スロッビング・グリッスルの発したメッセージ、それは〈これからは情報戦争だ〉〈俺たちはデス・ファクトリーに生きている〉というものでした。〈デス・ファクトリー〉とは、イギリスの〈テスコ〉という世界一安いスーパー・マーケットを揶揄した言葉ですが、つまり〈テスコの食品を食わされた俺たちは屠殺所に行く家畜だ〉ということです。モリッシーが85年に〈ミート・イズ・マーダー〉と言う前にスロッビング・グリッスルのジェネシス・P・オリッジはすでに同じようなことを言っていたのです。当時は何を言っているのだろうと思ってましたけど、のちにテスコがハンバークか何かの加工食品に馬の肉を入れていた事件が発覚して、ジェネシスが言っていたことは正しかったことが証明されました。トランプ大統領を生んだフェイク・ニュースのことを考えるとこれからは情報戦争だというのもまさにジェネシスの言う通りです。でも、そもそも〈情報戦争だ!〉と言っていたのはアメリカの作家ウイリアム・バロウズなんですけどね。
スロッビング・グリッスルのもう一つ偉大な功績として隠匿生活をしていたバロウズを復活させたということも忘れてはいけません。ジミー・ペイジやデヴィッド・ボウイなどからリスペクトされながらもいま一つ盛り上がらなかったウイリアム・バロウズを盛り上げたのがジェネシスでした。スロッビング・グリッスルのライヴでバロウズに本を朗読させるというパフォーマンスをさせて、過去の人となっていた彼をパンクの文脈で語ることによって「ブレード・ランナー」前夜に復活させたのです。そう、パンク、ノイズをアカデミックな分野に持ち上げたのがスロッビング・グリッスルでした。YMOがラヴ・コールを送るなど当時は本当に飛ぶ鳥を落とすような勢いだったのです。
こんな彼らなんですが、失速も早かった。その理由が悲しいです。ジェネシスとコージーはずっとパートナーだったんですが、メンバーのクリス・カーターにコージーを取られてしまい、全部嫌になってしまったのです。悲しいですよね。全学連の最後みたいで、こういうところもアカデミックな人間にありがちなところで良いです。これまた当時はそんな事情などまったく知らず、突然〈Throbbing Gristle: The Mission is Terminated（＝任務終了）〉とだけ書かれたお葬式のようなポスト・カードが届いてびっくりしましたが。その後、ジェネシスは残りのメンバー、ピーター・クリストファーソンに、オルタナティヴTVのアレックス・ファーガソンを入れてサイキックTVを結成しますが、次は宗教かと興奮しましたね。
時を経てスロッビング・グリッスルは2004年に再結成もするのですが、ジェネシスがいろいろと問題のある人で、再結成がうまくいかなかったのは残念です（2010年に2度目の解散）。でも音源はジェネシスの手を離れコージーとクリスのものとなって、今回のリイシュー・シリーズなどのように再発されるようになったのはとってもいいことだと思います。
今の若い人にスロッビング・グリッスルがどう評価されるかまったくわからないですが、今こそスロッビング・グリッスルのようなバンドをやったらいいのになと思います。メンバーは全員軍服に身を包み、TGマークの下、コージーとピーターはディレイなどで処理されたトランペットを吹き、ジェネシスはミニマルなベースを刻む。そしてこれらの音を支えるのがクリスのシンセやテープ・コラージュ、ヘヴィーなリズム・マシーン。そして、その上を這うように歌う気が狂ったジェネシスのヴォーカル。まさに最強のノイズ・バンドがスロッビング・グリッスルだったのですから。スロッビング・グリッスルを聴きながら僕らはいつでもファイナル・ウォーの準備に備えているのです。
RELEASE INFORMATION
スロッビング・グリッスル リイシュー・シリーズ
■第2弾
2018年1月26日（金）リリース
『D.o.A. The Third And Final Report』
『Heathen Earth』
『Part Two: Endless Not』
■第3弾
2018年4月27日（金）リリース
『Mission Of Dead Souls』
『Greatest Hits』
『Journey Through A Body』
『In The Shadow Of The Sun』
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