黒宮れい(ヴォーカル)、黒宮あや(ベース)、ひなこ(ギター)による3ピース・バンドのBRATSが、ファースト・シングル『アイニコイヨ/脳内消去ゲーム』をリリースした。
黒宮れいと言えば、共に〈ミスiD2015〉に選出された金子理江とのアイドル・ユニットであるThe Idol Formerly Known As LADYBABYの活動で知られているが、実はBRATSのほうが歴史は長く、彼女と実姉のあやが中心となってバンドを立ち上げたのは2011年のこと。その後、メンバーの変遷を経て、あやの友人だったひなこが加入し、現在の編成となった。2015年にはアーバンギャルドのプロデュースによる楽曲“十四歳病”をYouTubeに公開して話題を呼んだが、2016年4月の公演をもってライヴ活動を一時休止。しばらく表舞台から姿を消していた。
そんな彼女たちが、新たなサウンドを携えて戻ってきたのは2016年10月。TVアニメ「TO BE HERO」のオープニング・テーマとして披露された“アイニコイヨ”は、ひずんだギター・サウンドをバックに、れいがパワフルな歌声で挑発するように檄を飛ばす骨太なオルタナティヴ・ロック。続いて映画「スレイブメン」の主題歌として公開された“脳内消去ゲーム”も、グランジ直系のささくれ立ったバンド・アンサンブルが攻撃的に響く、黒宮れいの壮絶な生き様を体現したようなへヴィー・ナンバーだった。
まるで10代特有の苛立ちをそのまま曲にしてぶつけるように、重く、激しく、苛烈なまでの荒々しさを伴って音楽的な進化を遂げたBRATS。そこには彼女たちにしか表現し得ない、とある変革の理由があった。ある意味血よりも濃い絆で結ばれたメンバー3人に、新生BRATSの音楽プロデューサーとして彼女たちが絶対の信頼を置く森本裕二を交えて話を訊いた。
言葉が汚くて屈折していても、れいが歌うことでストレートに届く
――バンドとしては2016年4月からしばらくライヴ活動を休止していましたが、その間はどうされていたんでしょうか?
ひなこ(ギター)「それまでは音楽性がなあなあになっていたので、もっと自分たちがやりたいことをやろうということになって。それには練習も必要だし、方向性もちゃんと見ていかなくてはならないので、考える時間が必要だなって」
黒宮れい(ヴォーカル)「前はバンドといってもアイドル寄りでキラキラしてたんです。でもみんな好きな音楽はロックだったので、ロックをやりたいということになって。それで、休止期間に自分たちのやりたい音楽の方向性をメンバーみんなでしっかり定めたんです」
ひなこ「周りの人もBRATSはたぶんロックをやったほうが合うと思ってて。私たちがやりたいのもわかってるし」
――なるほど。ちなみにみなさん、普段はどんな音楽を聴かれるんですか?
れい「海外のエモとかスクリーモが好きで、シークレッツっていうバンドとか聴いたりします。あとは銀杏BOYZ、椎名林檎、東京事変とか、カッコイイと思ったものは何でも聴きます」
ひなこ「高1でギターを始めた頃はメタルにハマって、ドリーム・シアターとかどメタルなバンドをめっちゃ聴いてました。でも、アイドルとかアニソンも聴くし、あんまり(ジャンルに)捉われないで何でも聴きますね」
黒宮あや(ベース)「いっぱい聴くのはヴィジュアル系なんですけど、最近はミオヤマザキやSALTY DOGっていうバンドとか。あとはbanvoxというDJの人がめっちゃ好きです。曲がヤバいし見た目も可愛い(笑)」
――(笑)。そういった各自の音楽的な好みをすり合わせつつ、自分たちのやりたい音楽の方向性を固めていったわけですが、新生BRATSを作るにあたって制作サイドに具体的な音のリクエストはしましたか?
れい「とりあえず自分たちが〈こういう曲をやりたい〉ってイメージする楽曲を何曲か出したら、3人とも被ってる曲があって」
ひなこ「何にも打ち合わせしてないのに、みんなONE OK ROCKの“Liar”を挙げてたんですよ。あれは奇跡だったよね」
あや「びっくりした」
れい「何か気持ち悪かったもんね(笑)」
――でも、その時点で自分たちのやりたいヴィジョンが完全に一致したなんて、すごく運命的ですね。そうして完成した“アイニコイヨ”は、それまでのBRATSとはかけ離れたハードなサウンドで、自分も初めて耳にした時はビックリしました。メンバーのみなさんは、この曲を最初に聴いてどんな感想を抱きましたか?
ひなこ「それまではリフを意識したような曲があまりなかったけど、この曲はリフからガッツリ入るので、弾く側としては楽しそうと思いましたね。サビもキャッチーで聴きやすいし」
あや「やりたいイメージの曲に近づいていたので、普通にカッコイイなって思いました」
れい「歌詞に自分と重なる部分があるから、自分のなかにスーッと入ってきて歌いやすかったです。(BRATSの)昔の曲は歌詞がポップだったので、何となく違和感があったんですよ」
――具体的にどういったところが自分と重なったんですか?
れい「〈あー今すぐ アイニコヨ/理想を語ってカタルシス〉とか〈イラついてるの気がきませんか?〉のあたりとか。別に怒りっぽいわけじゃないですけど(笑)、芸能活動をしていると〈れいじゃなくても代わりはいるよ〉みたいなことを結構言われるんですよ」
――そういった周囲の声に対する苛立ちとか鬱憤を乗せやすい歌詞だと。
れい「そこは全部出してますね(笑)。そういう時って言い返せないから感情を押し殺すじゃないですか。でも、この曲は歌詞がいいので、歌ってると気持ちが出ちゃいます」
――今回の2曲のプロデュースを手掛けられた森本さんにお伺いしますが、新生BRATSの一発目を見せるにあたって、どのような楽曲を書こうと思ったのですか?
森本裕二「れいの声は基本的にメロディックなものが合うので、ハードななかにもメロディックな部分を大事にして書きましたね。歌詞はアニメに合わせて調整しましたが、僕は彼女たちにアニメとは別のストーリーを作ろうと思って詞を書いてるので、実はアニメの内容とリンクしているようでありながら別のメッセージを込めています」
――どういうメッセージを表現しようとされたんですか?
森本「例えば自分も含めてですが、うだつがあがらないけど口ばかり達者だとか、理屈をこねたがったりとか、自分たちのダメなところに気が付いてる人っているじゃないですか。そういう人たちに対して、言葉は汚かったり屈折してますが、れいにエールを送って欲しいという気持ちがありましたね」
――それがれいさんのキャラクターにハマると。
森本「黒宮れいが歌うことによってすごくストレートに届くんじゃないかということは大前提でしたね。そんななかにもどこかに救いが必要だと思うんですけど、黒宮れいのキャラクターのなかにも救いがあるように見えるので」
れい「うん……そうですね(笑)」
――森本さんはれいさんのことをすごく理解してるんですね。
れい「そうなんですよ! マジで森本さん理解してるよね」
ひなこ「うん、エスパー(笑)」
れい「エスパー森本です(笑)」
森本「(笑)。でも、本当に刺激的でおもしろい子たちだなって思うんですよ。素直じゃないけど(笑)、それは本人たちに主張があるということだと思うので。なのでやりがいは非常に感じますね」