期待のシンガー・ソングライターが自らのルーツと向き合ったヴィンテージな傑作

 夢見るようにロマンティックで、輝くほどにノスタルジック。キャット・エドモンソンの最新作『オールド・ファッションド・ギャル』は、50年代のニューヨークが持っていた華やかさがそのまま音になったよう。ミュージカルや映画のワンシーンが浮かんでくるような曲作りは、ミッチェル・フルームをプロデューサーに迎えた前作『ビッグ・ピクチャー』からの流れを汲んでいるようにも思えるけれど、「埋もれてしまっていた古いスタンダード・ナンバーを掘り起こして集めました」と言われても信じてしまいそうなほどのヴィンテージな質感は、明らかに本作ならではのもの。「50年代やそれ以前のミュージカルが自分の原点」と語る彼女のルーツ志向が、まるで何かが吹っ切れたように、真っ直ぐに伝わってくる。

KAT EDMONSON 『Old Fashioned Gal』 Spinnerette/ソニー(2018)

 「前作も曲は全部オリジナルだけど、サウンドに関してはまだ自分の中で〈これだ!〉という確信が持てなくて、ミッチェルと一緒に作っている感じだった。だけど今回は自分がどういう音を作りたいのか最初からはっきりしていたので、自分でプロデュースすることにしたの」という彼女は、親しいミュージシャンたちとリラックスしつつも妥協は一切せず、一曲一曲を丁寧に作り上げていった。

 ゆったりしたスイングのリズムに優雅なストリングス(本作でピアノを弾くマット・レイによるアレンジが素敵!)が乗る小粋なラヴソング“スパークル・アンド・シャイン”、古風でシンプルな恋愛を望む気持ちをピアノとのデュオでじっくりと聴かせるタイトル曲(彼女が敬愛するブロッサム・ディアリーをイメージして作ったという)など、前述のようにスタンダード然とした楽曲が並ぶ。中でも出色なのは、ミニマムなピアノと穏やかなスキャットがたゆたう“グッドバイ・ブルース”。ブルースとは、2015年に亡くなったブルーノート・レーベル復活の立役者、ブルース・ランドヴァルのこと。彼女にとってはメンター的な存在だったという。

 「ブルースは私のことをデビュー当時から応援してくれて、アルバム全体のストーリーも彼から大きな影響を受けているわ。彼の逝去を知ったとき、ひとりで公園に行って、彼に寄り添うような気持ちでこの曲を書いたの。この曲はアルバムのハイライトね」

 ノスタルジック=懐古主義なのでは決してなく、好きな音楽に対するエドモンソンのあくなき追求心と、現在を全力で肯定する前向きなアティテュード、そしてアーティストとしての確固たる信念が凝縮されたもの。5月にブルーノート東京で行われた来日公演を観るにつけ、その想いはさらに強まった。