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教養があるバンドとないバンドでは、その価値に雲泥の差が出る

――pollyの新作『Clean Clean Clean』を聴いて、小林さんはどう思いました?

小林「良かったです。いちばん良いなと思ったのが、〈まぐれ〉がなさそうなところ。例えば、いろんな化学反応やコラボレーションで、いい意味でも〈まぐれ〉が起きて素晴らしい作品が出来るのは、もちろん素敵なことだと思うんですけど、多分pollyの今作でいちばん重要なところは〈意志の力〉というか。意志を持ってデザインしている、それができているということだと思うんですよね」

polly Clean Clean Clean DAIZAWA(2018)

――例えて言うなら、目をつぶってバットを振ったら偶然当たってホームランになったのではなく、ちゃんとボールを見て的確なフォームでスウィングし、確実に当ててホームランにする、みたいな。

小林「そうですね。ちゃんと自分で思い描いた音像に、まぐれじゃなく近づけていると思うし、まだ消化しきれていない要素を強引にアウトプットするような、背伸びした感じもしない。それって〈教養〉だと僕は思っていて、教養があるバンドとないバンドでは、僕のなかで価値が雲泥の差なんですよね」

――なるほど(笑)。

小林「pollyは今回、自分たちの良さに自覚的だなと思いました。特に越雲くんのヴォーカルの良さは〈ここだ〉というのを、臆せずデザインしていったような気がします。それをすべての曲に感じられたのが良かった。エンジニアの岩田(純也)さんは久しぶりだったんだっけ?」

越雲「はい。ファースト・ミニ・アルバムの『青、時々、goodbye 』(2015年)以来なので、約3年ぶりにお願いしました」

小林「トリプルタイムスタジオの岩田さんは、僕らもいつもお願いしている人なんです。岩田さんは、何をやっても岩田色にするようなエンジニアリングではなくて、そのバンドが持っている本質――本人は恥ずかしく思っちゃうようなところや隠したい、きれいに整えたいと思うようなところを、〈そこがいいんじゃない?〉と言って引き出してくれるエンジニアリング。わざわざ人間がやる甲斐のあるもの、というか。

だから、pollyの作品を聴いたときにも〈ああ、そうだよな。越雲くんこういうのがやりたかったんだよな〉と思えた。〈新しい段階に踏み込んだアルバム〉というよりは、〈元々持っていたものを、ようやく外に出すことができたアルバム〉という印象でしたね」

越雲「エンジニアの方と密にコミュニケーションを取ったのは、今回が初めてで。今までちゃんとコミュニケーションが取れなかったのは、その人と深く関わることで自分の内面を晒すのが怖かったというのもあったんです。でも今回、岩田さんにはちゃんと伝えなくちゃいけないって思ったんですよね。音楽的なこと以前に、人間関係を大事にしようと。そう思わせてくれた岩田さんとじゃなければ、出来なかった作品だと思います」

『Clean Clean Clean』収録曲“生活”
 

――実際、ここまでヴォーカルを赤裸々に前に出すことには戸惑いもありました?

越雲「ありましたね。自分の声にコンプレックスがあって、あまり聴きたくないから、どうしても音像の中に埋もれさせようとしてしまうんですよね。でも、小林さんが言ったように〈いや、そこがいいんでしょ〉って岩田さんに言われて。〈とりあえず録り直してみるけど、前のテイクも残しておくね〉みたいな感じで進めてもらううちに、だんだん自分の声にも自信を持てるようになっていきました」

――ソングライティングについてもお聞きしたいのですが、越雲さんの作るメロディーは非常に〈和〉を感じさせます。例えば“刹那”や“知らない”のヨナヌキ音階。シューゲイズ・サウンドに、こういうメロディーを乗せているバンドはあまりいなくて、とても強烈な印象を与えてくれました。

越雲「それこそフォーク・ソングを聴いて育ったので、〈和〉の響きは切っても切れない要素の一つなんだろうなと思っています。実を言えば、そういうメロディーが出てきてしまうことも、最初は嫌でコンプレックスだったんです。とはいえ無理して自分にないメロディー、例えばマイブラっぽいメロディーを乗せるのは違うんじゃないかと思って。今作では、出てきたものをそのまま出そうと思って作りましたね」

舐められていると思っていたし、今作でそういう連中を見返したい

――元々はコンプレックスだった〈声〉と〈メロディー・センス〉、それを逆に前面に打ち出すことで、pollyにしかないサウンドを獲得することができたんでしょうね。

越雲「そう思います」

――サウンドのテクスチャーに関しては?

越雲「今作では透明感、繊細さというか、温度を感じない低体温のようなサウンドをめざしました。それがバンドの軸である自分の声にも合っていると思ったので。あとはギターのダビングをたくさんしましたね。とにかく隙間を埋めて、シューゲイズ・サウンドを作りたかった。そこには、今の同世代のバンドの音作りに対しての違和感もあったし、彼らに対して中指を立てたいという気持ちも根底にはありました」

――シューゲイズ・サウンドをいろいろと研究したそうですね。

越雲「まず、マイブラのレコーディングの方法から調べました。ただ、日本の記事だとあまり深くまで書いてなかったので、英語の記事を集めてがんばって翻訳して、そこからいろいろな情報を集めました。例えば、アンプキャビネットが4発だったとしたら、1発ずつマイクを立てて。それぞれ違うEQ処理をすることによって、全周波数帯域を埋めるような音にして鳴らしたり、アンプを何台も並べて一気に鳴らしたり、それを何度も重ねたり。ヤマハSPX-90を通した曲もありますね。でも、マイブラの音に近づけるだけではつまらないので、リヴァーブの量を増やすなどして声にハマる音色を探しました」

