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ウェス・アンダーソン監督、主演のベニチオ・デル・トロへのインタヴューから見出す、本作のPoint Of View

 ウェス・アンダーソン監督の新作はクライム・ファミリー・コメディです。家族と犯罪をいかに独創的なコメディ映画にするか。また、主役のベニチオ・デル・トロをはじめ、トム・ハンクスやスカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチなどにどんなキャラクターとアクションを託し、さらに、それらスター俳優にミア・スレアプレトン(ケイト・ウィンスレットの娘!)という新人をどう組み合わせるか。そういった要素を映画的なスペクタクルとして見せることを自らのタスクとし、そこに驚愕の回答を提供する映画と言えるでしょう。監督とスタッフのインタビューから、彼らの創造の一端に触れたいと思います。

 まず、主演のベニチオ・デル・トロは登場するオープニングクレジットでのマジカルな演出について語っています。彼が風呂に漬かっているところをオーバーヘッドショット(真上からの俯瞰撮影)で撮ったシーンです。

 「シュールな撮影でした。浴槽に座っている僕のところへウェスがやってきて、〈このシーンはスローモーションで撮影するよ〉と言ったんです。僕は、〈問題ないよ。本を読んだり、考えごとをしたり、飲み物や薬を飲んだりすればいいんだよね?〉と返しました。すると彼は、〈そう、でも芝居はちょっと早回し気味に〉と言うから、僕は混乱しました。〈ちょっと待って。スローモーションで撮るのに、芝居を早回し気味にやったら意味ないんじゃない? 普通のスピードで演じちゃダメなの?〉って聞いたら、ウェスは〈いやいや、違った仕上がりになるんだよ〉って言うんです。で、実際に映像を見て、その意味がわかりました。」

 デル・トロ扮するザ・ザ・コルダは浴槽の中で動かないけれど、その周囲で数人の看護師が歩き回っている。その動きがスローモーションなので、ザ・ザと看護師たちがそれぞれ全く別の時間に存在しているように見える場面です。ザ・ザという怪物的実業家の中に、我々普通の人間と同じ時間が流れているはずはない。それを監督は、アクション、空間、時間を鮮烈に使用したワンシーンとして造形しているんですね。

 そんな超然とした次元に生きる人間が、家族という主題に戻ってくる契機はどこからやって来るのか? たとえば、この映画には多くの有名な絵画が登場します。それについて監督は次のように語ります。

 「これまで多くの作品ではオリジナルでアートを作ってきました。でも今作では最初に〈実物を使ってみよう〉と思ったんです。俳優たちにとっても本物が飾られているということは意味を持つと思いました。画面の中でもセットでも、本物だということを感じるはずです。複製とはやはり違いますし、オーラを放っています。」