ハリウッド・スター、トム・ハンクスの61歳の小説デビュー作は、地方紙のコラムニストが書いた設定の短文4編や映画の脚本風の1編を含む17編の短編集。各エピソードに共通して登場するのがハンクス自身も年代物の蒐集家だというタイプライター。このタイプライターという懐古的なイメージと、小説に通底する少しだけ理想化された“アメリカ”というモチーフが重なってみえるだろう。但し、それは、映画初監督作『すべてをあなたに』がそうであったように、安易なノスタルジーとは無縁の、人生のひとコマを垣間見るような温かさと奥ゆかしさに溢れている。俳優ハンクス、監督ハンクスのようにチャーミングな小説家ハンクスの誕生を祝福したい。