら、まず何を連想するだろう? 北極圏、巨大な氷河、オーロラ、犬ぞり、先住民族イヌイット、植村直己による探検などが一般的なところだろうか。加えて、音楽ファンにとってはナヌークの名が追加される日もそう遠くないかもしれない。彼らの魅力が凝縮された日本デビュー盤(にしてベスト・アルバム)を聴いていると、そんな気がしてくるのだ。

NANOOK AI~THE BEST OF NANOOK~氷美~ナヌーク音綺譚~ キング(2016)

 プログレッシヴに展開するシンフォニックなロックから、軽やかなシャッフル・ナンバーまで、幅広く変幻自在に展開するサウンド。そのスケールの大きさはレディオヘッドシガー・ロスなどを連想させもするが、時折現れるヴァイオリンや、イヌイットに伝わる太鼓がエスニックな味を加え、彼らの音楽をオリジナルなものにしている。

 グリーンランドの首都ヌークでレコード/楽器店を営む家に育ったクリスチャンフレデリックのエルスナー兄弟を中心に結成されたナヌーク。ナヌークというのは、イヌイットの言葉で“ホッキョクグマ”をさす。2009年にデビューし、2011年に発表したセカンド・アルバム『相愛(AI AI)』が人口5万人ほどのグリーンランドで1万枚を売り上げる大ヒットとなり、一躍同地域のトップ・バンドに。現在では北欧諸国をはじめカナダやアメリカでもツアーを行うほか、国外の音楽フェスティバルにも多く出演している。昨年には初来日を果たし、今年も11月に、更には来年にも来日公演が予定されているというから、一気に日本でもブレイクする可能性も秘めている。

 さて、サウンドに加えて彼らのユニークな個性といえるのが、グリーンランド語による歌詞だ。現在では英語によるアルバム制作のオファーも絶えないというが、それらはすべて断っているという。実は、ナヌークがグリーンランド語の歌詞ににこだわるのには理由がある。彼らが曲を作り始めたのには、自殺した友人の存在が大きく影響していて(自殺はアルコール依存症と並んでグリーンランドが抱える社会問題である)、そのため孤独に苦しむ人に対して前向きに生きるよう励ますものが多いのだ。その奥底には祖国に対するどこまでも深い愛情があり、大自然に対する畏敬の念やイヌイットへの敬意、また地球温暖化への警鐘をテーマにした曲もある。インターナショナルに通用するダイナミックなサウンドとは裏腹に、そのメッセージは祖国へと向けられているのだ。

 聴く者の胸を熱くするナヌークの“グリーンランド愛”。彼らの音楽を聴き、メッセージを感じたら、きっとグリーンランドに興味を持つに違いない。

 


LIVE INFORMATION

ICE STATION
○2017/2/7(火)19:00開演 会場:磔磔(京都)
○2/9(木)、10(金)19:00開演 会場:Shibuya WWW(東京)
出演:ピーター・バックスコット・マッコイマイク・ミルズ/他
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