SEE THE MUSIC! 2017年に日本公開された音楽好きへのオススメ映画

 本年度のアカデミー賞で最多6部門を受賞した「ラ・ラ・ランド」。同作のようなミュージカル映画はわかりやすい例だが、そのほかにも〈音楽が重要な役割を果たす映画〉が今年も続々と公開。「ワイルド・スピード ICE BREAK」「ドリーム」「グッド・タイム」といったポップ・アクトがサントラを手掛けた作品(詳細は別項を)のみならず、多様なアプローチで劇中だからこその楽曲の楽しみ方が提示されている。

 例えば、音楽ありきで物語や映像が制作された「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」や「ベイビー・ドライバー」。脚本の執筆中に200曲ほどピックした中からのトラックだけあって、劇中歌にも物語の伏線が張り巡らされている前者と、やはり選曲が先にあり、そこから映像が作り上げられたという後者。こちらには〈カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」〉というキャッチコピーが付けられているが、主人公がヘッドホンから流れる音楽と完璧に合わせた動きで移動する長回しのシーンは感動モノだ。

 そんなわけで、ここでは鳴っている音楽自体が良いものはもちろん、選曲の妙が際立つ映画、音楽と映像の関係性が密接な(そして、内容も当然おもしろい)映画を2017年の日本公開作品に絞ってドドッと紹介しよう。 *bounce編集部

 

VARIOUS ARTISTS 20センチュリー・ウーマン Rhino/ワーナー(2017)

マイク・ミルズ監督の半自伝的映画。監督があの頃の自分を投影したジェイミー少年は思春期真っ只中にあり母親に反発。シングル・マザーのドロシアは息子が理解できなくなって混乱。息子はトーキング・ヘッズら79年当時のニューウェイヴを心の拠り所とし、母親はサッチモやデューク・エリントンなどのジャズ・ソングを愛している。互いが互いを理解し合う過程で音楽が重要なファクターとなる本作。ここではそのいずれもが優しく響いている。 *内本

 

VARIOUS ARTISTS PARKS パークス TONOFON/Pヴァイン(2017)

東京・吉祥寺にある井の頭公園を舞台に、ひとつの曲を巡る冒険物語。同公園の閉園ソングとして使われている相対性理論“弁天様はスピリチュア”をはじめ、映画に出演したスカート、Alfred Beach Sandal、シャムキャッツらの楽曲や、トクマルが手掛けた橋本愛ほか出演者が歌う“PARK MUSIC”など、インディー界の強者たちによるヴァラエティー豊かなナンバーに包み込まれた本作。そのサントラは、トクマルシューゴが監修を担当している。 *村尾

 

鈴木慶一 アウトレイジ 最終章 DREAMUSIC(2017)

〈アウトレイジ〉シリーズのすべての音楽を手掛けてきた鈴木慶一。物語を盛り上げる劇伴というより、音響的なサントラで北野武監督の独特の乾いた空気感を生み出してきた。今回もそれに準じるエレクトロニックなサウンドを中心にしたアプローチをとっていて、ノイズや不協和音などを散りばめた冷ややかなスコアが、暴力が渦巻く物語に不気味な緊張感を醸し出している。そんななか、時々浮かび上がる哀愁を帯びたメロディーが効果的。 *村尾

 

ベイビー・ドライバー Columbia/ソニー(2017)

運転テクを買われて犯罪に加担する主人公のベイビーは、何台もの携帯プレイヤーを肌身離さず持ち、常にイヤホンを耳に挿して生活。理由あって彼にとっての音楽はそれほど切実でなくてはならないものだが、最高の音楽を聴けば昂揚したり元気が出たり強くなれたり人に優しくできたりすることを僕たちはよく知っているから、観ている間そんな彼の感覚が自分のものに思えてビンビンくる。音楽と物語のリンクも特徴的で、ヒロインのデボラが務めるダイナーで互いの名前について語る場面はとりわけ出色。〈私の名前が歌われた曲はベックの“Debra”だけ〉と言う彼女に、ベイビーは〈もう1曲ある〉とT・レックス“Debo-rah”を聴かせる。そしてカラフルな服が回るコインランドリーでイヤホンを互いの片耳に挿してそれを聴く……。名シーンでしょ、これ。監督はこれがやりたくてヒロインの名前を決めたのだろう、きっと。 *内本

