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〈1979年〉へのエレジー

 55歳のシングルマザーであるドロシアと、その高校生のひとり息子ジェイミーは、築70年を超えるサンタバーバラの一軒家に住み、一部を24歳の女性写真家アビーと、元ヒッピーで年齢不詳のウィリアムに間貸ししている。そして近所には、ジェイミーの幼馴染みで、毎晩のように彼の部屋に忍び込み、朝になるまで添い寝する17歳のジュリーがいる。こんな5人が織り成す〈1979年〉の物語である。

マイク・ミルズ 20センチュリー・ウーマン VAP(2017)

 〈1979年〉というのが、重要なポイントだ。ドロシアは、女性の喫煙が認められ始めた20年代半ばに生まれ、かつては女性パイロットになることに憧れ、若い頃から男達に混じって建築技師として働いてきた。ベトナム戦争やヒッピー革命、女性解放運動、ウォーターゲート事件といった米国社会を大きく揺るがせた時代をくぐり抜けてきた女性であり、毎朝株価をチェックする時も、大好きなジャズを聴く時も、常に煙草の煙をくゆらせている。ところが、こんな若い頃から自立心旺盛で進歩的だったドロシアも、思春期を迎えた息子のことがなかなか理解できない。その世代による価値観の違いの象徴として取り上げられているのが、パンクだ。たとえば、ジェイミーとアビーがレインコーツのレコードを一緒に聴いている部屋に入ってきたドロシアが、顔をしかめつつ、なんとか理解しようと説明を求めるシーンがある。そして〈フェミニズム〉も、この映画の重要なテーマである。マイク・ミルズ監督自身も、ほぼ母親と姉妹という女性だけの環境の中で成長したという。それだけに、ドロシア、アビー、ジュリーといった世代の異なる〈20センチュリー・ウーマン〉の各々のフェミニズムが、ユーモアを交えつつ巧みに描かれている。

 現代に繋がる時代の始まりだった〈1979年〉は、政治や経済、思想、文化などさまざまな分野における価値感の転換期にあたる。率直に言うと、真に自由で幸福だった時代の終わりだった。そんな〈1979年〉へのエレジーが込められた本作は、おかしくも切なく、しかもシリアスに胸に迫ってくる傑作だ。