シューゲイザーが大きな盛り上がりを見せるなか、その魅力を改めて伝えるための短期集中連載〈黒田隆憲のシューゲイザー講座〉。ジャンルの黎明期を紹介する第1回、ルーツを掘り下げた第2回、21世紀の音楽シーンへの影響を辿る第3回に続き、この第4回ではオリジナル・シューゲイザー組の復活劇に迫る。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン再始動をきっかけに、ジャンルを象徴する人気バンドが続々と復活を果たしているなか、ここではマイブラ、スロウダイヴ、ライドの〈御三家〉をフィーチャー。リユニオン〜今日までの歩みとニュー・アルバムについて紐解いていく。この3組への思い入れがあまりに深いことと、過去3回の記事がいずれも大好評だったことを受け、黒田氏(とMikiki編集部)から感謝の気持ちを込めて、最終回となるこの第4回は拡大版でお届けする。 *Mikiki編集部

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ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)。2013年9月、東京・国際フォーラムにて
photo by 黒田隆憲
 

日本でも大きな話題に、マイブラ復活劇の一部始終

〈クリエイションの経営を傾かせるほどの予算を注ぎ込んだ〉と言われるアルバム『Loveless』をリリースして以来、実に10数年もの間沈黙を守り続け、事実上の活動休止状態だったマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。彼らの〈再始動〉がまことしやかに伝えられたのは、忘れもしない2008年の年明けでした。それまで何度も浮かんでは消えていたデマと同様、今回のニュースも俄かには信じられませんでしたが、UKツアーも決まり、ウォームアップ・ギグの映像がYouTubeに次々とアップされ、〈これは現実なのだ〉と気付いた時にはロンドン公演のチケットを握りしめ、飛行機に飛び乗っていたのを思い出します。

マイブラを活動休止している間、ケヴィン・シールズはパステルズやモグワイ、ヨ・ラ・テンゴといった親交のあるバンドのリミックスを行なったり、親友のJ・マスキス率いるダイナソー・Jrや元カノのシャルロット・マリオンヌーによるソロ・プロジェクト、 ル・ヴォリューム・クールブのレコーディングに参加したり、割と裏方に近い仕事を行なっていました。

そんな彼が再び脚光を浴びたのは、プライマル・スクリームの『XTRMNTR』(2000年)と『Evil Heat』(2002年)にプロデューサー/共作者として全面的に参加したことや、自身の名義で書き下ろした“City Girl”など数曲を、ソフィア・コッポラ監督の映画「ロスト・イン・トランスレーション」(2003年)に提供したことがきっかけでした。その後、プライマルの一員として何度か来日を果たしたケヴィン。2005年の〈フジロック〉でクロージングを飾った際には、J・マスキスもステージに上がり、伝説的なパフォーマンスを行なっています。ちなみに「ロスト・イン・トランスレーション」への楽曲提供は、同作の音楽監督であり、エールのサポート・ドラマーとしても活躍しているブライアン・レイツェルに、2001年の〈サマソニ〉出演で日本を訪れたときに口説かれたのがきっかけらしいです。

ケヴィン・シールズが参加したプライマル・スクリームの2000年のライヴ映像
 
「ロスト・イン・トランスレーション」サントラに収録されたケヴィン・シールズ“City Girl”
 

ただ、当時のケヴィンはかなり体格も良くなっており、90年代の面影はほとんどありませんでした。他のメンバーも、コルム・オコーサク(ドラムス)がマジー・スターのホープ・サンドヴァルと共にホープ・サンドヴァル&ザ・ウォーム・インヴェンションとして活動している以外は、ほとんど公の場に姿を現しておらず、〈本当にライヴが出来る状態なのか?〉という不安のほうが大きかったのは事実です。が、それは杞憂に終わりました。ご存知の通り再始動ライヴは大盛況を博します。再始動したのと同じ2008年の〈フジロック〉に初日の大トリとして降臨し、最後に15分間に及ぶフィードバック・ノイズを轟かせたステージは今でも語り草となっています。

この成功の裏には、キュアーのPAエンジニアも務めたマイケル・ブレナンや、ケヴィンのエフェクター・システムを構築したマイク・ヒルら、一流の技術者によるバックアップがあったことも忘れてはならないでしょう。PA機材や映像技術も90年代より格段に進歩し(バックスクリーンの映像はコルムによるもの)、ケヴィン・シールズの脳内世界を、90年代当時と比べてはるかに忠実に再現できるようになったというわけです。

マイブラの2008年〈フジロック〉でのライヴ映像
 

そこから2012年の旧作リイシューを経て、翌年には新作『m b v』をリリース。このアルバムは、96〜97年にかけてビリンダ・ブッチャーと制作していたマテリアルに、再び手を加え完成させたという変則的なもの。2006年から始まったリマスター作業の際、過去の音源を聴き直したことで、ケヴィンのモチヴェーションが上がったことがきっかけとなったそうです。デジタル回路を一切通さず、アナログのみでレコーディング&ミキシングされた太くて暖かいサウンドは、多くのミュージシャンから賛辞を送られました。それにしても、リマスターの作業におよそ6年、アルバム制作におよそ17年も費やすとは、さすがケヴィン……。

『m b v』収録曲“Only Tomorrow”
 

その年の3月には東京と大阪で単独ツアーを行い、7月には〈フジロック〉に再び出演。さらに9月には東京国際フォーラムにて一夜限りの単独公演(サポートアクトは相対性理論)と、年に3度も来日してファンを喜ばせてくれました。現在はアイルランドの農場に移り住み、プライヴェート・スタジオを設立。そこで『Loveless』のアナログ盤のためのリマスター作業を(かれこれ2年くらい)行なっているようです。さて、次の稼働はいつになることやら。

世界唯一の〈マイブラ公認カメラマン〉である黒田氏が撮影したライヴ写真。2013年2月、大阪・なんばHatchにて
 

こういったマイブラの復活劇を機に、ジーザス&メリー・チェイン、ラッシュ、チャプターハウス、メディスン、スワーヴドライヴァー、テレスコープスとオリジナル組が次々と復活。そしてついに〈御三家〉の残りの2組、スロウダイヴとライドの再結成/新作リリースも実現することになったのです。

スワーヴドライヴァーが2013年に発表した楽曲“Deep Wound”。マーク・ガードナー(ライド)が参加
 

テレスコープスが今年7月にリリースするニュー・アルバム『As Light Return』収録曲“You Can't Reach What You Hunger”