 

Original Soundtrack 怪盗グルーのミニオン大脱走 I Am Other/Columbia/ソニー(2017)

反悪党同盟へ転身したグルーとその家族、謎の生命体ミニオンが活躍する3Dアニメ・シリーズの最新作。今回の敵は80年代の人気子役で、落ちぶれた今も過去を忘れられず、ド派手な80sファッションを纏って悪さを仕掛けてくる。そんな彼の登場時には、MJ、A-HAといった当時のヒット曲が連発! それに合わせてか、シリーズ常連のファレル・ウィリアムスによる新曲群もニューウェイヴ仕様で、音楽と愛嬌あるキャラの動きとのシンクロが楽しい! *土田

 

渡邊琢磨 ブランク インパートメント(2017)

俳優・染谷将太が監督を務めた3本の短編の音楽を手掛けた、COMBO PIANOこと渡邊琢磨。それらのスコアをオリジナル・アルバムとして再構築したのが本作だ。ほとんどの楽器を渡邊ひとりで演奏して作り上げたサウンドは、聴き進むにつれて、叙情的なアンビエントから幽玄なドローンになり、摩訶不思議な音響空間を生み出していく。実験的で一筋縄ではいかないところが、染谷将太の作り出す奇妙な世界と共振している。 *村尾

 

VARIOUS ARTISTS 「ドリーム」オリジナル・サウンドトラック ソニー(2017)

ファレル・ウィリアムスが音楽を担った話題の映画がついに日本へ! 「ムーンライト」でも好演したジャネール・モネイがメイン・キャストの一人である本作は、60年代初頭のNASAの有人宇宙飛行計画における黒人女性数学者たちの功績を描いたもの。モネイやアリシア・キーズ、メアリーJ・ブライジらと共に当時の空気を今様に表現したソウル/ゴスペル曲は全体的に風通しが良く、まるで差別をよそに困難を乗り越える主人公の柔軟な足取りのよう。 *土田

 

ONEOHTRIX POINT NEVER Good Time Original Motion Picture Soundtrack Warp/BEAT(2017)

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが全編のスコアを手掛け、今年のカンヌでは〈サウンドトラック賞〉の栄冠に輝いた、ジョシュア&ベニー・サフディ監督の最新作。NY拠点の兄弟は、前作「神様なんかくそくらえ」でも、冨田勲やアリエル・ピンクを印象的に使うなどエッジーな選曲センスを覗かせていたが、本作におけるOPNの存在感はそれ以上に強烈だ。作品の舞台はクイーンズの貧困地域。警察に囚われている弟を助けんとする兄の奔走を、カメラは追い掛ける。そのあまりに場当たり的な行動には、コーエン作品的な可笑しみすら漂うが、魑魅魍魎の囁き&亡者の雄叫びの如きエレクトロニック・サウンドが、物語の文脈を無視するかのように大音量でぶっ込まれることで、笑うことも涙することも許されない、奇妙な後味を残す。ラストに流れるイギー・ポップの参加曲は、すべてを許したもう聖歌のよう。 *田中

 

岩崎太整 奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール キューン(2017)

渋谷直角の漫画を大根仁が映画化。奥田民生のような〈力まないカッコいい大人〉に憧れる雑誌編集者と美人ファッション・プレスが中心のラヴ・コメディーで、主人公の心情と重なる民生の楽曲も全編で使用。登場人物のキャラも含めてとてもポップな作りなのだけど、〈出会う男すべて狂わせるガール〉は文字通りの意味。「モテキ」の長澤まさみに匹敵するあざとさとエロさ、可愛らしさで迫る水原希子の破壊力に戦慄します! *土田

 

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

(C)2017 MARVEL

 地球生まれの元お宝ハンター、美人暗殺者、遺伝子改造された武器のエキスパート(見た目はアライグマ)、樹木型ヒューマノイド、宇宙規模の荒くれ者から成るヒーロー・チーム〈ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー〉。彼らが成り行きで活躍する大ヒット映画の続編「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」は、前作に続き、登場人物の心と音楽を上手くシンクロさせた作品だ。例えば、サム・クック“Bring It On Home To Me”は主人公ピーター・クイルの故郷や母親を想う心情と重なるし、ルッキング・グラス“Brandy(You're A Fine Girl)”はクイルの家族関係を象徴する曲として登場する。そうした選曲の妙は強い影響力を持ち、本作での起用がキッカケで、スウィート“Fox On The Run”がリヴァイヴァル・ヒットするという現象も。さらに、母親が形見として残したミックステープの収録曲という設定のため、挿入歌は彼女の青春時代である70~80年代のものが多いのも特徴。それを活かす形で80年代のドラマ〈ナイトライダー〉シリーズでお馴染みのデヴィッド・ハッセルホフがカメオ出演し、サントラにも招かれているという制作陣の粋な遊び心もおもしろい。

