マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ライドと並び〈オリジナル・シューゲイザー御三家〉の一つとして不動の人気を誇るスロウダイヴ。2014年に再結成を果たし、その年の〈FUJI ROCK FESTIVAL〉でも貫禄のステージを見せつけてくれた彼らが今年、前作『Pygmalion』(95年)から実に22年ぶりとなる新作『Slowdive』を引っさげ、ふたたび苗場に降臨した。まるで海面がうねりながら高く高くせり上がっていくような、不安と高揚感が入り混じったギター・アンサンブル。静と動を行き来するようなダイナミズムはモグワイを彷彿させるところもあり、彼らが〈現在進行形のライヴ・バンド〉として、いまもなお進化し続けていることを証明するような素晴らしいステージだった。
一方、フィードバック・ノイズを美しくデザインし、ロックンロールのフォーマットで鳴らすバンドとしては日本で最高峰に位置するTHE NOVEMBERS。スロウダイヴに多大なる影響を受けたという彼らもまた、〈フジロック〉3日目のトップ・バッターとしてホワイト・ステージに登場し、素晴らしいパフォーマンスを見せつけてくれた。
今回Mikikiでは、そんなスロウダイヴのフロントマンであるニール・ハルステッド(ヴォーカル/ギター)とニック・チャップリン(ベース)、そしてTHE NOVEMBERSの小林祐介(ヴォーカル/ギター)による鼎談を苗場にて敢行。たったいま、ライヴを終えたばかりの小林が、スロウダイヴへの思いの丈をぶつけるところから、対話はスタートした。
★シューゲイザーは鳴り止まない―マイブラ奇跡の復活劇、スロウダイヴとライドが奏でる新境地のフィードバック・ノイズ
★シューゲイザーに人生狂わされたふたり、菅野結以×小林祐介(THE NOVEMBERS)が語る〈愛なき轟音〉と価値観の揺らぎ
スロウダイヴは神聖な場所にいるバンドだと感じた
――まずは小林さんが、スロウダイヴの音楽と出会った経緯を教えてもらえますか?
小林祐介(THE NOVEMBERS)「初めてスロウダイヴを聴いたのは確か18歳の頃、大学に進学した年でした。それまでは海外の音楽だと、キュアーやジョイ・ディヴィジョンなど80年代のニューウェイヴ、ポスト・パンクが大好きだったのが、ものすごく音楽に詳しい友人と大学で出会い、彼からマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライド、チャプターハウス、そしてスロウダイヴを教えてもらって。そのおかげで自分の世界が一気に広がるきっかけになったんですよね」
――スロウダイヴのどのあたりに惹かれましたか?
小林「それまでに聴いたことのないサウンドだったというところです。例えば破壊的なノイズとか、サイケデリックな音像というものは、これまでにもフィードバック・ノイズを用いて表現されてきたと思うんですよね。でも、スロウダイヴのフィードバック・ノイズには、コクトー・ツインズにも近い神聖さ、ホーリーな要素を強く感じるんです。まるで時間が止まってしまったような、神秘的なサウンドスケープというのは、他のどのバンドとも違うなと。例えばライドには、もう少しロックンロール・バンドとしてのカッコよさがあるじゃないですか。スロウダイヴはそれとも違う、神聖な場所にいるバンドという印象だったんですよね」
ニール・ハルステッド(スロウダイヴ)「ありがとう。君が言うように僕らはコクトー・ツインズからはものすごく影響を受けたよ。それに、君が好きだったキュアーやジョイ・ディヴィジョンは僕らも大好きだ。他にもピンク・フロイドやカン、ソニック・ユース、ジーザス・アンド・メリーチェイン……色んな音楽から影響を受けたからこそ、いわゆる典型的なロック・バンドとは違う、ユニークなサウンドを確立することができたのだと思う」
ニック・チャップリン(スロウダイヴ)「そうだね。最初の頃の僕らは、実はもう少しロックンロールっぽいサウンドだったし、そう言う意味では他のバンドと似たり寄ったりだったと思う。でも、クリエイションから最初のEP『Slowdive』(90年)を出す時に、〈自分たちが本当に好きな音楽は何か?〉と言うことに真剣に向き合い、自分たち自身にインスピレーションを与えることで、僕らなりのサウンドを築き上げられたんだ」
小林「いま、ニールさんが挙げたバンドは僕も好きでした。それを考えると、自分たちやスロウダイヴがやっている音楽に対して聴き手が持つ印象の奥には本当に豊穣なルーツが流れていて、表に出ている部分っていうのは、ごくわずかなんだなって思いましたね。そして、そのバックグラウンドが広くて深いほど、表に出ているものが例えシンプルでも一辺倒にならず、美しいものになる」
ニック「そうだね。インプットしたものをそのままアウトプットにしているのではなく、自分たちなりのフィルターを通しているからこそ、僕らと君たちとではまったく違うサウンドになっているのだと思う」
