この心地良い音で、どこか遠くまで

 どんどんレーベル・カラーを多彩にしていくPlaywright。その広がりに大きく貢献しているのが、2016年に『アムリタ』でアルバム・デビューを飾り、レーベル設立5周年を祝う2枚組のコンピ『Family Vol.2』(2018年)にももちろん顔を出していた、東京を中心に活動する男女デュオのfreecubeです。ブラジリアン・ミュージックを軸としつつ、ヴォーカル担当のエミコはもともとハウス・シンガーで、ギタリストのc.j.はロックを志向していたというバックグラウンドを持ち、だからこそ生じる〈本場モノ〉との距離感が逆にリスナーを選ばない開かれたサウンドへと結実。そんな〈WORLD pops music〉をテーマに掲げるfreecubeの持ち味は、このたび登場したセカンド・アルバム『cordial』でもたおやかに発揮されています。

freecube cordial Playwright(2018)

 前作からの続投となる山根幸洋(ベース)と岡山晃久(ドラムス/パーカッション)、そして新たに加わった江本翔(ピアノ)という、ジャズ・シーンで活躍するプレイヤーに支えられながら、そよ風のように優しいギターの音色と、体感気温を5度ぐらい下げてくれそうな澄んだ歌声を響かせる2人。日常に潜んだ小さな幸せを鮮やかに浮かび上がらせる冒頭の“うたうなら”、ファンク的な16ビートに乗って虚ろな夜を切り取った“Greenroom”、サンバのリズムに合わせて季節の訪れを祝う“なつのとびら”、喜びと切なさが入り交じる淡い恋心を描いたボサノヴァ・テイストの“泡のように”ほか、日本語の持つ柔らかい語感を大事にしたリリックも素晴らしく、聴き進めていくうちに奥山みなこ『ONE by ONE』やeico『月夜のギター』など、2000年代にflowerから生まれた女性ヴォーカルの名盤たちをぼんやり思い出してしまいました。

 先行公開された“オーガスタ”のMV撮影地のように、綺麗な川が流れる緑豊かな山の中でも間違いなく映えるはずですが、灼けたアスファルトの上に蜃気楼が揺れる大都会の真ん中にいても旅を夢想しながら楽しむのに良さそうな一枚です。日本列島を高気圧が覆い、記録的な暑さが続く2018年の夏。グッタリした心と身体が欲しているのは、『cordial』という名の洗練されたリゾート・トリップなんじゃないでしょうか。