ジェームズ・ガン ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン(2017)

 そんな本作の魅力はズバリ、娯楽性の高い物語のなかで、〈家族とは?〉と観客に問い掛けるところ。父と息子や姉と妹などさまざまな家族関係を題材にしているが、必ずしも血の繋がりに縛られていないのが重要なポイントだ。父親を知らずに育ったクイルとエゴの関係で言えば、最初は突如実父として名乗り出たエゴに繋がりを見い出すクイルだが、エゴのある告白から、最終的には彼を倒そうとする。その過程でクイルは、確執のあった育ての親ヨンドゥの気持ちを知り、ガーディアンズの仲間こそ本当の家族だと理解する。

 また、そうしたテーマを強調するように、今作の根幹を成しているのはヨンドゥの生き様だ。物語終盤のクイルとヨンドゥ、二人きりのシーンは涙なしで観ることが難しい。さらには、身を呈したヨンドゥを想うクイルの背景でキャット・スティーヴンス“Father And Son”が流れるという何とも心憎い演出も。音楽と物語の強い結び付きの元で宇宙を守るガーディアンズは、血の繋がり以上に大切なのは心の繋がりということを教えてくれる。 *近藤

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ メッセージ ソニー・ピクチャーズ(2017)

SF映画の代表作の続編「ブレードランナー 2049」の監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴによる本作は、女性言語学者と宇宙人の対話を通して現代的なメッセージ――暴力や排斥の意志がすぐ隣にあるなかで〈対話〉を選ぶことの必要性を私たちに伝えてくれる。宇宙人と対話を重ねるなかで未来が見えるようになる主人公の設定などはその〈必要性〉の象徴と言えるだろうし、ドナルド・トランプを筆頭とした排斥的姿勢が広まる現在に対し、切実な歯止めとしても機能するように感じる。そんな映画の壮大な雰囲気作りへ多大に貢献している、ヨハン・ヨハンソンが担った音楽も素晴らしい。静謐で荘厳なサウンドは、未知なる存在の不気味さ、あるいはそうした不気味さに触れた人類の恐れといったさまざまな場面の表象になっているのも興味深い。 *近藤

ヨハン・ヨハンソンが手掛けたサントラ『Arrival』(DG Deutsche Grammophon/ユニバーサル)

 

バリー・ジェンキンス ムーンライト カルチュア・パブリッシャーズ(2017)

アカデミー授賞式の珍事はともかく、〈作品賞〉を受け取ったのは絢爛なメロドラマ「ラ・ラ・ランド」ではなく、静謐でささやかな物語たる本作。それは〈ブラック・ライヴズ・マター〉の波を受けて? それとも大統領へ向けた意思表明として? 否、少年の成長過程で育まれたロマンティシズムを、どこまでも大切に、守り抜くかのようなタッチで描いたからだろう。容姿は変わっても、歳を重ねても、決して消えないイノセンスがある。その当たり前の〈弱さ〉を、世界は祝福したかったのではないか。ピアノとチェロのみの簡素な演奏をベースに主人公たちの想いをなぞっていく、ニコラス・ブリテルによるスコアも素晴らしく、メイン・テーマをチョップド&スクリュードさせて動揺と苦痛を表すなど、その手法面においても目を見張るものがある。 *田中

ニコラス・ブリテルが手掛けたサントラ『Moonlight』(Invada/ランブリン)

 

ニコラス・ウィンディング・レフン ネオン・デーモン ギャガ(2017)