僕らはいまでも友達同士なんだ
――スロウダイヴは元々、幼馴染だったニールとレイチェル(・ゴスウェル)により結成され、その後加入したメンバーとももう長い付き合いですよね。
ニール「そう、僕とレイチェルは14歳のときから一緒にバンドをやっていたし、他のメンバーも高校生くらいの頃に出会っているから長い付き合いだよ。みんな音楽の趣味が似ているから、誰かのライヴに行くと必ず顔を合わせるようになって、それで意気投合するケースが多かったな」
ニック「あれから随分経つけど、僕らの関係性は特に大きくは変わらないね。もちろん歳は取ったけど、それぞれの性格やキャラクターはずっと同じ気がする。いまでも友人同士だしね。バンドによっては、ステージを降りるとまったくの他人同士とか、ツアーへ行っても別々に行動することって多いみたいだけど、僕らはみんなで一緒にディナーを食べたり、バーへ出向いて話し込んだり、すごく仲が良いんだよ」
――THE NOVEMBERSも小林さんと、高校時代の友人だった高松(浩史)さんとで始めたバンドです。今日の〈フジロック〉でのライヴを観ていても、非常に強い絆がステージからもひしひしと伝わってきたというか。構築されたアンサンブルと、それをぶち壊すようなケンゴマツモトさんのギター、小林さんの咆哮がギリギリのバランスで成り立っているのは、メンバー間の信頼があってこそだと思いました。
小林「僕たちも、スロウダイヴと同じでメンバー間の関係性って、デビュー当時からそんなに変わっていなくて。若い頃には幼稚っぽい喧嘩もしていたけど、そういうのが大人になって落ち着いてきたくらいで、基本的にはずっと仲が良くて友達のままなんですよね」
ニック「僕らはいまだにしょっちゅう喧嘩しているよ。夕飯を何にするかで揉めたりさ」
小林「フフフ(笑)」
〈音楽を作り続ける人生〉をより大事に考えるようになった
――スロウダイヴの活動において、ターニング・ポイントとなったのはどのタイミングでしょうか? 個人的にはブライアン・イーノと出会ったセカンド・アルバム『Souvlaki』(93年)が、ニールのコンポーザーとしての才能が開花したアルバムだと思っているのですが。
ニール「うーん、どこか一つ大きなターニング・ポイントがあって、そこでバンドの潮目が変わったとは思っていなくて。僕らは曲を作るたび、アルバムを出すたびにどんどん変化していったと思うし、そういう意味では毎日がターニング・ポイントとも言えるよね。例えば二十代前半の若い頃って、いろんな音楽をどんどん吸収するし、それがそのまま自分たちの作品にフィードバックされる。なので、その時期にどんな音楽が好きだったかが曲を聴けばわかるんだ。イーノに出会ってアンビエントを知れば、その要素を採り入れたくなるし、エクスペリメントなサウンドもどんどん試したくなる。そうやって、徐々に変化してきたのだと思うよ」
ニック「確かに若い頃は、インプットしたものを翌日にはアウトプットしたがったけれども、歳を重ねるに従って落ち着いてきたというか、時間をかけて消化するようになっていったよね。そこはバンド内の大きな変化かも知れない」
――THE NOVEMBERSはどうでした?
小林「僕らもスロウダイヴと同じで、曲作りやサウンド面での大きなターニング・ポイントは特にないのですが、2013年に独立して、自分たちでレーベルを立ち上げバンドのマネージメントもするようになり、完全にインディペンデントになったことで、意識的には大きく変わりました。そこから、〈音楽を作り続ける人生〉をより大事に考えるようになり、ものすごく情熱を込めて作品を作るようになったというか。それはバンドだけでなく、自分の人生の大きなターニング・ポイントだったかも知れないですね」
ニール「なるほど。確かに僕らもクリエイションと契約したことは、バンドにとって大きなターニング・ポイントだったかもしれない。当時はビックリしたね。まだ結成したばっかりの若造だったし、ライヴもさほどやっていなかったのに、アラン(・マッギー)が僕らに興味を持ってくれたことが、最初は信じられなかった。電話がかかってきたときはイタズラかと思ったよ(笑)。だって当時はクリエイションか4ADと契約することが夢だったのだから」
ニック「そんな憧れのレーベルをのちに離れることになったのは、僕らの決断ではなかった。僕らが作品ごとに変化していったように、クリエイションもどんどん変化していったわけで、例えば『Pygmalion』を作った95年といえば、オアシスもデビューしていたし、プライマル・スクリームも『Give Out But Don't Give Up』をリリースして、初期のサウンドからは大きく変化していた。つまり僕らみたいな作品を、アランはもう欲していなかったんだよね。リリースはしてもらったんだけど、結局それが最後の作品となってしまったんだ」