日本屈指のカルチャー・フェスティヴァル、〈GREENROOM FESTIVAL〉が5月26日(土)、27日(日)に開催される。立ち上げのきっかけとなったサーフ・カルチャーからの影響やアットホームなムードは守りつつ、年々規模を拡大させてパワーアップしているこの大人気フェス。14回目を迎える今回もお馴染みの横浜・赤レンガ倉庫という最高のロケーションで、国内外の豪華ミュージシャンのライヴに映画、アート、ヨガなどを自由に楽しめる特別な2日間となりそうだ。ちょうど先日最終出演者とタイムテーブルの発表もされたところで、Mikikiでは今年も〈GREENROOM〉を大特集していきます。

第一回目の今回は、1日目のヘッドライナーを務めるジミー・クリフをフィーチャー。レゲエの先駆者として知られるシンガーは、2013年の最新アルバム『Rebirth』でグラミーを受賞したり、昨年はスティーヴン“レンキー”マースデンとのコラボ作『Zen』やシングル“Life”を発表するなど、4月に70歳を迎えた現在も活発な活動を続けている。そんなレジェンドがジャンルを越えて音楽ファンやミュージシャンから愛される理由、そして今回のステージが観逃せない理由を、ライター/編集者の大石始が解説した。 *Mikiki編集部

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ジミー・クリフが日本にやってくる。2000年代以降も幾度となく来日しているので、〈奇跡の来日〉というわけではないものの、今あらためてそのパフォーマンスを体験しておきたいアーティストのひとりであることは間違いない。

ジミーのオフィシャルサイトにはツアー・スケジュールが公開されているが、その過密スケジュールぶりはこの2018年で70歳を迎えた大ヴェテランのそれではない。夏まではヨーロッパ各地のレゲエ・フェスへの出演予定がみっちり。今回の来日の直前にはオーストラリアの〈Byron Bay Bluesfest〉やニュージーランドの〈Bay Of Islands Music Festival〉にも出演しているが、レゲエ・フェスばかりだけでなく、こうしたサーフ・ロック系やルーツ・ロック系のフェスにラインナップされているのもジミーならでは。ジャック・ジョンソンが彼からの影響を公言し、ライヴでの共演も果たしていることがこのあたりのブッキングにいくらか影響しているのかもしれないが、いずれにせよ、現在の彼が幅広い層から支持されているのがわかるツアー・スケジュールだ。

2017年の最新シングル“Life”
 

それもそのはず、レゲエのレジェンドとして紹介されることの多いジミーだが、彼はデビュー当初から現在まで一貫してジャンル横断型の活動を続けてきた。2012年に発表された、現在のところの最新アルバムにあたる『Rebirth』のプロデュースを手掛けたのは、ランシドのティム・アームストロング。同作ではクラッシュのパンキー・レゲエ・クラシックである“Guns Of Brixton”(79年作『London Calling』収録)とランシドの“Ruby Soho”(95年作『…And Out Come The Wolves』収録)がカヴァーされており、ジミーからパンクへと受け継がれたものが彼自身の手によって明らかにされる。それはたとえば、ジミーが出演した72年の映画「ハーダー・ゼイ・カム」のなかで彼自身が体現してみせたルードボーイの美学であり、鼻歌交じりでジャンルを横断していく身軽さであり、それでも揺らぐことのない〈ルーツ〉のようなものだ。ジミーはそうやって今も昔もパンクスやルードボーイたちの心を揺さぶり続けてきたわけで、彼がレゲエ・リスナーの間だけでレジェンドとして崇め続けられるのは、実にもったいないことだと思うのである。

『Rebirth』収録曲“Guns Of Brixton”
 

“Ruby Soho”
 

ジミーのバイオグラフィーとしては、昨年邦訳が刊行された「現代のロッカーズ――進化するルーツ・ロック・レゲエ」に掲載されているものがもっとも詳しく、信頼できる。そちらを参考にさせていただきつつ、ざっとジミーの足跡を辿ってみたい。

 

ジミーはジャマイカ北部、モンテゴ・ベイにも近いソマートンの生まれ。1948年生まれなので、現役のレゲエ・グレイツとしては、1947年生まれのバニー・ウェイラーや1945年生まれのバーニング・スピアとほぼ同世代だ。まだ14歳だった62年には、後にボブ・マーリーのデビューも用意することになるプロデューサー、レスリー・コングのもとで“Hurricane Hattie”をレコーディング。以降もコンスタントにヒットを放ち、スカ時代のジャマイカにおいて一躍注目を集めることになる。

“Hurricane Hattie”
 

そんなジミーに目をつけたのが、ジャマイカ音楽を世界へと輸出しようと目論んでいたアイランド・レコード創業者であり音楽プロデューサーのクリス・ブラックウェル。60年代中盤から後半にかけて、ジミーは彼の戦略のもと世界的な活動を展開していくことになる。