〈暴力の美〉を映し出すことでは当代随一の監督ニコラス・ウィンディング・レフンが、虚栄と背信の渦巻くファッション業界を舞台に、エル・ファニング扮するモデル志望の少女と彼女を取り巻く人々の顛末を描いた、LA地獄巡り。レッチリの初期ドラマーという経歴も今は昔、同監督とは「ドライヴ」以降の蜜月が続く、クリフ・マルティネスが今作でも音楽を担当し、ちょっとゴブリン味もする不穏なシンセとヒプノティックな打ち込みのビートが、得体の知れない怖さを醸し出す。ポップ勢からの提供曲もハマっており、なかでもシーアの“Waving Goodbye”で歌われる、変わってしまった自分への悔恨は、主人公の末路から届いた叫びのよう。ネオン・カラーに彩られた装飾の裂け目から、ドス黒い情念と真紅の血液がドロリと流れ出す。 *田中

クリフ・マルティネスが手掛けたサントラ『The Neon Demon』(Milan/ワーナー)

 

ガース・ジェニングス SING/シング NBCユニバーサル(2017)

「ミニオンズ」「ペット」のスタッフが結集して制作された、ミュージカル色も備えるフルCG長編アニメ。動物だけが暮らす世界を舞台に、ゾウのミーナやゴリラのジョニーら悩める面々が、コアラのバスター・ムーンが再生させようとする地元劇場のオーディションに挑んでいく。ドタバタと共に活写される音楽と歌のパワー。観どころはライヴ・シーンだ。ジョニーによるエルトン・ジョン“I'm Still Standing”(日本語吹替版ではスキマスイッチの大橋卓弥が熱唱!)、クライマックスでミーナが歌うスティーヴィー・ワンダー“Don't You Worry 'Bout A Thing”などの名曲カヴァーにワクワクが止まらない! バスター役のマシュー・マコノヒー(こちらの吹替版は内村光良)も名演だし、マイノリティーの人間(≒動物)ドラマが泣けます。 *田山

サントラ『Sing』(Back Lot/ユニバーサル)

 

デイミアン・チャゼル ラ・ラ・ランド ギャガ(2017)

「セッション」のデイミアン・チャゼル監督による、アカデミー賞6部門受賞のミュージカル・ロマンス。夢を抱いてLAへやって来た女優志望のミア(エマ・ストーン)と自分の店を持ちたい売れないジャズ・ピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)の恋の行方を、完全オリジナルの音楽、ダンス、ストーリーでビター・スウィートに描く。ピアノはゴズリングが実際に弾いていて、なかでも〈歌曲賞〉に輝いた2人のデュエット曲“City Of Stars”が切なすぎる名曲! セブが資金作りのために入ったバンドの曲とはいえ、キース役のジョン・レジェンドが歌う“Start A Fire”や、豪華なジャズ~オーケストラ・サウンドに酔えるオープニング・ナンバー“Another Day Of Sun”もいい。ジャズへの想いを含め、夢追い人は偏愛的でナンボ! この熱量に溺れてほしい。 *田山

サントラ『La La Land』(Interscope/ユニバーサル)

 

F・ゲイリー・グレイ ワイルド・スピード ICE BREAK NBCユニバーサル(2017)

カー・アクション映画の大ヒット・シリーズ〈ワイルド・スピード〉。公開時期のストリート感を反映させたサントラ(今回はヤング・サグ、2チェインズ、ウィズ・カリファ、PnBロックがマイクを回す“Gang Up”を幕開けに、スターから注目新人まで揃ったラップ・アクトのコラボ曲が目白押し!)も毎度注目の〈ワイスピ〉だが、本作はその第8弾にしてシリーズ最終章となる3部作の1作目だ。今回のラスボスは、「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」のフュリオサ大隊長や10月に公開を控える「アトミック・ブロンド」の女スパイ他、強くてコワイ美人ならこの人!なシャーリーズ・セロン演じるサイバー・テロリスト。その元で仲間を裏切ることになる主人公ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)の奪還劇が大筋で、ICEがBREAKしまくるクライマックスをはじめ、過剰にダイナミックな戦闘シーンの連続に爽快感を覚えること請け合いだ。敵から味方へジョブ・チェンジしたうえ、なぜか陽気さもプラスされたデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)の存在など人間関係にも熱い動きがありつつ、まずはポップコーン片手の気軽さでエンジョイしてほしい超娯楽作! *土田

2017年のサントラ『Fast & Furious 8: The Album』(Atlantic/ワーナー)

 

ダニー・ボイル T2 トレインスポッティング ソニー・ピクチャーズ(2017)