※ケヴィン・シールズも使っているマルチエフェクター。搭載されているエフェクト、リヴァースゲートはシューゲイズ・サウンドを形作ったと名高い

小林「さっき越雲くんが〈低体温〉と言ったことに繋がると思うんですが、リヴァーブの使い方が〈音を広げる〉という目的ではなく、プラスティック的な冷たさを出す目的で使われているような気がして。それと歌とのコントラストが強烈だったんですよね。特に越雲くんの歌は、フェミニンな要素が強いので、そういう冷たい音との相性が抜群でした」

『Clean Clean Clean』収録曲“花束
 

――THE NOVEMBERSの新作も、これまでにない空間処理がされていましたよね。音像も非常に立体的で、ヘッドホンで聴くと臨場感がすごい。

小林「あれはバイノーラルマイクを使っているんです。いつも通る道の音や、自宅の水の音、ドアや椅子の軋みをバイノーラルマイクで録って、それを楽器的に扱おうと思ったんですよね。環境音を、舞台装置のようにそのまま使うことはこれまでにもやってきたんですけど、楽器のように音色やリズムがバンドとシンクロしていくような配置をしたのは今回が初めてでした」

――そういう試みをしようと思ったのは?

小林「普段、僕らが音楽を聴いているときって、本当に音楽しか聴こえていないシチュエーションってあまりないじゃないですか。街の音や自分の呼吸音、いろんな音が混じり合うなかで音楽を楽しんでいるはずなんです。そういう、雑踏のなかで自分たちの音楽が溶けていくような感じとか、逆に音楽に集中して雑踏の音が聞こえなくなっていく瞬間とか、意識レヴェルで音楽に立ち上げることは出来ないかなというのが、今回のテーマでした。だから、すごく静かな場所で聴いてみても、渋谷の雑踏の中で聴いてみても、きっと楽しいと思うんですよ」

――まだまだ訊きたいことはたくさんあるのですが、時間がなくなってしまいました。両バンドの今後の予定は?

小林「今年は、いろんな作品を作って発表できたらいいなと思っています。なるべく自然に活動できるように、〈今、これが作りたいから作ろう〉っていう動きがスムーズにできるようにしたい。その先に次のアルバムのヴィジョンなんかも見えてくるんじゃないかなと思っています」

越雲「今作を作ったのがキッカケで、〈バンドをずっと続けていきたい〉とやっと思えるようになりました。音楽しかできない人間だと最近気付いたというか、いい意味で追い詰められたというか……(笑)。だから、〈続ける〉というのが最大の夢で、そのためにはちゃんと評価されなきゃいけないし、自分が求める場所へ行かなきゃいけない。それを達成する1年にできたらいいなと思っています」

小林「〈あいつら舐めやがって〉みたいなのはないの? 〈これまで俺を見下していた奴ら、全員見返してやる〉みたいな気持ちは」

越雲「いや、あります(笑)! ずっと舐められているなと思っていたし、それに対して今までは何も言えなかったんですけど、今作でそういう連中を見返したいです」

小林「うん、きっとみんなの評価が変わると思うよ!」

 


Live Information

polly
2018年5月11日(金)東京・新宿MARZ
2018年5月19日(土)東京・下北沢MOSAiC
2018年5月26日(土)大阪・心斎橋 CONPASS 〈Release Tour〉
2018年5月27日(日)愛知・名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL〈Release Tour〉
2018年6月3日(日)東京・HMV record shop 渋谷〈インストアライヴ〉
2018年6月10日(日)東京・青山 月見ル君想フ〈Release Tour〉
2018年7月1日(日)栃木・HMVイトーヨーカドー宇都宮〈インストアライヴ〉
2018年7月29日(日)大阪・心斎橋CONPASS 〈UKFC on the Road 2018〉
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THE NOVEMBERS
2018年5月13日(日)新宿BLAZE/新宿LOFT/新宿Marble/新宿MARZ他〈CONNECT 歌舞伎町 MUSIC FESTIVAL〉
2018年5月15日(火)下北沢440〈440(four forty) 16th Anniversary 2man Live “Attractive Alternative”〉 ※小林祐介ソロ出演
2018年5月18日(金)札幌DUCE SAPPORO〈Tour – TODAY -〉
2018年5月27日(日)新潟CLUB RIVERST〈Tour – TODAY -〉
2018年6月9日(土) 梅田Shangri-la〈Tour – TODAY -〉
2018年6月11日(月)岡山CRAZYMAMA 2nd Room〈Tour – TODAY -〉
2018年6月12日(火)福岡The Voodoo Lounge〈Tour – TODAY -〉
2018年6月15日(金)仙台LIVE HOUSE enn2nd〈Tour – TODAY -〉
2018年6月19日(火)池下CLUB UPSET〈Tour – TODAY -〉
2018年6月21日(木)恵比寿LIQUIDROOM〈Tour – TODAY -〉
2018年6月29日(金)埼玉熊谷モルタルレコード2階 〈モルタルレコードpresents~ソングイズライフ特別編~スペシャル2マン”ありそうでなかったリクエスト大会”〉 ※小林祐介ソロ出演
2018年8月22日(水)新木場STUDIO COAST〈UKFC on the Road 2018〉
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