ノルウェー人ジャズ・マンの矜持を胸に……国際派テナー奏者が獲得した一里塚

 ブルンボルグは詩情と技巧に富む、ノルウェー人のテナー・サックス奏者だ。彼のことを、マヌ・カッチェ・バンドの一員として知る人もいるだろう。そんな彼の世界的なデビューは、ECMが作品群を送り出したノルウェーのバンドであるマスカレロに入った際。それは1960年生まれの彼が22歳の時のことで、自身もマスカレロがキャリアの転機となったと感じている。

 「1970年初頭に、ヨン・クリステンセン(彼はマスカレロのドラマーも務めた)とテリエ・リピダル、ヤン・ガルバレクたちが世界的な成功を収め、続く奏者たちが刺激を受けたことが、後のノルウェーのジャズの興隆につながった。ECMはドイツの会社でありながらオスロにスタジオを置き、ノルウェーの音楽家を育ててくれたというのは、我が国のジャズにとって幸運だった」

TORE BRUNBORG Slow Snow Act(2015)

 独アクトからの新作『スロウ・スノウ』もECM御用達のレインボー・スタジオで、同レーベルの主任エンジニアであるヤン・エリック・コングスハウグの手により録音された。「予算が許せば、こんないいスタジオはない。3日間で録らなければならなかったが、逆に集中してレコーディングにあたれたのは良かった」

 ジャズランド発の諸作で日本でもよく知られる越境派ギタリストのアイヴィン・オールセット、昨年のピーター・バラカンが監修する音楽フェスティヴァル『Peter Barakan's LIVE MAGIC!』にも出演したアルヴァスほか様々なグループで来日しているベースのスタイナー・ラクネス、作曲家としての才もアピールするリーダー作も魅力的なドラマーのペール・オッドヴァール・ヨハンセンというカルテットで、それは録音された。

 「アイヴィンをはじめ、皆んな素晴らしい才能の持ち主。だから、アルバムの音はこのメンバーありきといった感じもあるよね。『スロウ・スノウ』とは、“ゆっくりと舞っている雪のような、心持ち”を指す」

 『スロウ・スノウ』は彼が住むヴォッサヤズという所で持たれているジャズ祭から委嘱されて作った。そこは、スキーと伝統音楽が盛んであるという。

 「まず短期集中して書いたものをフェスで披露し、それからレコーディングしている。つまり、バンドとともに曲も進化してきた結果が、アルバムになった」

 デクスター・ゴードンやジョン・コルトレーンなど米国のジャズ・マンに、かつて彼は憧れた。だが、ストーリー性と滋味と余白に溢れる『スロウ・スノウ』は米国のジャズからは大きく離れた聞き味を持ち、それはノルウェー発のジャズであることを強く認識付ける。

 「それこそは、僕のやりたいこと。僕が人間として何者かというステートメントを発したんだ」