90年代のポップ・カルチャーを象徴する青春映画の金字塔が、その20年後の未来を描く続編として帰ってきた! 前作では仲間を出し抜いて大金を持ち逃げしたレントンがスコットランドに戻るところから話は始まり、シック・ボーイ、スパッド、ベグビーと再会。やはり超過激なトラブル続きの展開へ。時が経っても、相変わらずどうしようもない4人。それにもかかわらず、心底のめり込めるオシャレな映画に仕上がったのは、音楽の力が大きい。プロディジーがリミックスしたお馴染みのイギー・ポップ“Last For Life”、アンダーワールド“Born Slippy”の新ヴァージョン“Slow Slippy”は、現代の若者が前作と原曲へ辿り着くために機能すればOK。トイレ(今作でも何かと重要)でレントン&ベグビーが鉢合わせするシーンのランDMC VS. ジェイソン・ネヴィンス“It's Like That”とか、そこからの逃走劇を彩るフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド“Relax”とか、憎しみと友情と懐かしさの交錯が最高です! ヤング・ファーザーズやファット・ホワイト・ファミリーら尖った若手の参加もいい。終始息を呑みっぱなしでスリリング! 中毒者はドラッグだけに限らない? *田山

2017年のサントラ『T2 Trainspotting』(Polydor/ユニバーサル)

 

映画と音楽が対バン! あら恋の企画イヴェントをレポート

(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

〈シネマティック・ダブ〉を標榜する7人組、あらかじめ決められた恋人たちへ。彼らが企画する映画との対バン・イヴェント〈Mixing Vol.2〉が9月6日に開催された。先攻で上映されたのは、バンドの中心人物・池永正二が音楽を担当した熊切和嘉の監督作品「武曲 MUKOKU」。幼少時より父から剣道のスパルタ教育を受け、実力を身に付けたもののある出来事のためにドロップアウトした男、矢田部研吾(綾野剛)と、バンドでラップを担当する今どきの高校生ながら、洪水で死にかけた際のフラッシュバックに苛まれる羽田融(村上虹郎)。ふとしたことで剣道を始め、才能を開花させていく羽田と矢田部を軸として転がる物語には常に死の気配が漂っており、静寂を際立たせるピアノをメインとするアンビエントがその緊張感を煽り、一時の緩和を生む。そうした細やかな音響や、逆に台風の夜の決闘シーンにおける轟音など、爆音上映だからこそ肌で感じることのできる音が、映画の持つ殺伐とした空気を伝えていた。

photo by タイコウクニヨシ

 そして後攻はあら恋のライヴ。この日はステージの後方と客席の左右、三面の壁にVJを投影した演出を交えてのパフォーマンスで、徐々に夜が明けていくビル街の光景やグラフィカルな映像などが、叙情的なダブ・ロック、人力ミニマル・テクノといった楽曲の持ち味を増幅させていく。一方で、映像なしのナンバーでは逆に照明を抑え気味だが、それでも観客の中にある深い記憶にリーチするのがこのバンドの凄いところ。バックライトに照らされてエモーショナルな動きを見せるメンバーの影が懐かしい何かの像と結び付くような気がして、ちょっと泣きそうになる。ゲストであるeastern youthの吉野寿の登場前なのにこんな状態で大丈夫だろうか……と思っていたが、まったく大丈夫ではなかった。彼が歌う“Fly”は「武曲 MUKOKU」のエンディング曲でもあるが、激情によって雑念を浄化するかのような凄まじい歌唱で、あっという間に場の空気をさらっていく。自分の中から込み上げるエモさにいい意味でヘトヘトになり、最後に映画のパッケージ化も告知されたところでイヴェントは終了。映画×音楽の企画はありそうでそれほどないので、次回も期待して待ちたい。  *土田

左から、12月6日にリリースされるBD/DVD「武曲」(TCエンタテインメント)、あらかじめ決められた恋人たちへのベスト盤『あらかじめ決められた恋人たちへ -20th BEST-』(KI-NO Sound)

 

★あらかじめ決められた恋人たちへ 活動20周年記念イヴェント〈Dubbing10〉決定!
日時/場所:11月23日(木・祝)恵比寿LIQUIDROOM
詳細はオフィシャルサイト〈arakajime.main.jp/〉でご確認を!