もしもスナーキー・パピーやヴルフペックからインスパイアされたしなやかなグルーヴの上にジブリ映画を思わせるキャッチーなメロディーを搭載し、野外フェス的な開放感溢れるムードで包み込んだインスト・バンドがいたら?――そんな〈もしも〉を現実のものとしてしまったバンドがWorld Mapsだ。同じ大学の仲間で結成されたのが2011年。当初はポスト・ロック~シューゲイザーの色合いも濃いインスト・バンドとして活動を開始している。

 「ドラムの(荒井)一平はtoeとか日本のインスト・バンドにハマっていて、ギターの(長崎)千尋はL'Arc~en~CielのようなJ-Pop、ギターのkennyはジブリ映画のサントラやゲーム音楽、僕はR&Bやヒップホップ。メンバー4人とも音楽のバックボーンはバラバラなんですよ」(後藤圭太、ベース:以下同)。

 技巧派のポスト・ロック・バンドだった彼らは、徐々に現在に通じる開放感溢れる音楽性へと舵を切っていくことになるが、そのきっかけを後藤はこう説明する。

 「Kennyが曲作りの中心になっていくに従って、自然に変わっていったんです。そもそも自分たちがハッピーな人間なんで(笑)俯いてポスト・ロック的なものをやるよりもいまの音楽性のほうが自然だったんでしょうね。千尋の作るキャッチーなメロディーも僕らの強みになってると思います」。

 今年1月にはバンド名を結成以来のbolt from the blueからWorld Mapsへと変更。慣れ親しんだバンド名だけあり、彼らにとっても大きな決断だったようだ。

 「自分たちの音楽性やヴィジョンが固まるなかで、いままでの活動と切り離して新しいバンドとして再スタートしたほうがいいんじゃないかと思うようになって。その点に関しては自分たちのなかで確信があったんです」。

World Maps CAMP CROIX JAM(2018)

 World Mapsとなって初めてのアルバム『CAMP』は、「いままでの活動で作ってきたものをギュッと凝縮した、自己紹介的なアルバム」。サンバやアフリカ音楽、ダブの要素も聴き取れるものの、まるで世界各地を音で旅するかのように次々とジャンルを横断していくスリルも本作の魅力だ。

 「あまり特定のジャンルで固めないようにしてるのはどの曲も一緒ですね。Kennyが作ってきた要素に対し、他のメンバーが違う色を持ち込むことで曲がどう変わっていくか。そこ自体を楽しんでいるというか」

 そうした音楽性をまとめるのが〈マウンテン・ポップ〉というコンセプトだ。

 「今回のレコーディング中、〈キャンプ中に聴きたいアルバムだね〉というスタッフの声があって。僕たちも今回収録されたような明るい曲調になっていくなかで、〈いずれ野外でやりたいよね〉と話し合っていたんですよ。シティー・ポップみたいな都市型の音楽に対し、僕たちはたとえライヴハウスでやっていても野外の空気を感じさせるものをやりたい」。

 ラストを飾るのは、現在の彼らの方向性を決定付けたという“your song”のライヴ・ヴァージョン。とびきりハッピーなこの曲のイントロでは〈みんな歌って!〉というメンバーの煽りMCも入っている。

 「インスト・バンドなのにおかしいですよね(笑)。ここ最近ではライヴの組み立て方も思いきり楽しむ方向に変わってきたし、お客さんの反応もどんどん変わってきましたね」。

 YOUR SONG IS GOODやSPECIAL OTHERSのような先人たちが切り拓いた野外フェス系インスト・ミュージックの地平に新たな風を吹き込むWorld Maps。彼らだけの世界地図を手に、World Mapsの新たな航海が始まる。

 


World Maps
荒井一平(ドラムス/パーカッション)、長崎千尋(ギター/キーボード)、Kenny(ギター)、後藤圭太(ベース)から成る、〈マウンテン・ポップ〉をコンセプトとしたインスト・バンド。2011年にbolt from the blueとして結成され、都内を中心にライヴ活動をスタート。2012年に初の音源となる『Beautiful Scene』を、2013年に初のフル・アルバム『Peerless View』を発表し、いずれもライヴ会場限定ながら話題となる。2014年に初の全国流通盤となるミニ・アルバム『Good Day』をリリースする。今年の元日よりWorld Mapsに改名。“your song”“ロマンス”の先行配信を経て、このたび現名義でのファースト・アルバム『CAMP』(CROIX JAM)をリリースしたばかり。