Instagramで世界中に14万人を超えるフォロワーを持つ16歳のファッショニスタ、甲田まひる。〈Mappy〉の愛称で知られる彼女には、もうひとつ顔がある。バド・パウエルを敬愛する〈本格派ジャズ・ピアニスト〉という顔だ。いや、むしろこう表現すべきだろう。〈幼い頃、ビバップに恋して腕を磨いてきた女の子が、卓越したセンスでファッション界からも注目されている〉と――。

  「5歳の頃、ヤマハ音楽教室でクラシック・ピアノを習いはじめたんです。その後専門コースに上がると、先生がクラシック曲をジャズ風やラテン風にアレンジしてくれて。毎年、グループでコンテストに出ていました。それでテンションが入った和音やジャズのノリが大好きになって……。8歳か9歳のとき、お母さんと図書館でジャズの名盤をいっぱい借りてきたんですね。そこでバド・パウエルとセロニアス・モンクに衝撃を受けて、YouTubeでも映像を観まくった(笑)。どうしても自分で弾きたくなったので、2人のCDをひたすら聴き込んで耳コピし、それをスコアに起こす作業をするようになりました」。

甲田まひる a.k.a. Mappy PLANKTON TBM(2018)

 ジャズへの思いは、それほど深くて強い。小学校時代に開設したインスタのアカウントが〈@bopmappy〉だったことからも、彼女の本気度は伝わってくる。今回リリースの『PLANKTON』はそんなMappyのデビュー作。ぜひ先入観なしで聴いてみてほしい。荒削りだが確信に満ちたタッチと、十代ならではの疾走感、そして何より溢れる歓びとエモーションに耳を奪われるはずだ。

 「バドの“ウン・ポコ・ローコ”や“クレオパトラの夢”など、CDを出すなら絶対これは入れたいというお気に入り曲を中心に、あとは(渡辺)康蔵プロデューサーと相談して選びました。8曲目の“テンパス・フュージット”は私が初めて耳でコピーしたバドの曲なんです(笑)。今回レコーディングに備えて練習するなかで、改めてその凄さに圧倒される感覚がありましたね」。

 誰もが知るビバップの名曲に加え、2曲のオリジナルも収録。表題曲の“プランクトン”は、ハービー・ハンコックなど〈60年代新主流派〉を思わせるモダンな響きのミディアム・ナンバー。ラストを飾る“マイ・クラッシュ”はループ感のあるビートが印象的で、R&Bやヒップホップと繋がった最新形ジャズの肌触りを強く感じさせる。

 「必ずしもビバップだけにこだわってるわけではないんです。もちろん、子どもの頃から好きで演奏してきた音楽なので、無意識に身体に染み込んでる部分はあると思う。でも私は、やっぱりそのときおもしろいと感じたことを追求したいタイプなので(笑)。たまたまこの1年、ジャズ以外の音楽をいっぱい聴くようになったこともあって。できればビバップ以外の要素も入れたかった。その意味で今回このメンバーでレコーディングができたのは本当に幸せだったと思います」。

 こう彼女が振り返るように、トリオの編成も素晴らしい。ドラムスは、いま日本のジャズ界で最注目の若手で、アニメ「坂道のアポロン」では川渕仙太郎役の演奏/モーションも担当した石若駿。ベースは話題のミクスチャー・スタイル・バンド、King Gnuのメンバーでもある新井和輝。どちらもジャズだけでなく、ジャンルを越境して活躍する才能豊かなミュージシャンだ。

 「レコーディング中、すべての瞬間に刺激を受けていた気がします(笑)。お二人とも演奏技術だけじゃなく対応力とか瞬発力もすごくて……。私が書いたオリジナルについては、やりたい雰囲気をすぐに察してくれたし。ビバップのカバーを演奏するうえでもいろいろなアイデアを出し合って……。この3人でしかできない音楽を作れた。何だろう、見え方はビバップでも、自分の中では現在進行形の何かを録音できたんじゃないのかなと思うんです」。

 


甲田まひる a.k.a. Mappy
2001年生まれのファッショニスタ、ジャズ・ピアニスト。沖縄出身の東京育ちで、幼少の頃からクラシックやジャズなど多様な音楽に親しむ。小学6年生の時に始めたInstagramをきっかけにファッション・スナップ・サイトでデビュー。並行してさまざまな雑誌のストリート・スナップにも登場。業界の注目を集め、〈東京コレクション〉のフロントロウに招待される。ファッション誌の連載やモデルとしても活動する傍ら、2017年から都内のライヴハウスを中心にジャズ・ピアニストとしての活動をスタートする。今年に入って、4月にメジャー・デビューを発表。17歳の誕生日前夜にあたる5月23日にデビュー・アルバム『PLANKTON』(TBM)をリリースしたばかり。