薄曇りの少し陰鬱な初冬の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。何やら得体の知れない音楽が聴こえてきましたが……。

【今月のレポート盤】

THROBBING GRISTLE 20 Jazz Funk Greats MUTE/Industrial/Traffic(2017)

 

野比甚八「やっぱりスロッビング・グリッスルは最高にカッコイイですぜ! いやはや愉快痛快!」

三崎ハナ「愉快? ハナにはそう聴こえないけど」

逗子 優「でもまあ、痛快ではあるよね~。〈インダストリアル・ロックの元祖〉とも言うべき彼らのカタログが、デビュー40周年を記念してミュートから一挙にリイシューされるなんて、ロッ研的には事件だと思うよ~」

野比「第1弾として、〈死の工場からの音楽〉を標榜した77年の初作『The Second Annual Report』と、2004年の再結成に合わせて発表されたベスト盤『The Taste Of TG: A Beginner's Guide To The Music Of Throbbing Gristle』、そしていま流れている79年の3作目にしてバンドの代表作『20 Jazz Funk Greats』が、ライヴ音源などを加えた豪華仕様で登場っつうわけで、こいつは感無量ですぜ!」

逗子「来年には第2弾、第3弾も控えているから、スログリ貯金を計画しておかないとね~」

三崎「インダストリアル・ロックと言えば、ここ最近はナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソンが立て続けに作品をリリースして盛り上がっているよね!」

野比「NINやマリマンは肉体主義的っつうか、マッチョでハードなサウンドを得意としていやすが、彼らも当然スログリの影響を受けているっすよね」

逗子「そうだね、NINらが体育会系だとすると、スログリは文系ってところかな~。『20 Jazz Funk Greats』を聴いてもわかるけど、ほぼロックらしいビートはないしね~」

三崎「言われてみればそうだね! しかも別にジャズっぽくもファンクっぽくもない!」

野比「タイトルは彼らなりの洒落っすよね。ベイ・シティ・ローラーズをパロったジャケもパッと見は爽やかっすけど、実はこの撮影場所は自殺の名所らしいですぜ。相当ひねくれた連中っすよ」

逗子「中身に関しては徹底してミニマルで無機質なエレクトロニック・ミュージックって感じで、クラスターやノイ!の流れを汲んでいるよね~。本気とも冗談ともつかないテクノ・ポップ風の曲を交ぜ込んでいるのもクラウトロックの影響かな~?」

野比「そこにこの時代のUKっ子らしいパンク以降の攻撃性も加えているのがミソっすよね。コラージュやノイズにまみれた過剰なエディット処理と、呻き声さながらの呪詛的なヴォーカルの不穏さたるや!」

三崎「そこまで激しいサウンドじゃないんだけど、音の隙間から漏れる悪意と毒気が凄いよね。緑茶でも飲んでデトックスしなきゃ」

逗子「ところでさっきハナちゃんがインダストリアルの盛り上がりについて話していたけど、思い返せば2000年代末にファクトリー・フロアがデビューしたあたりから、この手の音が重宝されるようになったよね~。モダン・ラヴやトライ・アングル周辺のアーティストがどんどん作品を出し、〈ポスト・インダストリアル〉なんてタームで括られたりとかしてさ~」

野比「スログリもその流れで再評価されたっすよね! 近頃じゃ〈ポスト・インダストリアル〉という言葉自体はあまり目にしなくなりやしたが、とはいえ例えばケレラやヴィンス・ステイプルズの作品でもインダストリアルな匂いは感じられましたぜ」

逗子「うんうん、インダストリアルってもはやトレンドでも何でもなくて、わりとスタンダードなものとして2010年代の音楽シーン全体に根付いていると思うんだよ~。だからこそ、いま改めてスログリの功績を讃えたいよね~」

野比「そいつは違えねえや。おっと、あっしはこれからタワレコに行こうと思うんで、そろそろおいとましやす。お達者で!」

三崎「旅がらすみたいな挨拶だなあ」

最初は奇妙な音楽だと思っていましたが、今日のような乾いた曇天には意外と合う気もしますね。 【つづく】

このたびリイシューされたスロッビング・グリッスルの作品。