アイランドからのデビュー・アルバムは67年の『Hard Road To Travel』。本場ジャマイカのレゲエ・スタイルではなく、ポップなR&B/ソウル色を前面に押し出しているのは、ジミーをヨーロッパのポップ・チャートに送り込もうというクリス・ブラックウェルの戦略もあったのだろう。68年にリリースされた“Waterfall”はニルヴァーナ(カート・コバーンのほうではなく、イギリスの同名サイケデリック・ポップ・グループ)のメンバーが作曲したポップなR&B曲だったが、この時期のジミーの楽曲の多くはこうしたノンレゲエ曲だった。

60年代後半のこの段階で、ジミーのジャンル横断型の資質はすでに発揮されていたとも言える。ジャマイカ訛りではないストレートな発音、どのような楽曲にも対応できる柔軟性、天性のノドの強さと、カラッとした明るさ。それは国やジャンルを越えたポップ・スターとなるうえで、必要不可欠な要素でもあったのだろう。事実、“Waterfall”がブラジルなど南米各地でヒットしたように、クリス・ブラックウェルの世界戦略はこの段階で多少の成功を見ていたようだ。

だが、彼の名を一躍世界的なものへと押し上げたのは、やはり「ハーダー・ゼイ・カム」である。ジミーが主人公を演じたこの映画は、78年の「ロッカーズ」と並ぶレゲエ・ムーヴィーの傑作。映画とともにそのサウンドトラックも大ヒットし、収録された“The Harder They Come”“Many Rivers To Cross”“You Can Get If You Really Want”といったジミーの音源は、永遠のクラシックとして現在も幅広いリスナーから愛され続けている。

“You Can Get If You Really Want”を歌う2012年のライヴ映像
 

以降も映画「クール・ランニング」(93年)に使用された“I Can’t See Cleary Now”や映画「ライオン・キング」(95年)の“Hakuna Matata”のヒットなどもあったが、こうしたポップ・ヒットはジミーの足跡を振り返る際、さほど重要なことではない。なぜジミーの楽曲はパンクスたちから愛され、最新作はティム・アームストロングがプロデュースを手掛けたのか。なぜ現在も多くのサーフ・ロック系フェスのヘッドライナーを務めているのか。代表曲である“The Harder They Come”をカヴァーしているアーティストの顔ぶれはまさに壮観だ。キース・リチャーズ、ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロス、マッドネス、ランシド、シェール、ジェリー・ガルシア、ウィリー・ネルソン、さらにはカヒミ・カリィ、上田正樹まで。ここまでさまざまなジャンルのアーティストからリスペクトされているレゲエ・ヒットは、ボブ・マーリーの数曲やパラゴンズ“Tide Is High”ぐらいのものだろう。

“I Can’t See Cleary Now”
 
ジャック・ジョンソンとコラボレーションした“The Harder They Come”のライヴ映像
 

そんなジミー・クリフが、サーフ・カルチャーを背景に持つ〈GREENROOM FESTIVAL〉に出演する。その意味を考えると、やはり冒頭で書いたように〈今あらためてそのパフォーマンスを体験しておきたいアーティストのひとりである〉と強調したくなるのだ。近年の映像を観ても、その強靭なノドは快調そのもの。きっと当日も素晴らしい歌声を披露してくれるはずだ。

 


Live Information
〈GREENROOM FESTIVAL '18〉

日時:2017年5月26日(土)、27日(日)
会場:横浜・赤レンガ地区野外特設会場
開場/開演終演:11:00/12:00/21:00(予定)
チケット:2日券19,000円(税込)/1日券11,730円(税込)
出演:
〈1日目〉
ジミー・クリフ/ヴィンテージ・トラブル/ハナレグミ/EGO-WRAPPIN’/THE King ALL STARS/平井大/MONKEY MAJIK/GLIM SPANKY/never young beach/Nulbarich/SOIL&“PIMP”SESSIONS/七尾旅人/KNOWER/スガ シカオ(ソロ)/藤原さくら/SANABAGUN./WONK/小袋成彬/Port of Notes/King Gnu/DATS/LUCKY TAPES/DJ HASEBE/高木完/Rude-α/リベラル/DJ TOGA/DJ NORI/Kenichiro Nishihara/Dazzle Drums
〈2日目〉
サブライム・ウィズ・ローム/ウェイラーズ/ASIAN KUNG-FU GENERATION/UA/大橋トリオ/サンボマスター/在日ファンク/GRAPEVINE/水曜日のカンパネラ/HYUKOH/Nick Moon/手嶌葵/MOROHA/Ovall/KANDYTOWN/高野寛/武藤昭平withウエノコウジ/THE CHARM PARK/MONDO GROSSO/D.A.N./The Babe Rainbow/大比良瑞/DAISHI DANCE/DISCO MAKAPU’U/Gakuji “CHABE” Matsuda/Chip Tanaka/JUN “JxJx” SAITO/高木完/NOEL & GALLAGHER/YonYon
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