(c)Laurent Philippe
 

もしかして魔法!? ドゥクフレ・ワールドを見逃すな!

 とりあえずこの写真を見て欲しい(↓)。ガチムチの髭のおっさんが若い女性を肩に乗せ、おかしな全身スーツを着ている。無表情だし、とくに意味はない。しかしよーく見ていると、身体の模様と腕の形から、なにかの流れを感じてこないだろうか。おっさんから、エネルギーがグーッと流れて女性の腕へ流れ込んでいるような。見えた? 見えたとしたら、それは錯覚だ。そしてそれこそ、この稀代の魔術師フィリップ・ドゥクフレのダンス作品の真骨頂なのである。

(c) CharlesFreger

 ダンスとは詰まるところ〈見る芸術〉である。身体、衣裳、美術、映像……全てを使って観客の目に訴える。しかしただ楽しい、美しいだけでは足りない。なにかワクワクするような、驚きに満ちていないと、人はアッサリと飽きてしまう。

 ドゥクフレはコンテンポラリー・ダンス黎明期から現在まで、四半世紀を超えてなお最先端で人々を楽しませ続けている。老若男女、世界中で人気のスーパースターである。難解になりがちなダンスでも彼の楽しさは万国共通だ。若くしてアルベールビル・オリンピックの開会・閉会式の演出から、シルク・ドゥ・ソレイユの演出、パリの老舗キャバレーのちょいセクシーなショウなど、縦横無尽の活躍ぶりなのである。しかもどの作品においても、常に真の芸術として新しい価値、新しい身体のあり方、新しいリアルの形を探求している。それが単なるコマーシャルに流れないアーティストの背骨となっている。

 今回の来日は、そうしたドゥクフレのエッセンスがつまりまくった「新作短編集」である。どうしてもひとつの作品には納まりきれなかった、しかし捨て去るにはあまりにももったいない輝きを持った珠玉の小品の数々が宝石箱のように集まっている。

(c)Laurent Philippe

 あまりネタばれにならない範囲で魅力を語ってみると……ダンスから音楽が、音楽からダンスが自然に始まり、太ったおっさんが意外に見事に踊るダンスから、驚きの超絶軟体ダンスへとつながっていく。時に重力の概念がなくなり、時にダンサーの動きの軌跡が時間軸で切り取られ、ハイテクとローテク、夢と現実がシャッフルされて、魔法として機能する…… どのシーンも、キラッキラした輝きに満ちているのだ。

(c)Laurent Philippe

 さらに日本のファンには、嬉しいことがひとつある。日本を題材にしたシーンが創られているのだ。ドゥクフレは来日公演も飛び抜けて多く、日本好きは有名だ。日本に滞在制作し日本家屋をまるごと舞台上に再現した「イリス」という作品まであるほど。世界ツアーを重ねるこの「新作短編集」で日本文化がどんな風にでてくるのか、ぜひともお楽しみに!

 


LIVE INFORMATION

フィリップ・ドゥクフレ/DCA「新作短編集(2017)―Nouvelles Pièces Courtes」
○6月29日(金) 19:00 開演
○6月30日(土) 15:00 開演
○7月1日(日) 15:00 開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ
出演:カンパニーDCA