Photo by Takuo Sato

ライル・ラヴェットの音楽的血筋を引いた姪っ子

 パリの路上で「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン!」と叫ぶジーン・セバーグ、〈スウィンギング・ロンドン〉のアイコンとしてのツィッギー、そしてジバンシィの衣装に身を包んだ『シャレード』のオードリー・ヘプバーン。彼女たちのイメージを掛け合わせたような女性が、古い一眼レフカメラを手にしてこちらを見つめている。まるで60年代の「Vogue」誌のグラビアであるかのようなジャケットが物語っているように、『ビッグ・ピクチャー』は昔の映画音楽の要素を含む〈ヴィンテージ・ポップ〉のアルバムだ。

KAT EDMONSON 『The Big Picture』 Masterworks/ソニー(2014)

 「子供の頃から50~60年代の映画が好きで、よく観ていたの。で、そうした映画を通じてヘンリー・マンシーニやニール・ヘフティの音楽が好きになった。私はファースト・アルバムで『シャレード』の主題歌をカヴァーしているけど、あの映画はミステリーとロマンスとコメディのコンビネーション、さらに音楽とファッションの点でも、私にとって完璧な作品です」

 現在キャット・エドモンソンはブルックリンに住んでいるが、生まれはテキサス州。彼女は2010年、同じくテキサス出身のライル・ラヴェットに誘われて一緒に全米をツアーし、翌年にはライルのミニ・アルバムでスタンダードの“Baby, It’s Cold Outside”をデュエットした。逆にキャットの『ウェイ・ダウン・ロウ』では、ライルが招かれて彼女とデュエットしている。ビッグ・バンドを率いて、ジャズとカントリーの折衷的音世界を構築し続けている粋人ライル・ラヴェット。キャットは、彼の、いわば音楽的血筋を引く姪っ子だ。このことを告げると、彼女は微笑んだ。

 「ええ、ライル・ラヴェットは、私の中に何か彼自身と共通するものを感じたんだと思う。ライルは、私がまだ色々な理由で悪戦苦闘していた頃に直接アドヴァイスをして、勇気づけてくれた。おかげで自分に自信を持つことができたので、とても感謝しているわ」

 キャットの話し声は、歌うときとほぼ同じだ。その声はブロッサム・ディアリーがウォーキートーキーを通じて話しているようで、とても可愛らしくて魅力的だが、かつては自分の声が好きじゃなかったと語る。

 「成長するにつれて、だんだん自分の声に慣れてきたという感じね。ただし、もともと私は何故か分からないけど、いわゆる女性っぽい歌声にはさほど惹かれなかった。むしろカーリー・サイモンのような男性的なパワフルな歌声に憧れていたし、あるいはビング・クロスビーやフランク・シナトラ、ナット・キング・コールの潤沢な歌声に惹かれていた。『ビッグ・ピクチャー』では、曲調に合わせて演技するように歌っているときもあるけど、今は自分の歌声が好きよ」